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Monday, January 30

読書。神保町の「東京堂書店」にて新刊書籍が鎮座する通称「軍艦」の棚で見つけた『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』(高遠弘美/編、素粒社)を読む。市河晴子は渋沢栄一の孫にあたる人物で、本書は戦前のヨーロッパとアメリカを旅した見聞録を編纂したものだが、その卓抜な観察眼と言語化能力に唸る。夕食、湯豆腐と小松菜と小葱を添えた温麺。「プレミアムモルツ」を飲む。夜、映画鑑賞。『シンプルメン』(ハル・ハートリー/監督、1992年、アメリカ)を見る。手元の記録を辿るとおよそ9年ぶりに見た本作の粗筋はほぼ忘却の彼方であったが、ガソリンスタンドの店員がギターで「グリーンスリーブス」を奏でるシーンは鮮明に憶えていた。

Tuesday, January 31

一月が終わる。夕食、肉うどん。「黒松剣菱」の熱燗を飲みながら読書。『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』(高遠弘美/編、素粒社)を最後まで。つづけて先週末の古書店行脚で手に入れた澁澤龍彦『滞欧日記』(巖谷國士/編、河出文庫)を読む。

Wednesday, February 1

読書。澁澤龍彦『三島由紀夫おぼえがき』(中公文庫)、『図書』2月号(岩波書店)を読む。夕食、白米、白菜と絹ごし豆腐の味噌汁、すぐき漬け、焼き魚(ほっけ)、蓮根と人参と大根の煮物、南瓜の煮物。「プレミアムモルツ」を飲む。宮台真司を襲撃したと思われる容疑者が自殺した件を受けて、宮台真司本人が「憎しみよりも悲しい気持ちがある。人が死ぬのはどんな理由があれ悲しい。悲しみを受け止めるにはものごとの背景が分かり、どれが手当てできてどれができないのかがはっきりすることによってだ」とずいぶん優等生的なコメントを発表していて、元々こういう人なのか年齢を重ねて丸くなったのか。わたしなどは死んだと知ったら祝杯を挙げたい人物が指折り数えて両手では収まらないほどいるのだが。

Thursday, February 2

読書。ジョリス=カルル・ユイスマンス『さかしま』(澁澤龍彦/訳、河出文庫)を読む。以下に引用する、2000年に筑摩書房から文庫として刊行された松浦寿輝『エッフェル塔試論』の劈頭にふれて、ユイスマンスの代表作である『さかしま』を読まないとなと思ってから実際に目をとおすまでに20年以上も経過してしまった。

いわゆる「世紀末デカダンス」なるものが歴史概念として成立しうるのかどうかはもはや必ずしも自明ではないけれども、今仮に、19世紀後半の一時期の西欧で、あたかもこれ以上自然な出会いもないと思われるような滑らかさで「終末」と「頽廃」とが溶解し合い、その「頽廃」的な「終末」意識が、1880年代から90年代にかけての「文学」作品や「美術」作品に、黄昏の色調と甘美な腐臭とを同時にまとわせていった、と――通念に従ってとりあえずそう考えておくことは、決して歴史の遠近法を歪めた状況認識とは言えないだろう。その場合、そうした「頽廃」的「終末」ないし「終末」的「頽廃」に対してもっとも親和的であった感受性の持ち主の一人として、他の誰よりもまず『さかしま』の著者の名を挙げることに、異論を唱える向きは少ないはずだ。フランス文学史の上では、一般に、「自然主義」から出発しながら「神秘主義」へと移行し、やがて「世紀末デカダンス」を代表する存在となるに至ったといった言葉遣いでその道程が要約されるジョリス=カルル・ユイスマンス。実際、小説であれエッセーであれ、彼の文章の多くのものは、黄ばんだ薄暮の光を照り映えさせながら、行き着くところまで行き着いてしまった者のみが浸りうる頽廃の甘い薫りを漂わせている。(pp.10-11)

夕食、ハムとパイナップルのステーキ、白菜ときのこのミルクスープ。「マルエフ」を飲む。

Friday, February 3

読書。ジョリス=カルル・ユイスマンス『さかしま』(澁澤龍彦/訳、河出文庫)を最後まで読んでから、巖谷國士『ヨーロッパ 夢の町を歩く』(中公文庫)を読む。夕食、恵方巻き(海鮮巻き、穴子巻き)、根菜と豆腐としめじの味噌汁、すぐき漬け。恵方巻きと呼ばれるものを初めて口にしたもののこの風習に別段の関心はないので普通の海苔巻きとして食べる。「マルエフ」を飲む。YouTubeで「哲学の劇場」を視聴。山本貴光と吉川浩満が赤坂にある書店「双子のライオン堂」の店主とマスクを着用して鼎談しているのだが、しかしそのあと三人でバーに飲みに行っているので、それならば鼎談時のマスクは無意味だろうとツッコミを入れたくなって、「科学」に対する造詣の深い人たちなのに不思議な振る舞いだと思った。

Saturday, February 4

朝食後、洗濯を済ませてから外出。山手線に乗って上野駅着。東京都美術館で「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」を見る。エゴン・シーレの絵の上手さに対して素直に感心する。図録を購入。昼食は美術館併設の食事処「RESTAURANT MUSE」にて。節約のために価格帯の高い「RESTAURANT salon」ではないほうを選択したにもかかわらず、いちばん高い特別展コラボメニューを注文してしまいお金が減ってしまう。カリフラワーとポテトのクリームスープ、ウィーナーシュニッツェル(松坂豚ロース肉のカツレツ)、ライス、珈琲。徒歩で谷中の「古書木菟」に向かってから、山手線で日暮里駅から大塚駅まで移動し、都営荒川線で終点の早稲田駅まで。「古書ソオダ水」「NENOi」「安藤書店」「五十嵐書店」を巡る。普段の買いものはカード決済ばかりなので現金を持ち歩く習慣を失っているのだが、古本屋の大半は現金支払なので途中で財布の中身が力尽き、銀行のATMでお金を下ろす。先週から今週にかけての書店行脚で、読む本には当面困らない量が貯まる。「安藤書店」では和服を纏った端正な佇まいの老婦人が店番をしていたのだが店内に流れている音楽がロックという不釣り合いな雰囲気で印象に残る。帰途に就く途中、渋谷の東急フードショーにて「Bricolage bread & co.」でパンを買って、渋谷スクランブルスクエアの「Butter Butler」で洋菓子を買う。帰宅後、アイロンがけと常備菜づくり。夕食、生卵としらすと小葱を添えた鮪のたたき丼、しめじと絹ごし豆腐とかぶの葉の味噌汁。「マルエフ」を飲む。YouTubeで「山田五郎オトナの教養講座」のアルフレッド・シスレーの回を見る。

Sunday, February 5

終日自宅にて。朝食、目玉焼き、ベーコン、サニーレタスとトマトと紫玉葱のサラダ、パンドミとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昼食、鶏肉の酒蒸しと生卵と大根おろしと小葱を添えた温かいうどん。おやつ、「Butter Butler」のバターフィナンシェと珈琲。夕食、豚肉と青唐辛子味噌と九条葱の蒸し餃子、わかめと卵の中華風スープ。「サッポロラガービール」を飲む。本日の読書は先週末に「東京堂書店」で購入した山尾悠子『迷宮遊覧飛行』(国書刊行会)。山尾悠子のエッセイ集。勝手に超然とした人物像を想像していたが、結構人間くさいところがあって興味ぶかく読む。しかし普通に考えて普通ではないことを普通だと言い張るところをみて普通ではないと思った。

多少は風変わりな履歴もなくはないけれど、学生時代の全集読みとしてはごく普通に鏡花全集の次は岡本かの子全集を読み、谷崎全集を読み三島全集を読んだので、やはりごく普通だと思う。(p.14)

あたりまえのように全集を読むこと自体が普通ではないと思うのだが。