02. Conversation / Joni Mitchell
03. Talk It Over In The Morning / Roger Nichols & The Small Circle Of Friends
04. My Love / The Bird & The Bee
05. In a Mellow Tone / Bea Benjamin
06. Harvest For The World / The Isley Brothers
07. Dandelion / Eddi Reader
08. Discotheqe Du Paradis / Buffalo Daughter
09. 若葉の頃や / 畠山美由紀
10. Izaura / João Gilberto
「ゴールデンウィークの新宿御苑、好天」
「いい天気です。御苑は都心では数少ない野原を堪能できる場所ですね」
「野原といえば『ku:nel』が「野原ですること。」という特集を組んだときに、ライターの中沢明子が野原ですることなんてあるかよ、と書いててあれは笑った」
「確かにふつう社会人が野原ですることなんてないですよね」
「酒を飲むくらいか」
「新宿御苑はアルコールの持ち込み禁止です」
「じゃあやることがない」
「おとなしくピクニックでもしてなさいということでしょうか。ピクニックというとタイトルから保坂和志の『草の上の朝食』を連想します。で、『草の上の朝食』の前篇ともいえる『プレーンソング』で、アキラという青年がいて、よう子というガールフレンドがいて、主人公と仲間がよう子にアキラとのなれそめを訊く場面があるんです。こんなふうに会話だけで進みます。
「アタシ、でもナンパされたことない」
「そうかァ?」
「だって、アキラがしたんじゃないの?」
「あれ、ナンパ?」
「そうだろ」
「でも、全然違ってたね」
「そう?」
「ナンパみたいじゃなかった」
「そう?」
「普通に話しかけてきたの」
と ((保坂和志『プレーンソング』中公文庫、2000年、221頁。))。Twitterでとりわけ「はじめまして」とか言わずにリプライしたりされたりってことありますよね。そのたびにこの場面が浮かぶのです。って、この話伝わってます?」
「何を言ってるのかさっぱりわからない」
「そうですか。じゃあいいです」
「険悪な雰囲気になったところで音楽のコーナーです」
「では新緑美しいうららかな芝生の上で明るい音楽を選んでいきましょう」
「まず一曲目に選んだのはジュディ・シルの「The Phantom Cowboy」。ジュディ・シルは薬物中毒で身体を壊して早死にしたシンガーソングライターですね」
「いきなり暗いですよ話が」
「ジュディ・シルって人の存在はどこで知りました?」
「以前からぼんやりとは知っていたんですが、J-WAVEの深夜に新人ミュージシャンがナビゲートする番組がありまして。そのなかで「のあのわ」というグループのボーカルの女の子がジュディ・シルのことを好きらしく、「Jesus Was A Cross Maker」をかけたんです。なんていい曲なんだろうと思って。その曲は映画の挿入歌としてカバーされたりもしましたね。でもジュディ・シルってまだ知る人ぞ知る、って存在なんでしょうか?」
「わりと知られてるんじゃないですかね? ジム・オルークもジュディ・シルのファンで未発表曲集のリミックスしてるし、けっこう知るきっかけとなる間口は広いと思いますけど」
「ジム・オルーク経由で知ったんですか?」
「いや、J-WAVEの「THE VOYAGE」という番組でかかってた」
「そっちもJ-WAVE」
「番組のWEBサイト読んだら、選曲した人が素晴らしいのでぜひ聴いてみてくださいと書いてたんで聴いてみた。それにしてもわれわれはJ-WAVE聴きすぎですよ」
「関係者でもないのに」
「関係者より聴いてる可能性もある。J-WAVEから粗品のひとつでも届いてよさそうなもんだよ」
「よく聴いてくれてると。ところでこの曲のどのあたりが新緑の季節にふさわしいと?」
「ん? さあ、なんとなく」
「なんとなくって何ですか」
「今回の選曲の基準は曲調オンリーなもんで。ぱーっとひらけた芝生の上で寝転がって聴いたらさぞ気持ちいいだろうなと思うものばかりを集めた。歌詞は無視」
「「The Phantom Cowboy」って直訳すれば亡霊カウボーイですか?」
「亡霊とカウボーイ、新緑にぴったりですね」
「テキトーなことを言いはじめてます」
「ではつづけて二曲目もこちらから。ジョニ・ミッチェルの「Conversation」。これも曲調だけで選んできたけど、うっかりぴったりですよ。晴れた日の新宿御苑に」
「流れがとってもいいですね、うっかり。じゃあこれにわたしが選んだロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの「Talk It Over In The Morning」をつなげてみると、これもまたぴったりです。この曲、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの最初のアルバムから40年ぶりにでたセカンドアルバムに入ってます」
「40年ぶりのセカンドアルバムって言葉がもうなんだか意味不明」
「しかもコーラスの声とかむかしとおんなじですよ。感動的な変わらなさです」
「発売当時、音楽評論家の渡辺亨がいわゆる「渋谷系」とかつて呼ばれた人たちに向けてつくられたようなアルバムと言ってたけど」
「いつの時代に聴いても変わらない、まさにエバーグリーン。そして5月にぴったり」
「つづいてザ・バード&ザ・ビーの「My Love」」
「これは意外にもピクニック気分にマッチしてますね」
「ボーカルの女性ってたしか誰かの娘です」
「その情報量ゼロの発言はなんですか。すべての女性は誰かの娘ですよ。ザ・バード&ザ・ビーのイナラ・ジョージはリトル・フィートのローウェル・ジョージの娘さんです」
「つぎはサティマ・ビー・ベンジャミンの「In a Mellow Tone」。この人、南アフリカ・ケープタウン出身のジャズ・ボーカリストで、デューク・エリントンへ捧げたトリビュート作品から冒頭の一曲目を。このアルバム、全体としては夜聴くのがいいと思うけど、最初の一曲目は昼までもいいかなと」
「いま空を見上げながら聴いてみたら青空にぴったりはまってましたよ。これはどこで知ったんですか?」
「J-WAVEの鳥山雄司の番組で知りました」
「またJ-WAVE」
「これジャズの番組ですけど、鳥山さんのふつうのしゃべりがおもしろい」
「笑わせようとしてるんじゃないんですよね。音楽についてはすごい知識をバックボーンにしゃべってますし」
「本人はボケてるつもりはまったくないんだろうけど、話してる内容がちょっと浮世離れしてる。震災後、みなさん緊張状態がつづいていると思うのでリラックスが必要ですねと言ってて」
「そこまではいい」
「スポーツマッサージをおすすめしてた」
「スポーツマッサージってなんですか? って話ですね」
「もう少し庶民向けのリラックス方法を教えてほしい。有閑階級の発言だよ」
「離れてますね、浮き世を。では気をとりなおして大御所アイズレー・ブラザーズの「Harvest For The World」です。爽やかでこの季節にいいかなと思いまして。アイズレー・ブラザーズはたくさんアルバムを出してますが、橋本徹が監修した『グルーヴィー・アイズレーズ』『メロウ・アイズレーズ』という2枚のコンピレーション・アルバムは良曲がまとまっていておすすめです。ちなみにこの曲が入っているのはグルーヴィーのほう。つづけてエディ・リーダーの「Love Is The Way」もかけます。エディのたおやかな歌声だったらどの曲でもいいね、というくらい声が素敵です」
「新緑の季節に合うんだか合わないんだかいまいち不安なんだけどバッファロー・ドーターの「Discotheqe Du Paradis」を。いま聴いて気づいたけど、これ途中で雷みたいな音が入ってるな」
「まあいいんじゃないですか」
「こういうバーンと広い原っぱで聴くと気持ちいいでしょ」
「この曲、わたしもすごく好きなんですけど、個人的な印象を言いますとちょっと呪術的な感じがしません? 深い森をかきわけかきわけ進むと円形の広場があって、人々が棒か何かを振りかざして歌い踊っている…。太鼓の音がドンドコドンドコ と鳴り響いて。太鼓というかドラム。今回はドラムとベースのきいている曲が多いような気がします。畠山美由紀で「若葉の頃や」をもってきました。これもベースがきいてる」
「また畠山美由紀」
「前回は歌詞の内容と季節がまったく一致してない選曲をしちゃいましたが、今回は大丈夫です。「若葉」って言ってますから。ではでは最後、名曲キタ! って感じでジョアン・ジルベルトの「Izaura」ですよ」
「この歌って詰まるところ仕事行きたくねーって話ですよね。反労働歌。プロテストソングですな」
「ちがいますって。ま、ともかく、よい休日を!」