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Monday, September 10

スターバックス六本木七丁目店で入手したモデルのKIKIが表紙を飾る無料冊子には、十把一絡に「クリエーター」と呼称された人びとによる、ラテやらモカやらマキアートやらをめぐるどれほど丁寧に読解したところでさしたる益をもたらすとは思えぬ談話が、おのおのの姿を収めたポートレイトとともに掲載されているのだが、そのなかで異彩を放つのがPUFFYの大貫亜美のコメントである。

以前シアトルでライブをしたときに本社に招待してもらったんですが、そのときの『カフェ モカを低脂肪乳、ホイップなしのダブルで……』とかオーダーして『これ商品化しよう!』なんて、大口叩いて帰ってきました。

Tuesday, September 11

「ユーラシア文学」とでも宣言できるような文学論的な射程は可能かという考察を、シリーズ『ユーラシア世界』(東京大学出版会)の刊行にあわせて『UP』(九月号)誌上に沼野充義が寄せていて、そのエッセイの最後に、「ユーラシア文学の世界に分け入る俊英たちによる研究書」として近年刊行された若手研究者たちの書籍紹介をしている。

『リアリズムの条件 ロシア近代文学の成立と植民地表象』(乗松亨平/著、水声社、4,200円)
『ナボコフ 訳すのは「私」 自己翻訳がひらくテクスト』(秋草俊一郎/著、東京大学出版会、3,990円)
『ロシア・シオニズムの想像力 ユダヤ人・帝国・パレスチナ』(鶴見太郎/著、東京大学出版会、5,460円)
『複数形のプラハ』(阿部賢一/著、人文書院、2,940円)
『境界の作家ダニロ・キシュ』(奥彩子/著、松籟社、4,200円)
『ブルーノ・シュルツ 目から手へ』(加藤有子/著、水声社、5,040円)
『「大フィンランド」思想の誕生と変遷 叙事詩カレワラと知識人』(石野裕子/著、岩波書店、8,820円)
『雑草の夢 近代日本における「故郷」と「希望」』 (デンニッツァ ガブラコヴァ/著、世織書房、4,200円)

書名だけを眺めても魅力的な揃いでこれらすべてを読了したい無鉄砲な欲求に駆られるが、上記の書物の羅列に、タイトル、著者名、出版社と並べたあと価格もつけ加えてみたのは、学術書の値段の凶暴さをいまあらためて賞翫しようと思ったからで、それにしても『「大フィンランド」思想の誕生と変遷 叙事詩カレワラと知識人』の8,820円が他を圧倒している。さすがの大フィンランド。

Friday, September 14

最近の読書、『本棚の中のニッポン 海外の日本図書館と日本研究』(江上敏哲/著、笠間書院)、『職業別 パリ風俗』(鹿島茂/著、白水社)、『二十世紀美術 1900-2010』(海野弘/著、新曜社)。

最近の映画、『殺し』(ベルナルド・ベルトルッチ監督、1962年、イタリア)、『灰とダイヤモンド』(アンジェイ・ワイダ監督、1957年、ポーランド)。

海野弘の本名が中村新珠(なかむら あらたま)だと知る。本名のほうがペンネームっぽい。

Saturday, September 15

東京の東を遊弋の土曜日。馬喰町、新日本橋、清澄白河。「松江泰治 jp0205」(TARO NASU)、「浅見貴子展」(ギャラリーαM)、「スザンヌ・ムーニー Experiences of place」(SATOSHI KOYAMA GALLERY)、「土屋裕介 gilding」(キドプレス)、「福原寛重 Recursion」(AI KOWADA GALLERY)、「岡田洋坪 WARPED」(OVER THE BORDER)、「OVER THE REALITY」(GALLERY TERRA TOKYO)、「三木仙太郎 身に余る皮」(スプラウト・キュレーション)、「ライアン・マッギンレー Reach Out, I’m Right Here」(小山登美夫ギャラリー)、「榎倉康二 記写」(TAKA ISHII GALLERY)、「池田光弘 location/dislocation」(ShugoArts)、「原口典之 Double Tone」(MIYAKE FINE ART)。

慎ましいアパート暮らしでありながら熱狂的な現代アート収集家である夫婦を追ったドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』(佐々木芽生監督、2008年、アメリカ)に、夫のハーブがいくつものギャラリーをめぐったあとに道端で、時間を確認しながらきょうはいいペースで廻れた云々と述べるショットがある。この科白、他人事でない。

いつの間にか道路を挟んで反対側に立地が移動していた清澄白河の古本屋しまぶっくで、『映画千夜一夜』(淀川長治、蓮實重彦、山田宏一/著、中央公論社)を買う。

Sunday, September 16

夕方、新宿駅から甲州街道沿いを歩いたところにあるヨーロッパビールの専門店フリゴで歓談した方から、思わぬ贈りものとして戴いたのは、エドワード・ホッパーの絵が覘くむかしの『花椿』のページで組み立てられた封筒に仕舞われた、手製の詞華集。

邂逅の前に訪れたのは恵比寿で、「田村彰英 夢の光」(東京都写真美術館)、「東恩納裕一 FL」(ナディッフ・アパート)、「うつゆみこ ばらまど」(G/P gallery)、「ダニエル・マチャド + 森山大道 TANGO」(TRAUMARIS)などを遊覧。森山大道のブエノスアイレスの写真が15万円とあって、意外と安い? と思ったら額の値段だった(作品は80万円)。

本日の読書は『完本 酔郷譚』(倉橋由美子/著、河出文庫)。