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Monday, March 4

本降りの雨。ずぶ濡れを恐れていつもは徒歩の通勤ルートを変更して、バスを利用する。残業。帰り道も雨。購読期限終了の案内とともに『みすず』4月号(みすず書房)が届く。『みすず』の定期購読は送料共・税込で4000円とそれなりの金額がかかるので、流し読みせずにちゃんと読もうとあらためて思う次第。鈴木了ニの連載がはじまる。夕食、鶏肉ともやしと小葱をのせた味噌ラーメン、麦酒。

Tuesday, March 5

読書。四方田犬彦『ニューヨークより不思議』(河出文庫)を再読。以前に図書館で借りておもしろかったので、手元に置いておこうと購入した本。読了後、本棚の河出文庫がならぶ一群に仕舞う際、三島由紀夫の新潮文庫の背表紙が褪色しやすいのはよく知られているが、河出文庫の背表紙の薄くなりっぷりも相当なものであることに気づく。夕食、「ちよだ鮨」の持ち帰り寿司と麦酒。夜、映画鑑賞。『曳き船』(ジャン・グレミヨン/監督、1941年)を見る。

Wednesday, March 6

読書。大江健三郎『「最後の小説」』(講談社文芸文庫)を読む。毎年ノーベル文学賞の発表時期になると村上春樹が受賞するかが話題となるので、ノーベル文学賞の権威と世間的な認知はそれ相応にあると思われるが、そのノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の著作がきちんと揃っている書店は少ない。夕食、鮪の刺身と生卵と刻み海苔をのせた海鮮丼、あおさと絹ごし豆腐の味噌汁、麦酒。

Thursday, March 7

読書。池上俊一による岩波ジュニア新書を二冊、『パスタでたどるイタリア史』と『お菓子でたどるフランス史』を読む。会社帰りに髪を切る。明日は胃の内視鏡検査のため、夕食を抜いて早めの就寝。

Friday, March 8

胃の内視鏡検査のため朝から病院へ。『ぼくは散歩と雑学が好きだった。小西康陽のコラム 1993-2008』(朝日新聞社)のなかでいちばん共感をもって読んだのは、小西康陽がくも膜下出血で入院したときの模様を書いている、つぎのくだりである。

手術が終わって目が醒める。
痛み、などはない。
と、思いきや、口に呼吸器が嵌められていた。
とにかく、入院生活の中でコレがいちばん辛かった。
オレは風邪をひいたときに病院の先生から「お口を開けてください」と舌に金属片(アレは何て言うの?)を当てられただけで「オエッ」と来てしまう。
歯医者で奥歯の型を取るなんて以ての外。
意識しないようにしよう、と思うのだが、1分と持たない。
苦しくて、苦しくて七転八倒する。
ついに看護師の女性の腕にしがみついてしまう。
手術したばかり、とは思えないほど力が入る。

とてもよくわかる。他者から口に何かを入れられるのが強烈に苦手なので、内視鏡検査のまえの問診時に、嘔吐反射がとても強いことを医者に伝えると了解してくれて、「(鎮痛剤・鎮静剤を)がっつりいっちゃいますね」と云われる。多少の苦しみは覚悟のうえだったが、評判のよい病院を吟味のうえで選択したかいあって、まったく苦痛なく検査が終わる。口に胃カメラを入れられた記憶すらない。がっつりいっちゃっただけのことはある。混濁した意識状態から目が醒めると「終わりましたよ」と肩を叩かれ、「え? まだはじまってないでしょ」と『キッズ・リターン』(北野武/監督、1996年)のラストシーンみたいな事態になる。検査結果の説明も明快で、とてもいい病院にめぐり逢った。ここ一年あまりはストレス過多の日々がつづいたが、胃の状態に問題はなしとのこと。病院をあとにして、神保町に向かう。「東京堂書店」で待ち合わせ。久しぶりに神保町を訪れたのでいろいと見てまわりたいところだがあまり時間がないので、「東京堂書店」で池上俊一『王様でたどるイギリス史』(岩波ジュニア新書)と千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書)と『POPEYE』5月号(マガジンハウス)を買っただけで地下鉄の駅に向かう。神保町駅から半蔵門線と丸ノ内線を乗り継いで銀座駅まで。「SHISEIDO THE TABLES」で昼ごはん。出汁あんかけのお粥膳を注文する。内視鏡検査後の胃にやさしい食事。食後、三菱一号館美術館まで歩いて向かい、「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」展を見学する。平日だが結構混んでいる。銀座界隈に戻って、「いしかわ百万石物語・江戸本店」で加賀棒茶を買って、シャネル・ネクサス・ホールで「soul ジェーン・エヴリン・アトウッド展」を見て、「UNIQLO TOKYO」で花を買って、帰途に就く。夕食、小松菜と卵をのせた温かいうどん、焙じ茶。

Saturday, March 9

菊地信義の訃報を知る。蔵書に菊地信義『装幀談義』(筑摩書房)があったはずだが捜してみるも見あたらず。朝食、目玉焼き、サニーレタスとベーコンとトマトのサラダ、トーストとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。洗濯と掃除。『週間読書人』(読書人)の最新号に目をとおしてから外出。先週とおなじく今週もまた自転車に乗って九品仏に向かい「Comme’N」でパンを買い、田園調布の「Precce」に立ち寄り食料品を調達し、久が原の「秋庭商店」でワインを買って、帰宅。パンと珈琲の昼食。図書館で借りたジェリ・クィンジオ『鉄道の食事の歴史物語』(大槻敦子/訳、原書房)、サイモン・スポルディング『船の食事の歴史物語』(大間知知子/訳、原書房)、リチャード・フォス『空と宇宙の食事の歴史物語』(浜本隆三、藤原崇/訳、原書房)をざっくりつまみ読み。ふたたび自転車に乗って外出。近所の図書館とスーパーマーケットを廻る。夕方、ピルスナー・ウルケルと「TORRES」の黒トリュフポテトチップスを食べながら、東京特集の『POPEYE』5月号(マガジンハウス)を読む。夕食、ホタルイカと菜の花のパスタ、春キャベツと玉ねぎのホワイトスープ、王子サーモンとサニーレタスのサラダ、山梨の白ワイン。

Sunday, March 10

起床後、部屋と台所の掃除。朝食、目玉焼き、サニーレタスとベーコンとトマトのサラダ、バゲットとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。午前中は「BISCUITERIE BRETONNE」の焼き菓子と「Jubilee Coffee and Roaster」の豆で挽いた珈琲をお供に読書。千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書)を読む。冒頭あたりで「昔は読者に一定以上の教養を求め、読めないなら読めない方が悪いと突き放すのは普通でした。それでも読者はついていこうとしたのです」とのくだりがあるが、一世代前とちがって、最近の書き手の文章(本書も含む)はとても「親切」である。しかし親切であることが教育的身振りとしてどこまで適切かどうかは悩ましい話だと思う。気温が25度を超える初夏のような暑さ。突如、半袖の季節が訪れる。
午後は白ワインとピーナッツをお供に雑誌をめくる。『Hanako TRIP 好きなのは、京都らしさ。』(マガジンハウス)、『FIGARO japon』5月号(CCCメディアハウス)、『MONOCLE』4月号。夕食、春巻き、もやしとわかめの中華風スープ、麦酒。見田宗介死去の報せ。