01. Richard Pryor Addresses A Tearful Nation / Joe Henry
02. I Get The Blues When It Rains / Sue Raney
03. If It Rains / Basia Bulat
04. Walk Between Raindrops / Donald Fagen
05. Here’s That Rainy Day / Ann Burton
06. rain (setting out in the leaf boat) / the innocence mission
07. 私は雨の日の夕暮れみたいだ / 安藤裕子
08. apres guerre / Spangle call Lilli line
09. 帰れない二人 / 井上陽水
10. The Look Of Love / Dusty Springfield

「梅雨真っ只中です。湿度が高くて蒸し暑く、おまけに雨が降る。じめじめするそんな季節にあわせての今回の選曲ですが」

「梅雨の時期はじめじめした雰囲気を吹き飛ばすようなスカッとする音楽を聴きたいですよね!」

「そう? こんな季節だからこそ、じっとり湿り気たっぷりの曲ばかり選んじゃったんだけど。目には目を、歯に歯を、湿気には湿気を。じめじめに対してじめじめで迎え撃つ」

「なにやらいやな予感がしますけど、一曲目はなんでしょうか?」

「ジョー・ヘンリーの名盤『Scar』から「Richard Pryor Addresses A Tearful Nation」です。どうですか、梅雨の季節にぴったりでしょう」

「……すごい始まりかたをしちゃいましたけど、大丈夫でしょうか? たしかに雨の降っている雰囲気はでてますけど……」

「止みそうにない雨が降ってる感じ。しかもこれって『Scar』というアルバムの最初を飾る曲でして。アルバム聴きはじめたらいきなりこれが流れるという」

「渋すぎますよ」

「止まない雨もある。きょうは梅雨の季節の湿った空気を倍化させるような音楽ばかりもってきました」

「えーっと、では気を取りなおして、わたしが選んできたのはスー・レイニーのアルバム『Songs For A Raney Day』から「I Get The Blues When It Rains」です」

「「雨」というテーマでの選曲では定番かもしれません、スー・レイニーは」

「スー・レイニーはジャケットを見るかぎりいいところのお嬢さんといった印象です。実際どういう方なのかはよく知らないのですが。雨降りの日、今日は出かける予定もないし、のんびり朝ごはんを食べて食後の紅茶をいただきながら何か心地よい音楽を、という場面にぴったりではないでしょうか。レイニーという綴りがまんまRainyではなくRaneyであるところもよくて。そういえばこのアルバムは、このあいだ京都に旅した際に立ち寄ったガケ書房でも売られてました。ではつぎの曲どうぞ」

「ベイシア・ブラットって知ってます?」

「知らないです」

「カナダの女性ミュージシャンなんだけど、曲もシンプルでいいし、甘すぎない歌声も好きで、彼女のファーストアルバム(『Oh My Darling』)はずっと愛聴してて。ジャケットも印象的」

「ジャケは目を引きますね。選曲もそのアルバムからですか?」

「いや、セカンドアルバムの『Heart of My Own』から「If It Rains」。セカンドのほうは買ったはいいもののそれほど聴きこんでなくて、ひさびさに聴いてみたら雨に関連するタイトルの曲があったんで選んだ」
「選曲の基準がテキトーですよ。ベイシア・ブラットはなにで知ったんですか?」

「雑誌『モノクル』の新譜紹介にでてた」

「タイラー・ブリュレが編集長やってる雑誌のことですか? なんですかその特殊すぎる情報ルートは」

「ま、そんな話はさておき、気を取りなおしてつぎの曲どうぞ」

「「雨に似合う音楽」は湿り気のある曲やアンニュイな曲ばかりじゃありません。どんよりした空気を吹き飛ばす陽気なドナルド・フェイゲンの「Walk Between Raindrops」。軽やかで雨の日の散歩にうってつけ。水たまりの水をはねながら歩きたくなります。ドナルド・フェイゲンは大好きなミュージシャンで、この曲が収録された『The Nightfly』は言わずと知れた名盤ですね。もしも自分がラジオ番組をやるならエンディングに「The Nightfly」をかけたいんですよ。じぶんの頭のなかではしゃべりのQ出しの時間も決めてあって。イントロから数えて19.5秒あたり。わたしの落ち着いた知的なトークのバックに「The Nightfly」が流れます」

「はあ」

「ちょっと妄想がすぎたでしょうか?」

「まあ好きにしてください。気を取りなおして、こちらが選んだ曲を。アンニュイに戻ります。二曲つづけて。雨をモチーフとしたスタンダードで「Here’s That Rainy Day」。あまたの音楽家が演奏していますが、今回はアン・バートンの歌声を選びました。かつてのジャズ喫茶でとても人気のあった歌手ですね。つづいてイノセンス・ミッションの「rain (setting out in the leaf boat)」。イノセンス・ミッションは「アメリカ音楽の良心」(渡辺亨)です。このヴォーカルの声はたまらん。ではアンニュイの連打をうけてそちらが選んだ曲は?」

「えーと、安藤裕子の「私は雨の日の夕暮れみたいだ」を。この歌、最初タイトル知らずに聴いていました。安藤裕子、なんて歌ってるのかよくわからないし。歌詞は聴き取り辛いんです。でも知ってから聴くとたしかに雨の日の想像をかきたてられます。雨がやんで薄日がさしてきたふうだったり小雨が本降りになったり雨のなかだんだん薄暗くなっていく様子を想い描くことができる。曲の展開がドラマティック。ピアノで規則的に奏でられる不規則な和音が地面に雨がはねかえる音に聞こえてきます。ラジオの話をひっぱりますけど、安藤裕子のラジオは本当に面白いんですよ。でも安藤裕子みたいなラジオパーソナリティになりたい、というわけではないですよ、目標としているラジオパーソナリティは特にいませんので!(キリッ)」

「はあ。ま、ラジオはUSTREAMでも駆使して勝手にやっていただければ。では気を取りなおして、つぎの曲」

「Spangle call Lilli line「apres guerre」。今回のイチオシ曲です。Spangle call Lilli lineは今までわりとなにともなしに聴いていたのだけど、今年、梅雨入り前の雨の降る朝に聴いたらなぜかものすごく心に響きまして。そういう瞬間てありますよね。湿度の高い雨じゃなくて、さらりとしたひそやかな雨の降る日にヘッドホンで聴いたら切なさで泣いてしまいそうです。とか言いたくなるような曲。しかしこの人たちもなんて歌ってるのか全然わかりません」

「歌詞が聴き取り辛い。で、聴き取れたところで歌詞の意味がわからない」

「超晴天の曲だったらどうしよう」

「可能性は否定できない」

「つづけて井上陽水「帰れない二人」。この曲は相米慎二監督が牧瀬里穂を主演に撮った『東京上空いらっしゃいませ』でとても印象的に使われています。そのシーンの終わりに強い雨が降っていたような印象があるのだけど、思い違いかもしれなくて今回確認してみたらば降ってなかった。でもその次のシーンで降っていたことがわかりました。このあたりは映画のクライマックスですし、そもそも相米映画では激しい雨が降る場面が数多く出てきますから混同してしまったようです。とにかくわたしにとってこの曲は雨につながっています。ちなみに相米監督は今回の「帰れない二人」のように、『ションベン・ライダー』では近藤真彦の「ふられてBANZAI」、『台風クラブ』ではわらべの「もしも明日が…。」を登場人物たちに歌わせています。いつまでもその歌声は耳からはなれません。すごい映画を撮りますよね、相米監督は」

「あのー、映画の話は映画の枠でしてください。もう最後強引に締めちゃいますけど、ラストはダスティ・スプリングフィールドの「The Look Of Love」で。いわずと知れたバート・バカラックの名曲。雨とは全然関係ないですけど、しとしと雨の降る休日の黄昏どきにダスティ・スプリングフィールドの歌う「The Look Of Love」を聴くとばっちりはまりますよ。ぜひお試しください」

「こんどやってみます。ところで下の紫陽花の写真、「雨音篇」と言ってるのに快晴ですよ」

2011年6月某日 渋谷 SUZU CAFE にて ( 文責:capriciu )