Monday, June 10
月曜日。ねむい月曜日。「ね」「む」「い」。この文字の並びは本当に眠そうに見える。本棚に並ぶチェーホフの『カシタンカ・ねむい』を眺めていると本当に眠くなるようだ、といつも思う。午前4時半起床。先週は毎日、4時台に起床できた。今朝は起きても眠くてたまらず、30分ほどうたた寝、というか二度寝してしまった。すでに午前6時頃から蒸し暑く、蒸し暑く、そして蒸し暑い。フィリピン付近の台風の影響らしい。一日蒸し暑くてツラい。夕ごはんは、ベーコン、茄子、ズッキーニ、ミニトマトをどさどさ入れたあさりのパスタ、蒸し茄子の薬味ソースがけ(昨日の残り)、赤ワイン。食後にビールを飲みながらポテトサラダをつくる。美味。『日本映画史100年』(四方田犬彦、集英社新書/集英社)読了。
Tuesday, June 11
空は薄曇り、きょうも蒸し暑いが、午前4時半、窓を開け放つと冷たい風が足元に吹きよせてくる。朝の食卓。机に並ぶのは、くるみパン、グリーンリーフとスナップエンドウと玉ねぎとコーンのサラダ、ヨーグルト、珈琲、とお馴染みの献立だけれど、週末買ったトルコ桔梗が鮮やかで美しく、目を奪われる。白い花を見れば白い花いいなと思うし、紅い花を見れば紅い花いいなと思うし、黄色い花を見れば黄色い花いいなと思うし、紫の花を見れば紫の花いいなと思うし、わたしには何に対してもわりとそういうところがある。ポツポツ雨降りで、いよいよ梅雨らしくなってきた。夕方、ああ、雨と夕暮れ時のいい匂い、と外気を吸い込んで、スーパーに入って買い物して出てきたら強い雨が降っていたので、先日スライサーと一緒に東急ハンズで買った新しい折りたたみ傘をおろした。ここ幾日、ずっと雨をかすめて過ごしてきたけれどついに降られたか。梅雨ですなあ。
帰宅して食事の支度。BGMは当然のように「capriciu sound track 雨音篇」を。夕ごはんは、ごはん(明太子としらすをのせて)、油揚げとミョウガとわかめの味噌汁、ホッケ(小ねぎをのせて、レモンを絞って)、昆布巻き蒲鉾(わさび醤油で)、冷やしトマト(スライスした玉ねぎをのせて、岩塩をふって)、ひじきの煮物、ビール。
きょうは一日怠く、眠くてぼーっとして、週末の疲れを引きずっているようだった。寝床に野又穫『Elements-あちら、こちら、かけら』(青幻舎)を持ち込んで眺める。この本は2011年4月から新聞の連載コラムの挿絵として使われた小さな絵の作品集なのだけど、ということはこれらの作品に取りかかった直後に震災が起こったわけで、すべての絵に添えられたふたこと、みことの言葉を追っていくと、震災が作者にどのような影響を与えたか、作者が震災とどのように向き合わざるを得なかったかがわかる。
幾何形体の街。意味のあるものを描く気にならず、浮き上がる球体を描く。
暗闇を照らす光が欲しかった。久々に描いてみたが、光が足りない。
絵もなしにこうした言葉をここに引くことに意味があるかわからないけれど、こうした言葉が集まるなか、
ゴッホのペン画を思い出しながら、広がる緑を鉛筆で描く。
という一文が寄り添う、麦畑のなかにぽかんと池? 湖? 水の塊が平べったく広がる絵がとても好き。
Wednesday, June 12
夕べ早く寝たので、午前4時ちょっと前には目が覚めてしまった。いくらなんでも早すぎる、とぎゅっと目をつぶっても再び眠ることはできなかった。少しして目を開けたら、カーテンの向こう側には薄明かり。4時半過ぎに起きる。夜は、家でカレーライスとビールの夕ごはんを済ませてから下高井戸シネマに向かう。夜の映画館にしゅるしゅると人が吸い込まれていく。小雨降るなか、光の粒子が踊るスクリーンを見つめんとする人々と『ローラ』(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、1981年、西ドイツ)を観る。これはもう全編酩酊してまーすって感じの映画だなあ。ストーリーはゆるいし、なかなか人物関係が把握できない。最終的には楽しめたけど、始まって相当長い間モッタラモッタラ感じてしまって、3分の2くらいからやっとドライブが掛かってきて、観ているこちらの気持ちも盛り上がってきた。0時過ぎに帰宅。最近、午後10半頃には寝てしまうことが多かったので、午前1時就寝はツラい。さっさとやることを済ませ、眠りにまみれた。
Thursday, June 13
午前6時過ぎ起床。眠い、眠いよう。夜の食事のために下拵えをしておく。干ししいたけを戻してみじん切り。長ねぎを刻み、トマトもカットしておく。朝の台所にしいたけのいい香りがふわりと。午前11時、無性にビールが飲みたくなる。ぐっとこらえる。
夕刻、朝に下拵えしておいた食材を使ってごはんをつくる。きょうは手作り焼売だ。しいたけと長ねぎをたっぷり入れた挽肉を焼売の皮で包んで、蒸篭でホカホカ蒸す。適当な味付けだったけど美味しくできた。というか焼売はわりと誰でも美味しくできると思う。あと、ごはん(韓国海苔とともに)、トマトときくらげの中華風スープ、ビールをいただく。ほんとは紹興酒が飲みたいところだけど、午前中から渇望していたビールが飲めたのだからよしとする。喜々として1.5リットル摂取する。まあ1.5リットルなんて可愛いもんだ。食後、油揚げが少し残っていたことを思い出して、めんつゆと砂糖で煮ておく。ほんとはしいたけも一緒に煮ておいて、それを肴にすればいくらでもごはんとビールがススムくん、になるのだけど、まあきょうのところは油揚げだけにしといたる。
10年ぶりくらいに読み返したくなって、『暢気眼鏡・虫のいろいろ』(尾崎一雄/著、岩波文庫)を読み始める。窓辺で、窓全開にして読んでいたら、むき出しの肩と腕がキンキンに冷えた。
Friday, June 14
午前4時半に一度目覚めたものの、二度寝して、6時起床。疲れを引きずっている。なのに今夜もファスビンダーを見に行く予定だ。
『図書』(岩波書店)2013年6月号を読む。『図書』は、いつもまず見返し、見返しというと違うのか、表2の表紙の説明を読んで1ページ目を読んでからいそいそと蜂飼耳を読む。そのあと最初に戻ってはじめから読む。最初に戻る前に巻末の新刊情報を読むこともある。今月も変わらず充実の一冊。川崎賢子の久生十蘭について書かれた文章、長沼毅「水の世紀の戦争と平和」などとても面白かった。こういう、わかりやすく読みやすい文章で理科系の話が読めたらいいな。本当に理系に弱いので。
お昼前から頭痛、夕方まで続く。薬を飲んでしばし横になる。
夜は下高井戸へ。きょうはピザの美味しい、駅前のトニーノで夕ごはん。下高井戸シネマにくるたびに前を通っているが、なかなか入る機会がなくて、ここで食べるのは5~6年ぶりだろうか。サラダと本日おすすめのピザ(生ハムがてんこ盛り)、ガス入りのミネラルウォーターを注文して満腹に。食べながら、ファスビンダーは男女の恋愛の心の動きには重きを置いてないのでは、機微とかあんまりなさそう、男女が惹かれあって結ばれるまでが強引で紋切り型だ、という感想を述べ合う。
『マルタ』(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、1975年、西ドイツ)を観る。恐い、恐ろしい。サディストの夫を持った女性の悲劇。でもまあわりとこのての話はあるし、今回、ファスビンダーはわりと普通に撮ってる。執拗に細かいカット割りや変な音楽を入れてない。だからドラマとしてはわりと普通だ。しかしピザを食べながら話したように、今回もヒロインとサディスト男がなぜ惹かれ合ったのかはわからないけれど、2人の出会いが運命的で決定的であるということを、2人が初めて出会うシーンで、酩酊しているかのようなエキセントリックなカメラワークでとらえて意味づけをした。それがとても面白かった。相変わらずヒロインのファッションが可愛くて楽しい。
これでファスビンダーはユーロスペースで上映されたけど観逃した3本、そしてVHSで『リリー・マルレーン』を観ることができて、『ベルリン・アレクサンダー広場』も観たいけれど、あの長尺じゃあ、悔しいけれど時間と体力の折り合いがつかない。時間も体力も有限だ。残念ながら。
Saturday, June 15
午前6時起床。雨の予報だったのに、なんと晴れている。洗濯すべきだったか、と思うも7時頃、曇ってきた。夕べ観た怪作『マルタ』が頭から離れない。いろいろなシーンが思い出される。ファスビンダーで最も完成度が高い作品は『マリア・ブラウンの結婚』かと思うのだけれど(全作品観たわけじゃないけど)、なんだかいちばん印象に残ったのはこの一本であるようだ。
図書館に予約していた本を取りに行って、食材の買い出しに出る。めずらしく土曜の午前中にスーパーに行ったが、この時間、意外と混んでる。すっかり晴れて蒸し暑いことこのうえない。これが梅雨の晴れ間。ソーセージ、トマトとグリーンリーフのサラダ、ザワークラウト、バゲット、ビールで昼食をとる。引き続きビールを飲みながら肉じゃがとにんじんのピクルスをつくる。肉じゃがは美味しすぎて味見だけでお腹が膨れそうになった。にんじんのピクルスは、いままでグレーターですりおろすか、包丁で拍子切りにすることが多かったけれど、大好きなCAFE.Zのまねをしてピーラーで薄く向き、帯状にしてみた。わたしのつくるピクルスはいろいろ試してみた結果、『きのう何食べた?』の第6巻に出てくる簡単ピクルスレシピを参考にしている。簡単に、日常的につくれるのがいちばんだ。いくらたくさんこしらえても悲しいくらいあっというまに食べてしまうのだから。
台所仕事がひと段落してから、近所のお気に入りのカフェへ。じりじりむわむわ蒸し暑く、微温湯の中を歩いているよう。カフェではほとんどの人が静かに本を読んでいた。たくさん持ってきて机に積み上げている人もいる。なんていい眺めだろう、いいカフェだなあ! わたしはというとアイスコーヒー飲みながら『芸術新潮』4月号(新潮社)のフランシス・ベーコン特集を読み、途中眠くなって少し居眠りした。
帰宅して、マルクス兄弟の『オペラは踊る』(サム・ウッド監督、1936年、アメリカ)と『結婚哲学』(エルンスト・ルビッチ監督、1924年、アメリカ)の2本を観ていい気分になる。夕ごはんは、あさり、ほうれん草、茄子、玉ねぎのパスタ、赤ワイン。
Sunday, June 16
朝から大粒の雨。そして6月も半分終わってしまった。ひえぇ。そして貴重な朝5時台を漫然と過ごしてしまった。はあぁ。最近はもう、6時になると魔法がとけてしまう。
朝ごはん、アップルカスタードパイ、グリーンリーフと玉ねぎときゅうりとミニトマトのサラダ、ヨーグルト、オレンジジュース、珈琲。朝食にオレンジジュースを飲む季節がやってきたよ。飲むといってもひとくち、ふたくちだけれど。今年こそ毎日の朝食にトマトジュースを飲みたい、と思いつつなかなか習慣化しない。ただ、わたしが好きなトマトジュースはスペインのメーカーのもので、売っている酒屋(チェーン店)はひとつしか知らず、最近そのお店もとんと見ていなくて、もう飲めないかもしれない。走る車のなかから外の景色を眺めるように、人も物も過ぎ去っていく。
お昼前、空がぐっと明るくなり、ほどなくして雨はやんだ。雨あがりの午後は図書館にこもる。図書館のカフェでオムライスを食べてから、きょうは日本文学の文庫の棚を重点的にじっくり、舐めるように見て本を選んだ。なんだかバカっぽいけど、圧倒的な量の本に囲まれて酔ってしまう。ううぅ。外の空気を吸いに図書館を出て公園を散策する。ムシムシするが、木立のなかはひんやり冷めた大気が気持ちよい。館内に戻り、6冊借りて(常識的な量)、さあそろそろ帰ろうと外に出たら、雨に大気中の塵や埃が洗い流され、太陽の光がさんさんと降り注いでものの輪郭が際立ち、非常にクリアな景色が出現していた。こんなにみずみずしい風景を見るのは久しぶりだ。わたしの頭のなかも、もう少しクリアになれたらなあ……、とため息。いつもの花屋でピンクのバラを2種買って帰る。
夜。ごはん、にんじんと長ねぎとわかめの味噌汁、蒸した砂肝とカリフラワーに紫玉ねぎ(スライスして塩胡椒、レモン汁、パセリであえる)を添えたもの、烏賊の塩辛、ビール。食後、『近松物語』(溝口健二監督、1954年、日本)を観る。