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Saturday, July 18

夫の胃の炎症は、レントゲン検査、エコー検査、内視鏡検査(胃カメラ)を行った末、薬の処方と良性ポリープの切除で一応の収束をみた。順調に回復しているので、ほっと一安心。

不安なことや心配事が心に重くのしかかってくると、それに抗うエネルギーを生み出すために疲弊する。そうなるとこれまではあまり本を読む気にも、絵や映画を観る気にもならなかったけれど、最近は、せめて本くらい読まないとやってられない、と思うようになった。これはわたし自身の成長だろうか。

ともかく検査結果とその後の経過は気持ちを大いに軽くするもので、息を吹き返して、本日はうきうきと初台の東京オペラシティアートギャラリーに「鈴木理策写真展 意識の流れ」を観に行った。数ヶ月間というもの、待って待って待ちわびていた展示だ。魂抜かれるほどに素晴らしかった。カメラの知覚と自らの知覚との境界を、自らの意識を総動員させてもがきながら漂う、それはなんと幸福なことだろうか。

今回の展示は《海と山のあいだ》《SAKURA》《White》《水鏡》《Etude》の作品で構成されており、各作品の頭にそれぞれテキストが付されている。

「カメラとは身体の外に知覚を成立させる驚くべき装置。」

「来年咲く桜を思い描く時、過去に出会った桜の記憶によるものなのに、私にはそれが未だ見ぬものに思われる。」

「白い印画紙、白い雪のイメージ。その境界線は私達の側にある。」

「風景とそれを映す水面、両者は写真の中では同じものとしてある。」

「人は写されたイメージに意味を見出そうとする。だが意味が生まれる以前の状態で見ることを示したい。」

いずれも非常に示唆的だけれど、なかでももっともわたしの関心をひくのは最後に挙げた言葉で、写真から単にイメージや意味を読み取るだけの行為にはそれほど魅力を感じなくなっている現在、突き詰めたいのは、ただ目の前に投げ出された写真、レトリックやメタファーなどを読み解く必要もない、そんなことさえ許してくれないような写真に向き合うことであり、その欲望を満たしてくれるのは鈴木理策が示す“意味が生まれる以前の状態で見る”ことのできる作品に他ならない。やはりその最たる作品群は《Etude》である気がして、つい熊野や桜や雪山の写真に目がいきがちだけれど、《Etude》も本当に素晴らしくて、いつまでも飽かず眺めた。

もちろん、他にも興味深い要素はいろいろある。鈴木理策はいったんカメラを据えたらシャッターを押す時にファインダーをのぞかないこともあるとのことで、そうすると、この写された写真は誰のものなのか、作者とは一体何なのか、と考えてしまうし、雪山の写真で試みられている“連続性”についても、試みの真意を問うてしまう。それに、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で行われた、本展示での加瀬亮とのトークセッション ((『鈴木理策写真展 意識の流れ』オープニング・トーク 鈴木理策×加瀬亮))では、鈴木理策は次のように語っていて、

このカメラ(8×10)は磨りガラスに世界が逆さまに写るんですが、とてもきれいで、きらめく光や揺れる枝葉を見ていると時が流れていることを実感して、見尽せないものがそこにあると思えてくるんです。

そんななかでシャッターチャンスのようなものを求めても意味がないと感じるようになって、「今、自分が見ている光景が写真になったらどうなるのか」がポイントになりました。本来、人は行動に必要なものだけを見ていると思うんですが、カメラという機械を通すとズレが生じる。そこが面白いと。レンズは人の知覚を拡大して能力を拡張させるものであって、そこに現れる像はある種の錯覚、イリュージョンなんです。

後半部分は、一連の鈴木理策の作品の核心を突くものであるけれど、冒頭の、“単純にただただきれいだなあ”と感じるということも、とてもいいなあと思った。だって鈴木理策の写真は驚くほどにきれいだ、どうしたらいいかわからないほどに。本当に、どうしたらいいかわからない、と動揺し、興奮しながら、わたしは映像作品の《水鏡》をくり返し3回観た。

鑑賞後、開店時間を待ってfuzkueへ。きょうは念願のカレーを食べた。美味しかった! ビールは最近ずっと「テカテ」を飲んでいる。前日の夜から夢中になって読んでいる、伊地智啓『映画の荒野を走れ』(上野昂志・木村建哉/編、インスクリプト)の続きを読む。

Sunday, July 19

5時過ぎに起床して、クーラーの風にあたりながら、きのう重い思いをしてお持ち帰りした鈴木理策写真展の図録を眺める。きのうの興奮がよみがえる。倉石信乃と鈴木理策の対談など、興味深く読む。理策はネストール・アルメンドロスが大好きらしい! それは知らなかった、知らなかったが、知ってみるとなんだかものすごく納得してしまう。

朝ごはんは、ズッキーニと玉ねぎとトマトのソテーをのせたクロスティーニ(バゲットにはレバーパテを塗った。美味)、グリーンリーフとにんじんのサラダ、ヨーグルト、珈琲。午前中から夕方まで用事を1件済ませ、草臥れる。

先日発売された『きのう何食べた?』最新刊を読んだら無性にホットプレートが欲しくなり、ヨドバシカメラで購入。帰宅後、早速焼肉をする。野菜はズッキーニ、玉ねぎ、もやし。締めに焼きそば。今夜は疲れてしまったのでごくごく簡単にしたが、次回はごはんやナムルも用意しよう。