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Monday, February 5

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、人参のマリネ、ハムのソテーと粒マスタード、カンパーニュとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。夕食、焼売、卵とほうれん草と長葱と豆腐の中華風スープ。「キリンクラシックラガー」を飲む。

暖冬でも雪は降る。日中の気温がぐっと下がって雨は雪に変わり、関東地方で積雪。東京の街が雪化粧になる途上で帰途に就く。『UP』2月号(東京大学出版会)が届く。溜まったアイロンがけを片づける。雪は疲れる。

Tuesday, February 6

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、人参のマリネ、ハムのソテーと粒マスタード、カンパーニュとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。夕食、焼き餃子、卵と長葱の中華風スープ。冷えるので「黒松剣菱」の熱燗を飲んで暖まる。

読書。吉田健一『交遊録』(講談社学芸文庫)を再訪。読書には私的な連鎖とでも云うべきものがあって、外野から見れば必然性の欠けた恣意的な結びつきでしかないものの、個人的には書物同士が「つながっている」と思うことがままある。その「つながり」は好意的なものだけでなく否定的な場合もあるのだがそれはそれで興味を惹くもので、吉田健一の浩瀚な評伝、長谷川郁夫『吉田健一』を読んでいる最中に、柄谷行人『日本精神分析』(講談社学術文庫)を読み返していたのだが、そういえば柄谷行人は吉田健一を嫌悪していたことを思い起こす。否定的な連鎖。

ぼくは吉田健一はイヤなんだ。彼は、漱石が文学論を書いたことを野暮の骨頂だと言っている。しかし、漱石は漢詩も俳句も抜群にうまいし、言葉で遊ぶなんてことにかけて、吉田健一が偉そうに言う筋合のものではない。(『近代日本の批評Ⅱ 昭和篇(下)』講談社文芸文庫、p.120)

漱石の苦悩を理解しない吉田健一に向けての柄谷行人の云わんとすることは頷けるものだが、それはそうと長谷川郁夫『吉田健一』の読了を迎えた翌日にちょうど東京大学出版会のPR誌『UP』が自宅に届いて、長谷川郁夫の評伝にある「吉田さんは根っからの東大嫌いだった」(p.494)ことを想起してしまう。「嫌い」でつながる読書行脚。

Wednesday, February 7

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、人参のマリネ、ハムのソテーと粒マスタード、カンパーニュとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。五反田駅構内にて「Rød」でバゲットを買って、「sakana bacca」で握り鮨を買う。夕食、「sakana bacca」の握り鮨、絹ごし豆腐と長葱と若布の味噌汁。「サントリープレミアムモルツ」を飲む。

出勤時にうっかり読みさしの本を鞄に潜ませるのを忘れてしまい、仕方がないので通勤電車のなかでiPhoneの画面を眺めるという凡庸な所作に講じることとなる。「Tokyo Art Beat」のアプリで展覧会情報を閲覧しようとするものの、このアプリが信じ難いほどの拙劣さで画面表示のあまりの遅さに使えば使うほどストレスが溜まる近年稀にみる代物。アプリをひらくたびに慄く。

Thursday, February 8

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、人参のマリネ、ハムのソテーと粒マスタード、カンパーニュとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。夕食、鶏の唐揚げ、人参しりしり、絹ごし豆腐とほうれん草と長葱の味噌汁。「酔鯨」の熱燗を飲む。

読書。吉田健一『ヨオロッパの世紀末』(岩波文庫)を読む。2015年11月21日付の日誌でもまるごと引用していたので、過去読んだときも印象深かったのだろうくだりをふたたび引用する。

しかしヴァレリイはヨオロッパが自分が何であるかを問わなければならなくなったと言っている。そしてそれが世紀末の仕事でもあったとここで書いたが、ヨオロッパでヨオロッパ人として仕事をし、生活することを通してでなしに直接にヨオロッパが何であるかということを取り上げてそれに尽きない興味を覚えたのはヴァレリイ自身である。そのことで一つ考えられるのはヨオロッパの文明というのが他のと違って歴史の上で始めて自分を現存するものも含めて他の文明と精密に比較することが出来る状態に置かれた点でも特異だったということで、ヴァレリイはその刺激に一箇の、と書いてその先をどう続けたものだろうか。彼は一箇の明晰な頭脳として反応したのだろうか。しかし国籍がない明晰な頭脳などというものもない。それならばヨオロッパではどういう頭脳が、あるいは精神が育ったのか。これをヴァレリイはこの仕事をするのに不足はない文章で解明している。それで話が簡単になり、ヴァレリイがヨオロッパである。(pp.188-189)

ヴァレリイがヨオロッパである。

Friday, February 9

朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、人参のマリネ、ポークソテー、バゲットとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。夕食、バジル風味のポークステーキ、ほうれん草のソテー。フランスの赤ワイン「Domaine de la Montagnette」を飲む。

「QBハウス」で髪を切る。読書。山野アンダーソン陽子『ガラス』(ブルーシープ)を読む。現在「東京オペラシティ アートギャラリー」で開催中の「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」展の副読本として読みはじめたが、本書を読む読まないで展覧会の見え方がだいぶ変わる。

Saturday, February 10

小澤征爾の訃報。朝食、半熟卵、サニーレタスと紫玉葱とトマトのサラダ、ハムのソテーと粒マスタード、バゲットとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。冬晴れ。東西線にて竹橋駅で下車し、「東京国立近代美術館」に向かう。「中平卓馬 火-氾濫」を見学。展覧会の宣伝文にある「約20年ぶりの大回顧展」との惹句を目にして、倉石信乃のキュレーションによる「中平卓馬展 原点復帰-横浜」(横浜美術館)から20年以上の時間が経過したのかと思う。展覧会の図録は刊行が遅れているとのことで現物を確認できず。美術館の入口前から神保町駅付近までタクシーで移動。午餐のために「ランチョン」に向かう。開店時間前だが既に行列ができている。カキフライ、ライス、ベークドポテト、ソーセージ盛り合わせ、アサヒ生ビール、ピルスナーウルケルを注文。「ランチョン」といえば吉田健一。

吉田健一は毎週木曜の午後を一種の面会日と寛ぎの時に決めていた。昼は神田のランチョン(焼ける前の)一階の、入って右側の奥から二番目のテーブルでビールを飲む。編集者は主としてこの時間に会いにくる。三時からはティ・タイムとなる。といっても、紅茶にケイキではなく、濃くいれたリプトンにスコッチをダブルでそそぐ。私などは街に灯が入る頃は、もういい加減酔いを感じたものだ。(辻邦生「解説」、吉田健一『ヨオロッパの世紀末』岩波文庫、p.256)

「澤口書店」にて尾崎一雄『暢気眼鏡・虫のいろいろ』(高橋英夫/訳、岩波文庫)を買う。「東京堂書店」にてアルベール・カミュ『結婚 四篇のエセー』(柏倉康夫/訳、月曜社)、マリー・ダリュセック『ここにあることの輝き パウラ・M・ベッカーの生涯』(荒原邦博/訳、東京外国語大学出版会)を買う。神保町駅から半蔵門線と山手線を乗り継いで恵比寿駅着。「Galerie LIBRAIRIE6」にて「ジョナス・メカス メカスルネサンス」を見学。「Today’s Special」で琺瑯と花瓶、「WINE MARKET PARTY」でワインを一本買う。帰途に就く。夕食、紅生姜を添えた玉葱とハムの焼きそば。「琥珀ヱビス」を飲む。

Sunday, February 11

朝食、生卵を添えた白粥、長葱と若布の味噌汁、焙じ茶。登場するゲスト次第でチャンネルを合わせるJ-WAVEの葉加瀬太郎「WORLD AIR CURRENT」。今週のゲストは高橋ヨーコ。高橋ヨーコの旅の話を聴きながら、「GLOBE COFFEE」の豆で淹れた珈琲と「本髙砂屋」の焼菓子「エコルセ」。近所のスーパーマーケットで食料品を調達する。昼食、「中村屋」のビーフハヤシ、キャロットラペ、アールグレイの紅茶。午後、横須賀線に揺られて逗子駅着。道中の読書として磯﨑憲一郎『日本蒙昧前史』(文春文庫)を面白く読む。駅前からバスに乗って「神奈川県立近代美術館 葉山館」を目指す。「芥川龍之介と美の世界 二人の先達 ─ 夏目漱石、菅虎雄」を見学。集客が期待できるとはあまり思えない地味な企画だが充実の展示内容で満足。バスで逗子駅に戻って横須賀線で鎌倉駅まで。鎌倉駅前は観光客だらけ。「鎌倉味噌醸造」の味噌を買うために江ノ島電鉄の鎌倉駅構内の土産物店「ことのいち鎌倉」に向かうも商品は見あたらず、入場券を払って入店したので何も買わずに出るのも損なので「LES ANGES」の焼き菓子を買う。日暮れ間近の「鶴岡八幡宮」を巡ってから、小町通り近くの「Osteria Comacina」にて夕食。2019年11月以来の訪問。炙り太刀魚のカルパッチョ、ポテトフライ、蛸と馬鈴薯の温サラダ、生ハムとチコリのスパゲッティ、豚肉とレバーのパテ。イタリアのオレンジワインをボトルで注文する。ワインはボトルのほうが経済的にも満足度としても利口なのではと考えて注文するも、飲み足らずに赤ワインのグラスを追加。飲みやすいオレンジワインにしたのが敗因かもしれない。しかし澁谷将之が以前に述べていたつぎのコメントに共鳴するので、今後も積極的にボトル派でいこうと思う。

食事をしているときに、テーブルの上にグラスだけっていうのも味気ないでしょう? ボトルが置いてある景色が、僕は好きなんですよ。(『Hanako』2023年12月号、マガジンハウス)