02. サニーデイ・サービス / 青春狂走曲
03. ぱぱぼっくす / やさしい人よ
04. Charlotte Gainsbourg / LOVE etc.
05. Clare and the Reasons / Mellifera
06. Hayley Sales / Jailcell Mind
07. Elizabeth Mitchell / You Are My Sunshine
08. AIR / Cherry Blossom Girl
09. 畠山美由紀 / くちづけ
10. 二階堂和美 / 思い出のアルバム
「東京都北区の飛鳥山公園にやって来ました。今回の企画趣旨を説明してもらえますか?」
「寒い冬がようやく終わり桜の咲き誇る季節になったので、春をキーワードにそれぞれじぶんの好きな歌を紹介しあいましょう。お花見用の食べもの飲みものと一緒に好きな歌をiPodに入れてしっかり準備してきましたよ。お互いに5曲ずつ選んだものをあわせて全10曲入りのコンピレーション・アルバムをつくってみましょうというのが今回の企画です。アルバムといってももちろん一般に流通するものではなく「仮想」のものですが。勝手につくるオムニバス」
「東京ピクニッククラブ ((東京ピクニッククラブ))がおなじことをむかしやってましたね。参加者がピクニックらしいと思う曲をセレクトして非売品のCDをつくって。ま、つまるところそれのパクリですね」
「リスペクトと言いましょう」
「オマージュとも言う」
「なんでもいいですけど、さっそく好きな歌を挙げていきましょうよ。ではまずそちらからどうぞ」
「吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ」
「へ? 「歌」ってそっちの歌ですか?」
「西行の歌ですね。わざわざ飛鳥山公園まで『山家集』(岩波文庫)をもってきました。好きなんですよ、この歌。たしか最初に知ったのは『山家集』を直接読んでじゃなくて、中井久夫『最終講義—分裂病私見』(みすず書房)においてだったと思います。本の最後のほうで中井さんがこの歌を引用しながらつぎのように書いています。
西行法師は歳老いてなお、去年に通って再び通る時の道知るべに枝を折っておいた道を通ることを止めて、新しい方角の花を見ようと言っています。 ((中井久夫『最終講義—分裂病私見』みすず書房、1998年、94頁。))
と。西行のちょっと諦念の滲んだ感のある楽天性が好ましいですね」
「あのー、ふたりで撰集をつくるって企画じゃないんですけど……。じゃあもう対抗しちゃいますけど、まずはむかしから大好きな釈迢空の「葛の花踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」」
「葛って秋の七草でしょ。季節が真逆だ。春というキーワードくらい守りましょうよ」
「あ、それならじゃあ、椿で。臼田亜浪の「山椿小鳥が二つかくれたり」はどうでしょう。朝日新聞での連載をまとめた高橋陸郎『季語百話—花をひろう』(中公新書)を読んでいたら紹介されてて ((高橋陸郎『季語百話—花をひろう』中央公論新社(中公新書)、2011年、13頁。))」
「和歌じゃなくて俳句ですよ、それ。「春をキーワードにそれぞれじぶんの好きな歌を紹介」という趣旨を逸脱しまくってる」
「ボケだしたのはそちらが先ですよ。それはそうと、わたしがコツコツ選んでiPodにコピーした5曲の行方はどうなるんでしょう? いい加減本題に戻りたいんですけど」
「鈴木理策の撮った桜の写真の話をしてもいいですか? 吉野桜」
「ダメです」
「佐藤俊樹『桜が創った「日本」—ソメイヨシノ 起源への旅』(岩波新書)の話もしたいんだけど」
「ダメダメ」
「コンピレーション・アルバム」
「それそれ!」
「ちゃんと選んできましたよ。順にiPodで聴いていきましょう。ところでこのBoseのイヤホンってイヤーチップがやたらとれちゃって紛失しますよね。Boseイヤホンあるある」
「また余談がはじまりました?」
「あとBoseのイヤホンって買ってから一年以内に必ず壊れる気がする。Boseイヤホンあるあるその弐」
「本題に戻る気あります?」
「戻りましょうか。春に似合う音楽。ではこちらから。ベル・アンド・セバスチャンの曲で「Another Sunny Day」。実はベルセバのことはあんまりよく知らなくて、バンドの人数が何人なのかもわからない。さっき確認したら7人らしいということが判明しました ((画像確認))」
「ひどい。わたしも知らないので人のこと言えませんけど」
「でもこの曲が収録されている『The Life Pursuit』は大好きなアルバムで、買った当時繰り返し何度も聴きました。ポップな爽快感が春にぴったり」
「わたしもこのアルバムは好きです。ジャケットは春っぽくないんですけどね。わたしのほうはまずジャケットが春らしいのを選びました。サニーデイ・サービス『東京』から「青春狂走曲」を」
「鉄板ですね」
「春をテーマに選曲するにあたって『東京』からは正直どの曲でもいいくらいですが、とにかくアルバムジャケットが鮮烈でして。市ヶ谷、飯田橋、お茶の水あたりの桜でしょうかこれは。浪人生時代、この時期は毎日総武線のなかからお堀の桜を眺めていたので本当に思い入れがありますね。若かったです。わたしもサニーデイも」
「ではサニーデイにつづいては、ぱぱぼっくす『花降る午後』の「やさしい人よ」。オーソドックスに春らしい曲です。ぱぱぼっくすのことは山本精一が褒めているのを読んで知ったんです。
ぱぱぼっくすは、いい唄をつくって、歌っているので良いと思う。ちゃんと「歌詞」を歌ってるし。 ((山本精一:ぱぱぼっくす「ぱぱぼっくす」ライナーノーツ))
と」
「この人たちは知りませんでした。軽やかにはじまってさらっと終わる、スマートな曲ですね。ではわたしの番。シャルロット・ゲンズブール主演映画「LOVE etc.」のサントラからシャルロット本人が歌う「LOVE etc.」を。シャルロットはここ数年ナイジェル・ゴドリッチプロデュースの『5:55』やベックプロデュースの『IRM』など音楽畑でも活躍がめざましいですが、これは彼女が10代のときにお父さんのセルジュ・ゲンズブールとつくった最初のアルバムから約10年、ひさびさに彼女の歌声が聴けるということで一部で話題になりました。イントロからなんとも柔らかくて温かみのあるサウンドで、色にたとえるならピンク。映画でもパンフレットやポスターのメインカラーはピンクでしたし、春を感じさせますね」
「歌詞も春っぽいんですか?」
「歌詞自体はあんまり季節感ないんですけどね……」
「まあ音楽なんてどの季節に聴いても一緒ですよ」
「企画を全否定するようなこと言わないでください!」
「つづいてはクレア&ザ・リーズンズ『Arrow』の「Mellifera」を。クレアの優しい歌声がすばらしいアルバムです。この曲のタイトルは「蜜蜂」という意味ですね」
「何語ですか?」
「英語です。Apis melliferaと書くとセイヨウミツバチ。学名ですね」
「東欧諸国の言葉かと思いました。何かに書いてありましたがわたしのラッキーアイテムは蜜蜂だそうで。星座だったかなんだか判断基準はわすれましたけど。フランス語だと蜜蜂はabeilleです。ポーランド語だとPszczołaです。ルーマニア語だとRumuńskiです」
「余談ですね」
「他人の余談には冷たい……。えーと、ではつぎはアルバムは決まったんですけど、ヘイリー・セールズの『Sunseed』で。ジャケットもかわいいし、タイトルにはsunとseed、太陽と種。なんとなく春っぽいし。この1枚は数年前、偶然タワレコで出会いました。ちょうどそのころトリスタン・プリティマンやコルビー・キャレイなどのガーリー・サーフ・ミュージックに傾倒していて。新たな1枚を探していたのですけど、「さらっと聴けるけどレゲエのテイストを取り入れていたり、なかなか奥が深い」というような説明のポップに誘導されまして」
「サーフ・ミュージックって、春じゃなくて夏なのでは?」
「まあまあ黙って黙って。どうやら少し前に日本でも正式デビューしたそうです。いい曲がいっぱいあるんで1曲に決められない。お花見に似合うのを選ぶなら1曲目の「Jailcell Mind」かなー。でも個人的にはポップの説明にもあったレゲエ調の「Keep Drivin’」が気に入ってます。どうですかね、これ!」
「花見にレゲエ? それはない。却下」
「では1曲目を採用します……(しぶしぶ)」
「つぎに選んだのはエリザベス・ミッチェルの『You Are My Sunshine』から表題の「You Are My Sunshine」。誰もが知ってるスタンダードですね。このアルバム、じぶんの娘のために吹き込んだスタンダードナンバー集なんです。やさしさに包まれた心地よいカバーアルバムですね。ではどんどんいきましょう」
「わたしからはエールの「Cherry Blossom Girl」です。『Talkie Walkie』というアルバムに収められています。タイトルにcherryとついているせいもありますが、桜といえばこの曲かなと思いついて。何度も出てくるフレーズが桜の花弁がはらはらと舞う光景をイメージさせます。ところで昨年4月に突然熱を出しまして」
「でました余談」
「発熱時に枕元のラジオからこの曲が流れてきたんです。熱を出しているときって身体がふわふわして、そのときの浮遊感とあまりにリンクしていっそう春の曲という印象が強く刻まれました」
「つぎの曲、いまちらっと目に入ったけど、もしかして畠山美由紀の『リフレクション』って選びました?」
「選びました。ダブっちゃいましたね。春に聴かずにいつ聴くんだっていうアルバムですからね」
「譲りますよ。一曲どうぞ」
「ではお言葉に甘えて『リフレクション』から「くちづけ」をあげたいと思います」
「「くちづけ」? 『リフレクション』は春に聴くぴったりのアルバムだと思いますけど、「くちづけ」はちがうのでは?歌詞を読むと秋だよこれ。「金色並木の夕焼けの空」」
「あれ?」
「「螺旋を描いて 落葉が触れる」」
「……。ま、音楽なんてどの季節に聴いても一緒ですよ」
「企画を全否定すること言った」
「えーと、気を取り直して最後、春に戻して締めてもらえますか?」
「「思い出のアルバム」で」
「卒園式や卒業式での定番曲?」
「そう。NHKのみんなのうたで聴いた覚えがあるけど、子どものころ以降耳にした記憶がなくて。で、レイ・ハラカミの演奏で二階堂和美が歌うのを聴いたんですよ。 2008年12月、渋谷クラブクアトロでのライブ。これが素晴らしくてですね。素直にいい曲だなと。そういえばこの曲、曽我部恵一も歌ってますね ((曽我部恵一BAND「思い出のアルバム」))」
「♪ いつのことだか 思い出してごらん あんなことこんなこと あったでしょう」