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Monday, March 10

日の出の時刻が早くなり、午前6時前の東京の空は、仄かな明るさに包まれる。

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、トーストとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、弁当。夕食、ベーコンとセロリのパスタ。ジョージア産のオレンジワインを一杯飲む。

読書。麻田雅文『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』(中公新書)を読む。戦争の記憶の風化に抗うことが執筆動機になっていることを、著者は跋文に記している。もっとも、本書で語られている、アジア・太平洋戦争の末期から終戦後にかけて争われたソ連との攻防について、漠然とした認識はあっても詳細を捉えている人は、むしろ少数派だろうと思う。本書を読むことは、風化に抗うというより、知識の建て直しである。

平野紗季子のPodcast「味な副音声 ~voice of food~」(SPINEAR)にゲストとして登場した穂村弘が、閉店した神保町の餃子店「スヰートポーヅ」について、二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)の一節を引きながら喋っている。引用元は以下のとおり。

古本屋帰りの小汚くておいしい中華料理屋で、買ったばかりの『接吻』(大場正史 東京ライフ社 S33)を読みながらごはんを食べていたら、文学部の教員のような雰囲気の40歳くらいの男性が相席で向かいに座った。その時、私の視野をちらっと小さな光がよぎったのでその人をそれとなく見てみると、唇の端にラメが一粒ついている。
うれしさのあまり、「あなたは、ついさっきまでキスをしていたんですね」と思わず話しかけようかと思ってしまった。「だって、唇にラメがついていますよ」。
ああいいなあ。キスをしたばかりの人が偶然私の前に座るなんて素敵だ。

「古本屋帰りの小汚くておいしい中華料理屋」が「スヰートポーヅ」を指していることを知る。

Tuesday, March 11

曇天と小雨。

朝食、半熟卵、ベビーリーフと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、トーストとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、弁当。夕食、白米、納豆、油揚げと春菊の味噌汁、刻み海苔と生姜を添えた冷奴。日々の食事内容は食道炎の疾患前に戻りつつあるが、罹患後に減ってしまった体重4kgは一向に戻る気配がない。

読書。『読書アンケート 2024 識者が選んだ、この一年の本』(みすず書房)で複数人があげていた、原田昌博『ナチズム前夜 ワイマル共和国と政治的暴力』(集英社新書)を読む。ワイマル共和国における、ナチスと共産党の暴力をともなう抗争に関して、詳細に綴られる。「国会議事堂炎上事件」までの歴史的道程の解像度がぐっと向上する好著。とても細かな事実関係を呈示する論述であるとの感想を抱きながら、半分以上を読み進めてきたところで、つぎのようなくだりに出くわす。

1930年代初頭の政治的暴力を象徴する光景について、以下ではさらにミクロな地域のレベルで眺めてみることにしよう。事例とするのは、ベルリンの市区の一つクロイツベルクである。

さらにミクロな話が始まる。

Wednesday, March 12

朝食、半熟卵、ベビーリーフと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、ライ麦パンとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、弁当。夕食、持ち帰り寿司、ほうれん草と白胡麻の味噌汁。「よなよなエール」を飲む。

DICが「川村記念美術館」の具体的な移転案を発表し、マーク・ロスコの作品は売却せずに、妹島和世と西沢立衛による「SANAA」が手掛ける予定の、六本木の「国際文化会館」の新西館に移設するとのこと。やたらと企業運営に絡んでくる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントがしつこく美術品売却を迫っているので、今後の動向は未知数ではあるが。ところで、現在、休館となる「川村記念美術館」には連日多くの人が詰めかけているらしい。ホームページを確認してみたならば、館内のレストラン「ベルヴェデーレ」は各回80分の完全予約制、無料送迎バスの増便、キッチンカー出店、ギフトショップ臨時休業、など大変混乱している模様。最後に訪れるか迷ったものの、佐倉までの道のりが大変なうえに、混雑しているというので、二の足を踏む。過去の鑑賞の記憶を反芻することで、「川村記念美術館」には別れを告げたいと思う。過去の企画展を遡って確認してみると、おそらく「川村記念美術館」で最初に見た展覧会は、2004年の「ロバート・ライマン 至福の絵画」。

読書。ジョン・バージャー『見るということ』(飯沢耕太郎/監修、笠原美智子/訳、ちくま学芸文庫)を読む。

Thursday, March 13

朝食、半熟卵、ベビーリーフとトマトのサラダ、キャロットラペ、トーストとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、弁当。夕食、豚肉とほうれん草のソテー。

石破茂の優柔不断も相俟って、先送りになった「高額療養費制度」の見直しであるが、現行の制度は年収800万円の前後で自己負担限度額の差が激しすぎるので、年収区分を細分化する案には賛成なのだが。

読書。石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)を再訪。

もともと議会政治に意義を見出さないナチ党はといえば、過激な宣伝戦を展開し、街頭を、暴力をともなう政治闘争の場にしようとしていた。ナチ党の下部組織、突撃隊は隊列行進を繰り返し、労働者街に乗り込んで挑発的なアジテーションを行ったり、敵の集会に潜んで演説を妨害したり、政敵と思しき者を取り囲んで威嚇・殴打するなどの目に余る狼藉を働いた。共産党や社会民主党の若者たちとの小競り合いが頻発し、介入する官隊との間で三つ巴の衝突に発展することも多かった。連日のようにどこかで流血の惨事が起きていた。ドイツはさながら内乱前夜の様相を呈していたのである。

上記のくだりを詳しくまとめて一冊の本にしたのが、原田昌博『ナチズム前夜 ワイマル共和国と政治的暴力』(集英社新書)。歴史はいくらでも深掘りができる。

Friday, March 14

朝食、目玉焼き、ベーコンとマスタード、ベビーリーフと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、ミルクブレッドとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、弁当。夕食、ほうれん草とベーコンのパスタ。

山手線の五反田駅下車。「五反田東急スクエア」内の「ブックファースト」に立ち寄ったところ、河出文庫の棚で「ジル・ドゥルーズ生誕100年記念フェア」の冊子を見つける。20世紀後半の哲学者で、主要な著作が文庫化されているのはドゥルーズくらいかもしれない。ドゥルーズを再訪するのは後回しにして、木田元『メルロ=ポンティの思想』(講談社学術文庫)と上村剛『アメリカ革命 独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで』(中公新書)を買う。

読書。芝健介『ヒトラー 虚像の独裁者』(岩波新書)を再読する。

Saturday, March 15

三寒四温。本日は寒い。朝食、目玉焼き、ソーセージとマスタード、ベビーリーフと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、ミルクブレッドとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。

洗濯と掃除。外出。山手線の恵比寿駅で下車。「東京都写真美術館」に赴く。展覧会の鑑賞前に美術館併設のカフェ「フロムトップ」で早めの午餐。ルーロー飯とサラダ、日本茶。展覧会を二つ、「鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」「ロバート・キャパ 戦争」を見学する。

すぐにも雨粒が落ちてきそうな空模様。山手線で恵比寿駅から新宿駅に移動する。「紀伊國屋書店」を訪問。ジル・ドゥルーズの文庫本を買おうと河出文庫の棚を訪れるも、もう「ジル・ドゥルーズ生誕100年記念フェア」は終了してしまったのか、五反田の「ブックファースト」より本の在庫が少ない。ジル・ドゥルーズ『記号と事件 1972-1990年の対話』(宮林寛/訳、河出文庫)を手にとる。ロバート・キャパの展覧会を見て、沢木耕太郎『キャパの十字架』(文春文庫)を読み返したくなったので、併せて会計のレジにもっていく。

副都心線と東横線を乗り継いで、田園調布駅下車。駅前にオープンしたパン屋「JEAN FRANÇOIS」でパンドミを買う。「SAINT GERMAIN TENDRESSE」の跡地で、その前は「MAISON KAYSER」があった場所。入れかわり立ちかわりパン屋ばかりが出店する不思議な場所である。「Precce」で食料品を買う。

自宅に戻って、近所のドラッグストアとスーパーマーケットで買い物。途中で小雨に降られる。

常備菜づくりと晩餐の支度。夕食、白米、辛子明太子、納豆、油揚げと絹ごし豆腐の味噌汁、豚肉とほうれん草とトマトの塩胡椒炒め、刻み海苔と酢蓮根、ブロッコリー、「京都醸造」のビール「かぐわし」、「一保堂茶舗」の焙じ茶。

Sunday, March 16

厚い雲が空を覆い、冷たい雨が降る。朝食、目玉焼き、ソーセージとマスタード、ベビーリーフと紫玉葱とトマトのサラダ、キャロットラペ、パンドミとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。

掃除とアイロンがけ。昼食、海苔と白米と辛子明太子のおにぎり、ほうれん草と玉葱の味噌汁、白菜の漬物、「一保堂茶舗」の焙じ茶。

映画鑑賞。『唯一、ゲオルギア 第一部』(オタール・イオセリアーニ/監督、1994年、フランス)。イオセリアーニの故郷ジョージアの歴史を回顧するドキュメンタリー。

読書。入院を挟んで途中で止まったままになっていた、松浦寿輝『明治の表象空間』(新潮社)を再開する。夕食、蛍烏賊と菜の花とトマトのパスタ、ハンガリー産の白ワインを飲む。