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Wednesday, January 1

元日の朝。夜中、午前3時前に一度目が覚め、ラジオをつけて、しばらく聴いて、ラジオを消してまた眠り、4時前に再び目が覚め、薬を飲んで、など寝たり起きたりをくり返していたから朝起きられるか不安だったけれど、午前5時半に起床し、日の出時刻直前の6時45分にマンションの屋上まで初日の出を見に行った。

朝は毎年恒例、こじんまりとしたお重、フィンランド・アラビア社のお皿、ポーランドの陶器「ポーリッシュポター」のビアマグをテーブルに並べ、おせち料理とお雑煮を食べる。今年のおせちは、鮭の昆布巻、黒豆とチョロギ、紅白なます、たつくり、卵焼き、うずらの卵、さやえんどう、菊花かぶ、紅白かまぼこ、伊達巻。かまぼこと伊達巻は市販のもの。今年は少し種類も量も減らした。それでも冷蔵庫には残りを詰めたタッパーがたくさん。栗があまり好きではないので栗きんとんを無視し続けているが、おせちにはやっぱりあったほうがいいのだろうな。しかしつくるのがとても難しいということを一応知っているので、来年は美味しいのを買ってみようかなと思う。あとビアマグで熱燗を飲むのも正直しんどい。徳利とお猪口を買ったほうがいいのだろうか。でも日本酒はお正月しか飲まないからなあ……と正月早々物欲に苛まれる。そういえば昨年はつくづくじぶんの物欲の強さに感じ入った年だった。個人差はあろうが、若い頃は何でもかんでも欲しくなっちゃうというところがあると思うのだけれど、わたしくらいの歳になるとだんだん物欲も落ち着いてきて、たとえば誕生日に何が欲しいかと訊かれて何も思い浮かばなかった、という話をちらほら聞く。わたしなんてそんなこと訊かれて数えだしたら欲しいものがありすぎて十本の指ではとても足りない。それにしてもお雑煮は毎年美味しくつくれるようになって、嬉しい。わたしのお雑煮には鶏肉、ちくわ、なると、長ねぎ、せり、お餅が入っている(ちくわは今年割愛)。七味唐辛子を山ほどふりかけて食べる。

夜中に幾度か目が覚めて変な寝方をしてしまったので、食事の後、しばしうたた寝。むくりと起き出して『ローマでアモーレ』(ウディ・アレン監督、2012年、アメリカ・イタリア・スペイン)、『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン監督、2012年、アメリカ)、『晩春』(小津安二郎監督、1949年、二本)、を観る。『ローマでアモーレ』を観たら赤ワインが飲みたくなったので飲み、『晩春』を観たら日本酒が飲みたくなったので、そろそろ夕餉の時刻だし、ということで朝と同じ献立を食べ、日本酒を飲んだ。この世は映画とお酒でまわっている。

ウディ・アレンはもう大好きで、もう神様、というかこの人のつくる作品は重要有形文化財、この人の映画術は重要無形文化財で、もう人間国宝だと思っていて、この世から絶やしちゃいかん、この人の芸を、と思っているのだけれど、いまウディ・アレンて、どうなんだろう。まあ、どうであっても、好きなものは好きなのだからいいか。『ローマでアモーレ』は新年一発目にふさわしい、楽しい作品で大変満足した。それにひきかえ『ムーンライズ・キングダム』はけっこう退屈してしまった。画は抜群に綺麗だが、つくりものの綺麗さというか、映画にはそういう美しさがあって然るべきで、そういう美しさに魅せられる作品ももちろんあるのだけれど、この『ムーンライズ・キングダム』のなかでたとえば森の木々が風でそよぐ場面があったとする。実際あった。砂浜にさざ波が寄せる場面があったとする。これも実際あった。そのことになんだか違和感をおぼえてしまう。映画とは運動であるのに、その“運動”を見いだしたときに違和を感じてしまう。映画とは運動であるのに! けっこう退屈で、けっこう残念で、でも、観てよかったことはたしかだった。あと小津安二郎はサイレント映画も含め、未見のものも含め、今年はだーっと観ていきたいと思っている。

食後、『コントラクト・キラー』(アキ・カウリスマキ監督、1990年、フィンランド・スウェーデン)を観て、就寝。

Thursday, January 2

初夢というものに興味がないので、いつの夜に見た夢を初夢というのか知らない。だいいち大晦日の夜あたりから全然夢を見ないし、見たとしても心底どうでもいいような内容の夢だったのですぐに忘れてしまった。

朝5時半起床。日記を書く。朝ごはんはクロワッサン、ヨーグルト、珈琲。毎年1月2日は東京都写真美術館が無料展示の日なので、恒例の写美初めに出かける。

その前にデパート地下の食料品売り場で買い物客に揉まれながら買い物し、明治神宮にわらわらと吸い込まれていく人々の流れを電車のなかから眺める。毎年変わらない日本のお正月の風景が愛しく思える瞬間だが、それも束の間、本当にこの国はこれからどうなっていくのだろうか、とわりと真剣に思う。

写美に着いたらまず、(正解なんて誰にでもわかるわかりやすい)クイズに正解するともれなくプレゼントがもらえる「おめでとう写美クイズ」に回答し、くじをひいた。昨年は大当たりで卓上カレンダーを獲得したが、今年は残念、2年連続ならず。それでもポストカードが当たった。ほしかったなあ、カレンダー。その後、「植田正治とジャック・アンリ・ラルティーグ -写真であそぶ-」、「路上から世界を変えていく 日本の新進作家vol.12」、「高谷史郎 明るい部屋」を鑑賞。ジャック・アンリ・ラルティーグ、良かったなあ。高谷史郎はやはり評判の高かった、湖や岩場の撮影映像を分解して8枚のスクリーンで映し出すインスタレーション「Toposcan」に目を凝らした。この人についてはもっとよく知りたい。

Friday, January 3

朝ごはん、バゲット、ヨーグルト、珈琲。きょうは新宿でKさんと新年会。「Brooklyn Parlor」でジョナス・メカスのDVDボックス購入にまつわるエトセトラや、銀座のギャラリーのめぐり方、だめな映画だとわかっていてなぜあえて観に行くのか、などなど、の話で盛り上がる。年をまたいでもKさんはチャーミングで知的でジェントルな方でございました。

Saturday, January 4

そういえばきのうの午前中は小西康陽のブログ記事「映画メモ・2013年」 [1]に関するつぶやきがタイムラインに後から後から流れてきたのだった。小西さん、「2013年は533本の映画を劇場で観た」とのこと。シネフィルの方々はシネマヴェーラや神保町シアターなんかでしょっちゅう会っているのでは。きょうの自宅シネマは、『ラヴィ・ド・ボエーム』(アキ・カウリスマキ監督、1992年、フィンランド)と『ストーカー』(アンドレイ・タルコフスキー監督、1979年、ソ連)。お昼はカレー。カレー初め。夜ごはんは、バゲット、オリーブペースト、アボカドサラダ、赤ワイン。

Sunday, January 5

午前5時半に起きる。風が強く吹いている。日の出時刻に合わせてカーテンを開けたら、窓から見える教会の屋根の上の空が赤と紫に染まっていた。朝ごはんは、いただきもののチョコレートケーキ、ヨーグルト、珈琲。食後、食材の買い出しに行く。スーパーはお正月商品が消えて日常が戻ってきていた。ほっとする。お正月は本当に苦手なので、毎年済んでくれると心からほっとする。日常がいちばん。お昼は、鶏肉、長ねぎ、豆腐、卵、おせちの残りの鮭の昆布巻をのせた温かいうどんをお腹いっぱい。夜は近所のカフェにて、キッシュ、鶏のささみと白菜のマリネ、キーマカレー、赤ワインとベルギービールを1杯ずつ。

  1. honeyee.com Web Magazine: YASUHARU KONISHI BLOG「映画メモ・2013年」 []