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Friday, May 24

金曜の夜は、平日最後の疲労と週末への高揚が、ぎゅっと詰まっている。会社帰り、いちど家に戻って夕食を済ませてから、夜八時すぎにいそいそと出かける。夕餉の献立はカレーライス。あさって開催の日本ダービーの広告が乱舞する京王線に乗って、目指した先は下高井戸駅。下高井戸シネマで、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『マリア・ブラウンの結婚』(1979年)を鑑賞。カレーと一緒にビール缶を一本あけてしまったが、眠くなることもなく、退屈とは無縁の充実した二時間だった。それにしても映画を見ていると、いろいろとどうでもいいことばかり気になってしまう。妻をかばって捕まった夫が、服役を終えて勝手にカナダに旅立ってしまうのだが、一ヶ月にいちど妻のもとにバラの花を一本贈る。しかし妻が住んでいるのは西ドイツだ。前後の状況から、どうやって夫が妻の住所を知りえたのかも疑問だったりするのだが、それはいいとして、カナダからどうやって一輪の花を贈るのか。空輸か船便か。時代から考えて船だろう。でも海をわたっているあいだに枯れそうだ。余計なお世話だが、バラの代金より輸送費のほうが高いんじゃないかとも思う。ま、しかし、カナダから贈っているとは限らない。西ドイツの花屋に依頼して、毎月花を贈るように注文したのかもしれない。花キューピットのような仕組みを利用したのかも。しかし、戦後の西ドイツに花キューピットなんてあったのか。

ところで『マリア・ブラウンの結婚』の上映前、一本だけ予告編がかかった。タル・ベーラの『倫敦から来た男』。来月下高井戸シネマでやるらしい。むかしの予告編なので「最新作」っていっているのが笑ってしまいそうになる。この人、『ニーチェの馬』を撮ってもう監督業やめるって言ってるよ。そう、現在から過去に向けてつっこみをいれたくなる。『倫敦から来た男』では細野晴臣がコメントを寄せていた。『ニーチェの馬』でも寄せていたと思う。細野さんはタル・ベーラのなんなのか。

ひさしぶりの路線を使ったため、京王線と京王新線の乗り換えをしくじり、家についたら日付が変わっていた。

Saturday, May 25

横須賀線に揺られて逗子駅まで。そこからバスに乗って神奈川県立近代美術館葉山に向かう。「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」を見る。渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで去年催されたときは、まあいいか、とパスしたのだが、いま長時間かけて葉山まで来て鑑賞している事態はなんだろう。近代ロシア絵画を代表するリアリズムの旗手と紹介されていたけれど、画家の家族や、作家や音楽家といった文化人を描いた肖像画がとてもよい。けれどそうした重厚な作品のなかに、やや唐突な感じで、《キャベツ》っていう絵があった。なんでキャベツ? しかしそのキャベツはたいそう重厚な雰囲気をかもしだしていたのだった。

この美術館でお昼どきを迎えると、食事は十中八九、併設のレストランで。周辺にもお店がいくつかあるのようなので開拓したいところだが、いまだできずじまい。ハンバーガーと葉山ビールの昼食。いまぐらいの季節だったら、コンビニでちょっとしたものを買って浜辺でピクニックとかでもいいかなと思うのだが、そもそも近くにコンビニがない。

美術館そばの海岸沿いを散歩。そばには御用邸があるので警官が貼りついている。どこまでも牧歌的な逗子の海岸で、潮の満ち引きを横目にずっと「監視」していなくてはいけない警官も、警察24時的な忙しさとはまたちがって、これはこれで大変そうな仕事である。で、調べたら葉山の御用邸は1971年に放火で全焼したらしい。ぜんぜん牧歌的じゃなかった。

Sunday, May 26

『装苑』(文化出版局)と『クウネル』(マガジンハウス)を持参して、近所のカフェへ。アイスコーヒー片手に『クウネル』の京都特集を読んだところで、時間切れ。