Saturday, January 18
朝、洋菓子をいくつかと、珈琲。
木場へ。東京都現代美術館で「吉岡徳仁 — クリスタライズ」と「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」を鑑賞。「うさぎスマッシュ展」は期待していなかったわりに楽しめて、レアンドロ・エルリッヒ、フェルナンド・サンチェス・カスティーリョ、リチャード・ウィルソンが抜群に良かった。フェルナンド・サンチェス・カスティーリョの映像作品は、デモ隊などを鎮圧するための放水車2台が音楽に合わせて優雅にダンスを踊るかのように水を撒きながらシンクロして並走するもので、チクリとしたユーモアがあって、面白かった。会場でいちばん長い時間見ていたのはおそらくわたしなのではないかと思われる。
久しぶりのSacra Café.で、ほうれん草とクリームチーズのコロッケプレート(ごはん、かぶのスープ、サラダ、ブロッコリーの胡麻ソースがけとともに)、珈琲、デザートにいちごのロールケーキをいただく。Sacra Café.に来ると必ず本棚をのぞく。このカフェの本棚は不思議だ、すべて読みたくなってしまう。厳選されているうえに、すべてツボを突いてくるからだろうか。『シネマトグラフ覚書』とか『レヴィ=ストロースの庭』とか『映画はもうすぐ百歳になる』とか『モンテーニュ エセー抄』とか。カフェの並びのレンタルDVD店兼古本屋さんが閉店になるとのことで、清岡卓行『アカシヤの大連』と『斎藤茂吉随筆集』を買う。その後、しまぶっくでル・クレジオ『物質的恍惚』、饗庭孝男『西欧と愛』、堀江敏幸『書かれる手』を買う。ああ、どれも読むのが楽しみだけれど、昨年夏からの書籍購入過多の波がまだ続いているようで、本当にちょっと買い過ぎで、我ながら呆れる。体調が優れないストレスと、目の調子が悪くて思うように本が読めないストレスでここ半年くらい本をばかすかと買っているのだけれど、それは少し悲しい。ストレス発散のために本を買うというのはなんかおかしい……。まあ、読めばいいのですが。
六本木まで移動し、国立新美術館で「未来を担う美術家たち 16th DOMANI・明日展」を観る。今回は美術の展示のみならず、建築もある。建築部門は展示の冒頭で展示方法の意図が書かれていて、小さな屋台を集めたバザール風にしたかった、といった意図は理解できるのだけれど、さすがに見づらく見せ方に難あり、といった感じで、ほとんど観ることができなかった。根気が続かなかった。
それで美術部門については、非常に良くて、今回は小笠原美環の絵画作品に出会えたことが幸せだった。本人もインタビューで、ゲルハルト・リヒターやヴィルヘルム・ハンマースホイ、マルレーネ・デュマス、リュック・タイマンスなどから影響を受けている、と語っているように、これらの絵を彷彿とさせるものがあるし、こうした作家が好きな人には必ずや響く画家だと思う。観賞後、ショップで一冊しか置いてなかった、ドイツの出版社から出ている小笠原美環の画集を買い求めた。
ほかにも、徳丸鏡子の陶芸作品と榊原澄人のアニメーション作品が素晴らしかった。インスタレーションとも呼べる榊原澄人のアニメーションは一部屋の長い辺をいっぱいに使って帯状に投影されており、まるで回り灯籠のように画面がゆるやかに切り替わっていく。サーカスや結婚パーティーなどが行われている街の広場、戦場、巨大なクジラが打ち上げられた浜、街を見下ろす森、の4画面だったかと思うが、街広場の祝祭的空間、浜辺の静謐さ、雪深い森から見下ろす俯瞰的な視点など、それぞれのシーンから差し出される要素がひどく胸を揺さぶる。画の作り方も非常にセンスが良い、ように思う。わたしはこういう、鳥の目というか、すべてを一望できる視線というものにとても弱く、魅せられ、陶酔してしまう。そういえばこの作品では自転車に乗った少年が、存在の出現と消失を繰り返しつつ4つのすべてのシーンに登場するのだ。時空間を箱庭的にとらえた、こうした絵画や小説にもっともっと出会いたいのだが。
オオタファインアーツでリナ・バネルジー「私は何でできていて、あなたはどうやって私の名前を知るの?」、ワコウ・ワークス・オブ・アートでヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」、タカ・イシイギャラリーで山元彩香「Nous n’irons plus au bois」、ZEN FOTO GALLERYで須田一政「わが東京」も観て、帰宅。夜は近所の焼鳥屋で、焼鳥いろいろ、ポテトサラダ、鶏雑炊、ビール。鞄に入っている小笠原美環の画集を観たくて、でも汚してしまう危険があるから出せなくて、鞄を少し開けて隙間からちろちろのぞいてにまにました。早くじっくり眺めたい。
Sunday, January 19
朝一番で美容院に行く。わたしの記憶が正しければ、わたしが美容院に出かける朝、雨が降っていたためしがない。眩い陽光を浴びながら朝の人けのない道を歩く。わたしの住む街にも美容院のある街にも、夕べ、雪は降らなかった。今年、まだ雪を見ていない。美容院では、前回行ったとき「なんだか久しぶりにショートヘアにしたい気分が盛り上がってきたのだけれどまだ決断する勇気がないからとりあえずショートに近い短めのボブヘアで」とお願いしたのだけれど、年を越す間に気が変わって、今回は「やはり長めのボブスタイルを続けたくなったので、再び延ばす方向で、伸びた部分を切り揃えるだけで」とお願いした。
美容院と雑用を済ませてから新宿へ。BOWLS cafeでカレーライスを食べる。紀伊國屋書店に行き、岩波文庫から刊行されたジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』を買う。あと、なにやらみんな読んでるように思える、多和田葉子の『言葉と歩く日記』も買った。開演時間まで『言葉と歩く日記』を読み、15時からK’s cinemaで、待ちに待ったHal is Back!ハル・ハートリー監督4作品一挙上映のなかから『アンビリーバブル・トゥルース』(1989年、アメリカ)を観る。1990年代初頭にオリーブだったかセブンティーンだったか、おそらくオリーブだったか、で『トラスト・ミー』のスチールを見て心奪われてから幾星霜。やっとスクリーンでハートリー作品を観ることができて感激、打ち震えております(とはいえ今回諸般の事情により『トラスト・ミー』の上映は無し。無念)。
あー面白かった、いいもの観た、と各シーンを反芻しながら帰宅。帰ったらポストには『クウネル』(マガジンハウス)が届いていた。夜は劇場で買ったハル・ハートリーのプログラムを読みながら、お寿司とアボカドサラダとビール。