01. 朝日のあたる道 / ORIGINAL LOVE
02. O Homen Falou / Maria Rita
03. 小麦色のマーメイド / 土岐麻子
04. Mais Alguem / Roberta Sa
05. 恋のバカンス / ザ・ピーナッツ
06. Mas Que Nada / Jorge Ben Jor
07. おかしな午後 / 小川美潮
08. One Note Samba / Quincy Jones
09. 君は天然色 / 大瀧詠一
10. CANVAS / Rovo

「うだるような暑さのなかで、きょうは鎌倉のカレー店オクシモロンから夏真っ盛りに聴きたい10曲をお送りします。それぞれ5曲ずつで」

「夏をテーマに、わたしは今回ぜんぶ邦楽で統一したんですけど」

「邦楽? こっちはぜんぶサンバにしちゃったんだけど。邦楽 vs. サンバ」

「さっぱり意味のわからない対立構造ですが。では、オープニングはわたしから。ORIGINAL LOVEの「朝日のあたる道 –AS TIME GOES BY–」です。大好きな曲で何回聴いても厭きないです。1994年の曲ですけど、ちょっとむかしの邦楽って聴いてて恥ずかしくなっちゃうような色褪せ方をするときありますが、「朝日のあたる道」はぜんぜん音が古びない。田島さんの声も好きです」

「「朝日のあたる道」はいい曲です。はじめて聴いたのは中学生のころだったか。ORIGINAL LOVEって田島貴男のソロユニットでしたっけ?」

「最初はバンドだったようですけど、かなり早い段階でひとりになっちゃったみたいです。何かあったんでしょうか?」

「田島さんっていつもカバンに十数冊の本を持ち歩いてるってエピソードを聞いたことがあるけど。ひとりになっちゃったのはそれが原因じゃないの?」

「なんで?」

「ほら、本気の本好きってだいたい面倒くさい人が多いから」

「うーん、妙な説得力を感じますが……、そんな邪推はともかく、この歌、歌詞も素敵です。一緒に口ずさみたくなる」

「どことなく澄ます君と 新しい車で 海へ向かった」

「そういう経験あります?」

「まず運転免許をもってない」

「質問すること自体が間違ってました。ちなみに免許を取らなかった理由は?」

「私が信号を守るはずがない」

「えーと、気を取りなおして、つぎの曲おねがいします」

「じゃあサンバで。マリア・ヒタのサンバを歌った『Samba Meu』というアルバムから「O Homen Falou」。マリア・ヒタはブラジルの歌手で、母親はエリス・レジーナ。歌声に母親の面影を感じたりもするけど、親の七光りゼロって感じで、じぶんの実力で音楽やってる人ですね」

「わたしもこのアルバム好きで、一時期会社の帰り道にiPodでしょっちゅう聴いてました。つづいてわたしの選んだ邦楽は土岐麻子「小麦色のマーメイド」です。言わずと知れた松田聖子がうたった歌のカバー。で、土岐麻子のカバーが素晴らしくて。凡百の退屈なカバー楽曲とは一線を画す仕上がりだと思います」

「カバーって解釈と再構築だと思うけど、見事だなと思う例は稀ですね。土岐麻子のカバーは稀な例」

「この歌の歌詞って、「あなたをつかまえて泳ぐの」とか「あなたをつかまえて生きるの」とか女の捕獲ソングだと思うんですが」

「作詞は松本隆でしたっけ。「嘘よ 本気よ」とか「好きよ きらいよ」とかカント的でもある」

「カント?」

「二律背反(アンチノミー)でしょ。カントが『純粋理性批判』で挙げている四つのアンチノミーのどれかひとつに……」

「当て嵌まるんですか?」

「嵌らんね」

「テキトーな発言はやめましょう。読者数が減ります。どうぞ、つぎの曲」

「サンバで。ホベルタ・サーの「Mais Alguem」」

「これってサンバなんですか?」

「新世代のブラジルミュージシャンのサンバというか。音楽評論家は「ネオ・サンバ」と書いていたと思うけど。サンバの現代的解釈でしょうね」

「邦楽とサンバで交互に聴くと浮いちゃうと思ったんですけど、すごくいい流れですよね。つづいてザ・ピーナッツの「恋のバカンス」。1963年の歌謡曲をこの流れにのせてもまったく違和感がないです。今回の選曲は匠というか、うまい人たちばかりですね」

「サンバで。「Mas Que Nada」を。ジョルジ・ベンジョール(ジョルジ・ベン)の歌で。ずっと以前に上野駅のスターバックスで「Mas Que Nada」がかかって、当時セルジオ・メンデスの「Mas Que Nada」しか知らなかったから、お、いいカバーじゃんと思って家に帰って調べたら「Mas Que Nada」ってジョルジ・ベンジョールのつくった曲だった」

「このテキトーなジャケットの陽気なおっさんは誰なんだと思いきや、本家だったと」

「しかしこのジョルジ・ベンジョールの歌、最後の裏声がすごいね」

「歌謡曲ですよ」

「セルジオ・メンデスも歌謡曲っぽいんだけど、それを上回る歌謡曲っぽさ。ザ・ピーナッツからジョルジ・ベンジョールへ。日本の裏側ブラジルと「歌謡」でつながった」

「よかったですね。つぎに選んだのは小川美潮「おかしな午後」。なんだか先月から牧瀬里穂映画推しになってるけど、この曲は牧瀬主演、市川準監督の『TUGUMI』のエンディングで使われた曲です。リズムが夏っぽくていいでしょ。では次のサンバは何ですか?」

「クインシー・ジョーンズのアルバム『Big Band Bossa Nova』から「One Note Samba」。アルバム1曲目の「Soul Bossa Nova」が映画『オースティン・パワーズ』で使われて有名になってるけど、このアルバムの曲ぜんぶいいです。ジャケもいいし」

「このアルバム聴いてるとウキウキしてきます。で、もう終盤なんですが、大瀧詠一「君は天然色」で」

「ふつうこれが1曲目じゃないの?」

「「朝日のあたる道」か「君は天然色」かどちらにしようか迷って「朝日のあたる道」にしちゃったので」

「終盤になってはじまりのような選曲になった」

「はじまりません。締めてください。最後も……」

「サンバで。日本の人力トランスバンドRovoの「CANVAS」。『FLAGE』というアルバムの1曲目なんだけど、1曲目から14分弱ある」

「長い……。しかもこれ、ぜんぜんサンバじゃない気がするんですけど」

「8分13秒からサンバになる」

「お!」

「サンバ!」

「サンバを探せ!」

2011年7月某日 鎌倉 OXYMORON にて ( 文責:capriciu )