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Monday, October 3

追悼の読書。ソール・クリプキの訃報が先月届いたのを受けて、今年の6月に購入して積読状態となっていた『ウィトゲンシュタインのパラドックス 規則・私的言語・他人の心』(黒崎宏/訳、ちくま学芸文庫)を読みはじめる。絶版になっているわけではないようなので産業図書から刊行されている単行本を買えばいい話ではあるが、『名指しと必然性 様相の形而上学と心身問題』(八木沢敬・野家啓一/訳)もあわせて文庫化してほしい。帰宅すると『図書』10月号(岩波書店)が届いている。夕食、茹で卵と海苔と小葱をのせた醤油ラーメン、麦酒。

Tuesday, October 4

『図書』を読んだら、いまやすっかり岩波書店から本を出す人になっている柄谷行人の新刊が出ることを知ったので、ひさしぶりに過去の仕事を読み返してみる。初期の作品群まで遡ると大変なので、書架から抜き取ったのは『トランスクリティーク カントとマルクス』(岩波現代文庫)。帰宅すると『みすず』10月号(みすず書房)が届いている。WEB媒体への移行が予告されているとはいえ、休刊の案内を出したそばから新連載をはじめている『みすず』。宇野邦一「最後の言葉」。夕食、白米、豚肉と木綿豆腐と小松菜の白出し汁煮、胡瓜の糠漬け、麦酒。

Wednesday, October 5

読書。ソール・クリプキ『ウィトゲンシュタインのパラドックス 規則・私的言語・他人の心』(黒崎宏/訳、ちくま学芸文庫)を最後まで。写真でクリプキの相貌を確認すると優しそうなお爺ちゃんに見えるのだが、しつこく繰りだされる懐疑論をめぐる論述を読んでいるとエッジの効いた面倒なお爺ちゃんだなと思う。40代に執筆された著作なのでお爺ちゃんではないが。夕食、茹で卵と小葱をのせた醤油ラーメン、麦酒。津原泰水死去の報せ。所謂幻想文学と縁がないのでその著述に対しては断片的な記憶しかもちあわせていないが、いますぐに思い浮かぶものとしては二階堂奥歯『八本足の蝶』(ポプラ社)の巻末に寄せられた短文だろうか。

上京するたび顔を合わせていたけれど、彼女がなにか飲み食いしていたという記憶が、ほとんど無いことに気づいた。他人に見せないようにしていたのかもしれないし、偶然の重なりかもしれない。例外的な記憶がひとつ。ある打合せのあと、若い編集者に飯のひとつも奢ってやりたいが生憎とビールのぶんしか金が無い、と僕が言い放ったことがある。だったら「ライオン」でビーフシチュウだけ奢ってくださいと言われた。安いシチュウを奢った。一皿をたちまち平らげる若い食欲を、ジョッキを傾けながら微笑ましく眺めた。まさか自分のほうが此岸に残されるとは思ってもみなかった。君は何度も僕を助けてくれたのに、僕は君を助けられなかった。無垢な魂の悲鳴に耳を傾けなかった。死ぬまで悔やむだろう。(p.440)

Thursday, October 6

読書。柄谷行人『トランスクリティーク カントとマルクス』(岩波現代文庫)を読む。断定してしまってはたしてよいのかと思う事柄を思いきり断言してしまう柄谷行人の筆致を味わう。

カントは一般性と普遍性を鋭く区別していた。それはスピノザが概念と観念を区別していたのと同様である。(p.147)

精緻な実証を求める研究者であれば、どれくらい「同様」であるかについて論文を一本書きあげるかもしれない断定文。夕食、目玉焼きをのせたラタトゥイユ丼、麦酒。

Friday, October 7

終日雨模様で気温が急降下。秋を通り越して冬の寒さ。体調に影響を及ぼしかねない気温の乱高下する日々がつづくので、コロナよりもただの風邪のほうが心配である。読書。柄谷行人『トランスクリティーク カントとマルクス』(岩波現代文庫)を最後まで。つづけて柄谷行人『世界史の構造』(岩波現代文庫)にとりかかる。夕食、レモンクリームパスタ、ラタトゥイユ、麦酒。

Saturday, October 8

千代田線で乃木坂駅まで。東京ミッドタウンに向かって「酢重ダイニング六角」にて昼食を摂る。21_21 DESIGN SIGHTで「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」を見て、ペロタン東京でダニエル・アーシャムの個展「31st Century Still Lifes(31世紀の静物)」を見る。バスで六本木から渋谷まで移動し、渋谷PARCOのほぼ日曜日で「写真展 はじめての、牛腸茂雄。」を見る。強制的に見せられる冒頭の映像は必要なのか。東急百貨店渋谷・本店に移動し、「MARUZEN & ジュンク堂書店」で新刊本を物色する。二冊購入。Bunkamura ザ・ミュージアムで「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」を見学。帰りに渋谷文化村通りの「スターバックス」でカプチーノを飲んで、渋谷マークシティの「JEAN FRANÇOIS」でパンを買って帰る。夕食、白米、玉葱とわかめの味噌汁、小松菜とキャベツと鶏肉の酒蒸し、しらす、胡瓜の糠漬け、麦酒。『UP』10月号(東京大学出版会)を読む。

Sunday, October 9

一柳慧死去の報せ。朝食後、近所の花屋とスーパーマーケットで買いもの。昼食、鶏肉とみつ葉と生卵をのせた温かいうどん。映画鑑賞。『怒りの日』(カール・テオドア・ドライヤー/監督、1943年)を見る。読書。きのう購入した柄谷行人の新著『力と交換様式』(岩波書店)を読む。霊の話をしている。夕方、「イッタラ展」の物販で買ったフィンランドの麦酒「Lapin Kulta」を飲む。夕食、白米、鶏肉団子と青梗菜としめじと人参の鶏がらスープ、胡瓜とトマトともずくの酢の物、麦酒。