Monday, November 7
通勤電車のなかで『みすず』(みすず書房)11月号を読み、帰宅後『UP』(東京大学出版会)11月号を読む。出版社広報誌とともに暮れる一日。夕食、白米、小松菜の味噌汁、葱をのせた冷奴、焼き魚(鰯)。寝る前に江國香織のエッセイ『やわらかなレタス』(文藝春秋)を読む。父親(江國滋)が目をつぶらせた娘ふたりに酒肴を食べさせるのだが、その言動が妙。
大抵はおいしいもの――酒肴の多くはごはんとも合う――だが、ときどきとんでもないものが入っている。輪切りしたレモンとか、みかん一房とか(みかんは勿論酒肴ではない。父がこっそり――テーブルの下や、いつも横に置いていた煙草盆の上で――むいて、準備していたものだったのだろうと思われる)。私たちがぎょっとなると、「おいしいものをたべるためには、ときには危険も覚悟しなくてはならない」などとうそぶくのだった。
Tuesday, November 8
小川明子『文化のための追及権』(集英社新書)を読む。日本ではほとんど知られていない(わたしも当然知らなかった)「追及権」について平易に論じた本で、追及権についての理解は深まるものの、読みすすめるうちに『「文化のための」追及権』というタイトルはミスリードな気がして、『「美術家の収入を安定させていい暮らしができるようにするための」追及権』といったほうがいいような内容。本の最後には、
芸術家が豊かになり、良い作品が生まれ、文化全体が豊かになることはすばらしいことです。
とあって、経済的に恵まれない美術家が苦労してようやく評価される(もしくは生前まったく評価されず没後に評判が高まる)状況を礼賛するようなステレオタイプの芸術家像もナイーブであるけれども、著者の捉える「文化」というものに対するナイーブさもすごいものがあるわけで、いま引用した箇所を本気で書いているとするならば、あまりに19世紀的な感受性を脱していない困惑してしまうような価値観の呈示である。少なくとも20世紀を経験してきた者としては「文化全体が豊かになることはすばらしいことです」と自信満々にいわれましても、と思うわけで。
かの藤田嗣治は、生前にフランス国籍を取得しました。現在も彼の著作権継承者は、作品の複製などによる著作権料を受けています。藤田画伯が日本を捨てた背景には何か事情があったのでしょうが、フランス人となり、追及権の適用を受けられるようになったことには大きな意味があります。(中略)著作権者が制作をやめたり亡くなったりして、著作物が新たに作られない状況になると、作品の希少性が増して、価格が上がったり、取引が活発になったりすることがよくあります。このような場合、もう作らなくなった著作者あるいは遺族にとって、生活の糧としての追及権による収入があることは非常に歓迎すべきことです。
と、太宰治の著作権が切れたことで津島佑子の生活を心配する三田誠広みたいなことをいいだしたりもしている。
夕食、茹でた豚肉と小松菜と葱と生卵と鮭のそぼろをのせた温かい蕎麦。『石の微笑』(クロード・シャブロル/監督、2004年、フランス/ドイツ)を鑑賞。
Wednesday, November 9
原研哉『日本のデザイン—美意識がつくる未来』(岩波新書)。夕食、白米、甘塩しらす、葱の味噌汁、鰺のひらき、大根おろし、ポテトサラダ。
Thursday, November 10
大竹昭子『読むと誰かに語りたくなる わたしの乱読手帖』(中央公論新社)。夕食、グリーンカレー。アヴェロンの野生児の記録を映画化した『野生の少年』(フランソワ・トリュフォー/監督、1969年、フランス)を鑑賞。
Friday, November 11
永田良昭『心理学とは何なのか』(中公新書)を読んでいたら、アヴェロンの野生児の話がでてくる。きのうときょうは繋がっている。夕食、白米、小松菜の味噌汁、秋刀魚、大根おろし。
Saturday, November 12
晴天。午前中に恵比寿。「東京都写真美術館」で「畠山直哉 ナチュラル・ストーリーズ」展。去年、酷暑の夏に「青山ブックセンター本店」で畠山直哉と港千尋の対談が催され、そのときに話がでていた写真集が新刊として並んでいて、もちろんこれも欲しいに決まっているのだが、今回は展覧会カタログのほうを購入。
「Rue Favart」で昼食ののち、「ナディッフ」のギャラリーで「朝海陽子 Northerly wind」を鑑賞したり、来年のカレンダーを購入したり。
日比谷線で銀座に移動し、「墜ちるイカロス 失われた展覧会」(メゾンエルメス)、「ダヤニータ・シン展 ある写真家の冒険」(資生堂ギャラリー)、「Chic and Luxury モードの時代」(ポーラミュージアムアネックス)、「クリスチャン・マークレー Scrolls」(ギャラリー小柳)などを遊弋。資生堂ギャラリーでは展覧会カタログを購入。
帰りに家電量販店で体重計を買ったのだが、いったいこれはどういう仕組みでそのような数値が算出されるのだろうかと疑問符ばかりが浮かんでくる現在の体重計に隔世の感。体脂肪率11.6%、骨格筋率42.5%、基礎代謝1522kcal、体年齢18才。18才だったのかわたしは。人間の測りまちがい。
夕食、お寿司。
Sunday, November 13
朝食を抜いて西荻窪へ。伊藤まさこ『東京てくてくすたこら散歩』(文藝春秋)にでてくる「こけし屋」の朝市にいちど行ってみたいと思いつつこの本の刊行から早4年以上が経過していた。午前8時すぎから赤ワインを片手に、オムレツやキッシュや骨付き肉や蛤スープを食していたら、『東京てくてくすたこら散歩』を片手に携えたお客のおじさんが現れて面食らう。遠目で確認したところ本の所有者はそのおじさんの配偶者である模様。帰りに新宿で買いもの。午後はのんびり読書、岡崎乾二郎が装丁した『ランボー全集 個人新訳』(鈴村和成/訳、みすず書房)をぱらぱらと。
夕食、白米、葱の味噌汁、刺身の盛り合わせ(真鯛、かんぱち、とろまぐろ)。このあいだ途中で寝てしまった『ミツバチのささやき』(ビクトル・エリセ/監督、1973年、スペイン)を鑑賞。また寝た。