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Monday, September 5

残暑。朝の読書。アリ・スミス『春』(木原善彦/訳、新潮社)を読む。会社から帰ると『みすず』9月号(みすず書房)が届いており、編集部からのお知らせを読んで『みすず』が来年8月で休刊することを知る。雑誌に代えてWEBサイトを立ちあげる予定らしいが、インターネットで真面目な長文を読む習慣がないので、WEB化されるとたぶん読まない。毎年の「読書アンケート特集」は今後どうなるのだろう。こちらもWEB化されてしまうと個人的には読みが雑になる可能性がきわめて高い。夕食、茹で卵とハムと胡瓜とトマトをのせた冷やし中華、麦酒。

Tuesday, September 6

読書。小沼丹再訪。『椋鳥日記』(講談社文芸文庫)を読み返す。

また人混のなかを歩いてピカデリ・サアカス辺迄行ったら、ビイルが飲みたくなった。倫敦の空気は乾いているせいか、咽喉が渇く。尤も后で知合ったアダムと云う爺さんに云わせると、倫敦は大陸に較べて湿気が多いのだそうだが、尠くとも東京よりは乾いている。レストランがあったから這入ったら、これは先刻の食堂より迥かに広く客も多い。
着いたばかりで何も知らない。空いた席に坐ってビイルを注文したら、伊太利人らしい若い給仕が気の毒だがビイルは五時迄出せないと云った。初めてそんな規則があるのを知って面喰った。仕方が無いから、グレエプフルウツ・ジュウスとサンドイッチを注文した。(p.33)

このくだりを読んで思い出すのは吉田健一のことで、生年はそれほど離れておらず、同じく英文学を専門として、ともにロバート・ルイス・スティーヴンソンの『旅は驢馬をつれて』の翻訳を手掛けている吉田健一と小沼丹だが、しかし年譜などに目をとおしても、あまり接点がなさそうなふたり。もし二人に親交があったならば、小沼丹は吉田健一からつぎのような英国の酒場事情を事前に教わって、面喰らうこともなかったかもしれない。

しかしやはり夏になれば、英国で夏、方々でビイルを飲んだのを思い出す。英国の夏は前にも書いた通り、日本の晩春か初秋に似ていて、ただ日本のそういう季節とも違うのは北国の夏だけあって日が暮れるのがおそろしく遅くて、夜の八時や九時になってもまだ明るいことである。それでもう一つ付け加えておかなければならないのは、酒類を飲む時間には英国では戦争の前から制限があって、これは確か午前十時半、或いは場所によっては十一時から午後三時まで、それから午後五時半から十時半、或いは十一時までだったと思う。そしてこれは第一次世界大戦以来の習慣で、初めはその当時の手不足による止むを得ない処置だったのが、こうしても客の方で制限時間内に多勢飲みに来て、売り上げに変りないことが解り店のものが助かるのが、今でもこれを実行している。そして夏はいつまでたっても日が暮れないから、五時半から十一時まで制限時間一杯に飲んでも、東京で昼間から飲んでいるようなものである。(吉田健一『英国に就て』ちくま文庫、pp.264-265)

夕食、持ち帰り寿司、麦酒。夜、映画鑑賞。『はなればなれに』(ジャン=リュック・ゴダール/監督、1964年)を見る。

Wednesday, September 7

朝、きのう届いた『UP』9月号(東京大学出版会)に目をとおす。読書。小沼丹『椋鳥日記』(講談社文芸文庫)を最後まで。文庫解説で清水良典が「ロンドン名物の地下鉄が本書には一度も登場しない」と断言しているのが不思議で、以下の引用のとおり地下鉄の話はでてくる。編集も校閲も指摘しなかったのだろうか。

早目に家を出るとオックスフォオド・サアカスでバスを降りて、地下鉄のヴィクトリア線でヴィクトリアに行った。娘の話を聞くと、新しい地下鉄が出来て、ベネットの家の近くに駅が出来たから便利だと云う話だが、不便でも知っている路順の方がいい。(p.197)

夕食、鶏天と温泉卵をのせた温かいうどん。夜、映画鑑賞。『小さな兵隊』(ジャン=リュック・ゴダール/監督、1963年)を見る。

Thursday, September 8

蒸し暑さが少し和らぐ。朝、身支度の時間までユニクロのフリーマガジン『LifeWear magazine』を読んで、通勤電車の行き帰りで『みすず』9月号(みすず書房)を読んで、自宅に帰ってから『Hanako』(マガジンハウス)の京都特集を読む。夕食、牛肉ともやしと人参とほうれん草と温泉卵をのせたビビンバ丼、麦酒。

Friday, September 9

エリザベス女王死去。英国のメディアを中心にこれまでのエリザベス女王の活躍を紹介する記事が大量にでまわっているが、蓄積されていた「予定稿」が一気に放出されたのだと邪推する。読書。アリ・スミス『夏』(木原善彦/訳、新潮社)を途中まで。夕食、半田素麺、枝豆、桃、麦酒。

Saturday, September 10

千代田線の乃木坂駅下車。国立新美術館で李禹煥の展覧会を見る。入口に置いてあった「李禹煥鑑賞ガイド」と題された漫画がためになる。これまでの李禹煥のイメージそのままの集大成的な展覧会ではあるものの、あらためてその作品群に感銘を受ける。図録を購入。六本木の「SHAKE SHACK」で昼食ののち、小山登美夫ギャラリーで「上田義彦 Māter」を見てから日比谷線に乗って銀座まで移動する。「無印良品」と「UNIQLO TOKYO」で買いものを済ませて、シャネル・ネクサス・ホールで「シャネルを紡ぐ手 アンヌ・ドゥ・ヴァンディエール展」を見て、銀座メゾンエルメスフォーラムで「A Quiet Sun 田口和奈展」を見る。タクシーで丸ビルまで移動。乗車したタクシーはドアが完全に閉まる前から走り出してしまう。せっかちでよい。丸の内仲通りでやっているエルメスの企画「Le Monde d’Hermès Kiosk」に向かい、冊子『LE MONDE D’HERMES(エルメスの世界)』を貰う。「STAND T」で初秋の風に吹かれながらクラフトビールを飲んで休憩。帰りに丸の内オアゾの「丸善」に立ち寄り、単行本と文庫本と新書をあわせて10冊買って荷物が重くなる。夕食、葱と豚肉の蒸し餃子、卵とわかめの中華風スープ、キムチ、麦酒。

Sunday, September 11

近所のスーパーマーケットで食材の調達を済ませてから、自転車に乗って自由が丘へ。「白山眼鏡店」で新しくつくった眼鏡を受け取ってから、「ブックオフ」に立ち寄る。最近は新刊書店で本を買う回数が増えて絶版でなければ古本で買うより新刊で買ったほうが手っ取り早くてよいと思っているが、そういいつつ文庫本を5冊購入。「baguette rabbit」でパンを買って、「WONDER FLOWER」で花を買う。奥沢駅周辺に移動し、「OKUSAWA FACTORY」で珈琲豆を買って、「atelier Loulou」でケーキを買って帰宅。読書。吉川浩満『哲学の門前』(紀伊國屋書店)を読む。夕食、白米、油揚げと小松菜の味噌汁、鮪の刺身、鮪のたたき、納豆、冷奴と刻み海苔、しらす、麦酒、加賀棒茶。InterFMの「Barakan Beat」を聴いていたら、エリザベス女王の訃報に接してさぞや心を痛めていることでしょうというメールに対して、ピーター・バラカンが「いや、それほどでは」と正直に応えているのがよかった。