Sunday, January 1
元旦。午前4時45分起床。部屋の掃除と植物への水やりを済ませてから珈琲を淹れて日輪が昇るのを待つ。暁闇のなかで電灯を点けての読書初めは澁澤龍彦『フローラ逍遥』(平凡社)。自宅の本棚には単行本と平凡社ライブラリーの二冊が鎮座しているが、植物図譜が豊富に掲載されている麗しい本書は、画集を賞翫するように大きな単行本でページをめくりたい。午前7時半、御節、雑煮、熱燗の正月料理を朝食として並べる。日本酒は「黒松剣菱」。カラヤン&ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの録音を聴きながら読書。正月らしく食にまつわる豪勢な本を読もうと四方田犬彦『ラブレーの子供たち』(新潮社)を再訪する。「丸八製茶場」の焙茶を飲んでから、快晴の外の空気を吸いに近所を少し歩く。夕方、お正月映画として『日曜日が待ち遠しい!』(フランソワ・トリュフォー/監督、1983年、フランス)を見る。夜はラジオを聴く。「TOKYO MOON」(InterFM)、「Barakan Beat」(InterFM)、「Travelling Without Moving」(J-WAVE)。夜の食事は御節と雑煮の後始末。「馨和 KAGUA」を飲む。
Monday, January 2
普段の朝食に戻る。茹で卵、ベビーリーフとトマトと紫玉葱とベーコンのサラダ、バゲットとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。昨晩NHKFMで放送された「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート」を聴く。指揮はフランツ・ウェルザー=メスト。「AUDRY」の焼き菓子と珈琲をお供に読書。山田宏一『フランソワ・トリュフォーの映画誌』(平凡社)を読む。昼食、伊達巻きとほうれん草と紅白なますと煮物(金時人参、筍、蓮根)を添えた正月料理の一掃を目論む温かい蕎麦、焙茶。都心に出掛ける。道中の読書として昨日からの流れで四方田犬彦の食物誌『ひと皿の記憶 食神、世界をめぐる』(ちくま文庫)を持参する。山手線に揺られて上野駅着。「国立西洋美術館」で「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」を見る。第二次世界大戦後のパリで画商を営んだベルリン出身のユダヤ人ハインツ・ベルクグリューンが収集した、ピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティを中心とするコレクションがならぶ。美術品収集のあり方を含めてたいへん興味深く見学する。上野駅傍の「スターバックス」でカプチーノを買って不忍池あたりまで「上野恩賜公園」を散歩してから帰途に就く。今年の抱負は爪に火を灯す暮らしでお金の流出を防ぐことなので、寄り道で無駄遣いしたりせず真っ直ぐ自宅に戻る。夕食、ローストチキン、ルッコラとエシャロットのソテー、オリーブ、カマンベールチーズ、パン・ド・カンパーニュ、スパークリングワイン。
Tuesday, January 3
朝食後、「山下達郎のサンデー・ソングブック」(TOKYO FM)を聴く。新春放談のゲストは宮治淳一。「叶匠壽庵」の和菓子と珈琲をお供に読書。昨年購入した金沢21世紀美術館における「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」展覧会カタログを眺めてから、追悼の読書として磯崎新『建築における「日本的なもの」』(新潮社)を読み返す。近所のスーパーマーケットで買いもの。七草粥を宣伝する店内放送が「正月の暴飲暴食で疲れた胃を休めるために」と暴飲暴食が当然であるかのようないいよう。昼食、鱈と餅とせりの雑煮。映画鑑賞。『修道女』(ジャック・リヴェット/監督、1966年、フランス)を見る。時系列としては『気狂いピエロ』と『メイド・イン・USA』のあいだに挟まれた、ゴダール映画ではないアンナ・カリーナ。日暮れどきまで積読本を消化する読書に励む。夕食、手巻き寿司(酢飯、海苔、鮪の刺身、鮪のたたき、胡瓜、卵焼き、ツナ)、しじみの味噌汁。「琥珀ヱビス」を飲む。
Wednesday, January 4
早朝労働に従事。外は快晴だが自宅に籠って読書。昨年の暮れに書店に並んだ、ジャン=リュック・ゴダールを特集した雑誌『ユリイカ』(青土社)の臨時増刊号を読み進める。持ち運びに難儀する頁数が573もある大部の重たい冊子で、集中的に読み通さないと途中で飽きて放置してしまいそうな論集なので、休日の読書時間を捧げる。青土社は過去おなじように分厚いゴダール特集を組んだことがあり、「ゴダールの神話」と題された1995年刊行の538頁ある代物を本棚から取り出して並べてみる。後者は『ユリイカ』ではなく『現代思想』の臨時増刊号で、この媒体の相違はゴダールを現代思想的に論じることはもうとうに流行りではないのを示していると考えるのは薮睨みだろうか。ゴダール映画を語るのに「脱構築」などの語彙を使うのはこそばゆい感じすらあるが、しかし堀潤之の論考「空間、イメージ、書物 ゴダールの展覧会《感情、表徴、情念》の余白に」によれば、ゴダールは真剣な関心をもってジャック・デリダの動物論を読んでいたようである。昼食、鶏肉とせりと葱と餅の雑煮。バッハのミサ曲ロ短調とハイドンの弦楽四重奏曲を流しながら午後も読書。夕方、映画鑑賞。『デュエル』(ジャック・リヴェット/監督、1976年、フランス)を見る。夕食、トマトとほうれん草としらすのパスタ、芽キャベツと蓮根のソテー、田舎風パテ、フランスの赤ワイン。芽キャベツが美味しい。アメリカ人の多くが子供の頃に嫌いだった野菜として(しかし大人になった今は好きな食事として)芽キャベツのことを紹介しているのは近藤聡乃『ニューヨークで考え中 2』(亜紀書房)の第75話だが、そのなかで「最近は日本のスーパーでも芽キャベツが買えるそうですね」との記述がある。たしかにスーパーマーケットで見かけることは時折あるが、必ず陳列されているような商品になってはおらず、本日の食卓にならんだ芽キャベツも「ナショナル田園」というあまり一般的ではない特殊な店舗で見つけた。外国では庶民的に売られている野菜が日本では高級スーパーで買う羽目になる事情については、二日前に読んだ四方田犬彦『ひと皿の記憶 食神、世界をめぐる』(ちくま文庫)でも言及されている。
これは一般的にいえることだと思うが、ある未知の外国料理が日本に持ち込まれるとき、最初のうちは肉や魚といったメインの料理にばかり焦点が当てられ、野菜が置き去りにされるという不幸な傾向がある。理由はいくつも考えられるが、ひとつにはレストランの採算という点で、派手な肉料理の方が上首尾であることだろう。加えて野菜は肉とは異なり、本来的に地域に密着した固有のものが多い。定期的に供給できる体制が日本の農村に整っていない以上、野菜料理を定着させることは難しい。こうした理由から日本の韓国料理店は長らく焼肉一本槍となり、さまざまなキムチや山菜料理は無視されてきた。日本のフランス料理やイタリア料理のレストランは、日本人の好みに合わせて魚介類に過剰な重点は置きはしても、野菜料理を蔑ろにしてきた。しかし一国の料理を知るということは、野菜から肉や魚、さらに甘いものまでを含め、全体を完結した構造として理解することである。パリとボローニャでわたしに幸福感をもたらしてくれたのは、現地の野菜を手軽な値段で思うがままに手にすることができるということだった。
Thursday, January 5
形式上は本日が仕事初め。起立してお辞儀をする、新年の挨拶という名の屈伸運動を幾度も繰り返す。読書。寺田寅彦『銀座アルプス』(角川ソフィア文庫)を読む。大正9年に書かれた随筆「電車と風呂」で満員電車の弊害が嘆かれているのだが、現在に至るまでいまだ解決する気配のない鉄道事業とは。夕食、餅と葱と竹輪とほうれん草の雑煮、「黒松剣菱」の熱燗。夜、自宅のWiFiルーターを新しいものに交換して設定作業をおこなう。通信の安定性と速度が向上。
Friday, January 6
読書。川端康成『反橋・しぐれ・たまゆら』(講談社文芸文庫)を読む。夕食、金沢土産の「チャンピオンカレー」に蓮根と竹輪を添える。「エチゴビール」の「のんびりふんわり白ビール」を飲む。夜、澤部渡の「NICE POP RADIO」(FM KYOTO α-STATION)を聴く。番組のなかでうどん屋「おにやんま」の話をしていたが、店内が狭い五反田店では澤部さんのような巨漢が入口附近にいたら通りが塞がってしまうのではと危惧される。
Saturday, January 7
朝食後、少し読書の時間を設けてから外出。『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』(西崎憲/編・訳、亜紀書房)を途中まで。JR渋谷駅の工事の影響で、山手線外回りの大崎駅から池袋駅の区間で全面運休。地下鉄を乗り継いで東西線の竹橋駅下車。道中の読書は内田百閒『第一阿房列車』(新潮文庫)。「東京国立近代美術館」で「大竹伸朗展」を見る。大竹伸朗という美術家の「器用さ」を再認識する。常設展の「MOMATコレクション」も併せて鑑賞。不安定な空模様になるとの予報に少なくとも都内は反して、快晴の青空が広がる。東西線と浅草線を乗り継いで五反田駅まで。昼食は「7025 Franklin Avenue」にてアボカドのハンバーガー、フライドポテト、グリーンサラダ、カールスバーグ。五反田駅周辺まで足を伸ばして、大崎広小路の「旬八青果店」に向かうと昨年11月末に閉店していた。物件の賃貸契約の条件で折り合いがつかずやむを得ず畳んだとのこと。「TOCビル」に新店舗を出しているとがわかって歩いて向かってみる。「TOCビル」も今年建て替えの解体作業が始まるので暫定的な店舗のよう。芽キャベツ、アボカド、人参、ルッコラを買う。帰宅後、読書。内田百閒『第一阿房列車』(新潮文庫)を最後まで。夕食、鮭のムニエルとホワイトセロリ、芽キャベツと蓮根のソテー、バゲットとレバーペースト。「京都醸造」の「冬のきまぐれ」を飲む。YouTubeで「山田五郎オトナの教養講座」のメアリー・カサットの回を視聴。
Sunday, January 8
朝食、一日遅れの七草粥、焙茶。読書。『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』(西崎憲/編・訳、亜紀書房)を最後まで。自宅周辺を散歩。近所のスーパーマーケットで食材を調達。昼食、白米、絹ごし豆腐と白菜の味噌汁、鰹のたたき、大根のつま、すぐき漬け、玄米茶。映画鑑賞。『ノロワ』(ジャック・リヴェット/監督、1976年、フランス)を見る。週末の夕暮れどきは精神の安寧のために音楽を聴きながら画集か写真集を眺める。本棚から抜き取った野又穫『Elements あちら、こちら、かけら』(青幻舎)の頁をめくりながら画家についてインターネットで検索したら、「東京オペラシティアートギャラリー」で今年展覧会が催されることを知る。そのほか『須田悦弘展』(千葉市美術館)、『町田久美画集』(青幻舎)、小笠原美環『WINDHAUCH』(KERBER)を手に取る。「琥珀ヱビス」を飲む。夕食、スモークサーモンと蓮根としめじと玉葱のグラタン、グリーンリーフとアボカドとトマトのサラダ、イタリアのオレンジワイン。