603

Monday, May 16

小雨。読書。吉田健一『昔話』(講談社文芸文庫)を読む。晩年の吉田健一の綴る文の特徴のひとつに「併し」の多用があるけれど、本来の逆接の接続詞としての意味合いにくわえて、吉田健一の用いる「併し」は話を転がすためのアクセントとしての機能も果たしているように思える。夜、映画鑑賞。『アメリカン・ユートピア』(スパイク・リー/監督、2020年)を見る。

Tuesday, May 17

読書。吉田健一『昔話』(講談社文芸文庫)を最後まで。残業。会社からの帰途、書店に立ち寄ってナチュラルワイン特集の『BRUTUS』(マガジンハウス)とウクライナ特集の『現代思想』(青土社)を買う。東京メトロのフリーペーパー『メトロポリターナ』(産経新聞社)の特集が「超入門メタバース」で、試しに超入門してみるもさっぱり関心がもてず。ところで記事のなかに「一時期流行ったオンライン飲み会をいまやっている人ってほとんどいませんよね?」とのコメントがあるのを目にして、そこまでして「飲み会」をやりたがる心持ちに対して理解の届かないところがあったが、やはり無理のある所業は衰退したのかとの感想を抱く。

Wednesday, May 18

会社からの指示によりPCR検査を受けなければならなくなり、山手線に乗って渋谷駅近くの検査会場に赴く。受けようと予約した場所のすぐ先にも検査場があって、白衣を着た人が通行人に対して「売り込み」をやっている。RCR検査の収益構造がどうなっているのか気になる。途中、渋谷スクランブルスクエアの前を通ると、若い男性が警察官から職務質問を受けていたのだが、警官が鞄の中身を確認しているのをほとんど気に留めず顎マスクでスマホをいじっている度胸のある姿に感心する。誤って振り込まれた4000万を超える大金をネットカジノで一挙に溶かした若者が話題になっているが、度胸のある新世代には頑張ってもらいたい。夕方、陰性の検査結果がメールで届く。渋谷まで無駄に移動しただけの徒労。夕食、ラタトゥユ、ライス、イタリアの赤ワイン。

Thursday, May 19

読書。牛歩戦術のごとく少しずつ読み進めてきたジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(丸谷才一、永川玲二、高松雄一/訳、集英社文庫)の第2巻が、ようやく最後まで辿り着く。新型コロナウイルス感染症対策を厚生労働省に助言する専門家組織が、屋外でのマスク着用は不要との見解をまとめたとのこと。コロナ禍初期から現在に至るまで発話行為のない屋外ではほぼマスクを着用してこなかった人間からすると、いまさらそんな見解はどうでもよい以外の感想はないのだが、マスク着用をめぐる意見が科学的な争点として議論された期間は束の間で、いまや「信仰告白」の領域でしかないのには眩暈がする。

Friday, May 20

読書。吉田健一『ヨオロッパの世紀末』(岩波文庫)を再訪。先日見学した「生誕110年 吉田健一展 文學の樂み」(神奈川近代文学館)の展示でも紹介されていたが、吉田健一と交わした会話について三島由紀夫がつぎのように書き残している。

帰り、吉田健一さんと二人で湘南電車でかえる。いつも鎌倉、大磯の鉢の木会のかえりは、吉田さんと二人で東京へかえるわけであるが、そのとき出る話題は決まっていて、怪魚とか一トンもある大蛇とか前史時代の怪物とか、そういう話ばかりである。(「裸体と衣装」)

『ヨオロッパの世紀末』の文庫解説を辻邦生が書いているのだが、酒席での吉田健一は「話題も無粋な文学論などはまったくなく、変った風習やネス湖の話などで、それがおのずと文明論になっていた」とのこと。ネッシー大好きな吉田健一。晩年に執筆された『昔話』を読んだあとに『ヨオロッパの世紀末』を読むと、どちらも吉田健一の文体であることは確かなのだが後者のほうがぐっと読みやすく感じて、辻邦生が「明晰な晦渋体」と呼んだ吉田健一独特の文章はけっして一枚岩ではなく、「吉田健一の文体」というとイメージは固定化されそうになるが、それなりの紆余曲折と変遷があることが見えてくる。会社から帰宅すると、郵便受けに『週刊読書人』(読書人)が届いている。蓮實重彦の語る、青山真治追悼。夕食、鶏肉と生卵とほうれん草をのせた温かい蕎麦、大根と柚子の漬物、麦酒。

Saturday, May 21

曇天。朝食、目玉焼き、サニーレタスとベビーリーフとベーコンのサラダ、パンドミとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。アイロンがけ。近所のスーパーマーケットで買いもの。台所まわりの掃除と常備菜づくり。昼食、白米、キャベツと茄子の味噌汁、鯵のひらき、南瓜の煮物、大根と柚子の漬物、加賀棒茶。午後は読書。『現代思想2022年6月臨時増刊号 総特集=ウクライナから問う』(青土社)を途中まで。夕食、鮭のムニエル、キャベツのコンソメスープ、サニーレタスとトマトとアボカドと生ハムのサラダ、バゲットとレバーペースト、オーストリアの白ワイン。

Sunday, May 22

晴れ。朝食、目玉焼き、サニーレタスとトマトとベーコンのサラダ、パンドミとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。洗濯を済ませてから外出。山手線に乗って東京駅着。アーティゾン美術館で「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策 写真と絵画−セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」を鑑賞。柴田敏雄の作品を見ると、写真に何が写っているかより先に、写真というメディアの平面性を強く感じる。つづけてコレクション展「Transformation 越境から生まれるアート」のなかで、ザオ・ウーキーの作品を久しぶりにまとめて見れてよかった。ミュージアムショップで図録を購入。COREDO日本橋の「平田牧場」で午餐。久方ぶりにとんかつを食べる。日本橋から銀座まで歩いて、ポーラ・ミュージアム・アネックスで流麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」を見学。「ビックカメラ有楽町」と「ルミネ有楽町」を徘徊してから、少し休憩しようと「AUX BACCHANALES」に向かうも行列ができているので退散して、エチカフィット銀座の「スターバックス」でストロベリーフラペチーノを買って飲む。「東急ハンズ」と「UNIQLO TOKYO」に立ち寄って買い物を済ませてから、最後はふたたび「ビックカメラ有楽町」に戻ってMacBook Airを買って帰る。もはやOSの更新ができなくなっている古いiMacの代替機として、デスクトップパソコンはもういいかなと思ってノートパソコンを選択する。古参のiMacは役割を終えてもらい、いま使っているMacBook Airを据え置き機に変更する予定。しかし古いMacBook Airの購入年を確認したら2013年で、こちらもだいぶ年季が入っている。夕食、豚肉の白ワイン蒸し、ベビースピナッチと紫玉葱のサラダ、バゲットとレバーペースト、麦酒。