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Monday, November 8

残業。労働時間が増大すれば読書の時間は減退するのが通常の反応であろうが、現況に対して叛旗を翻す抵抗姿勢をしめすかのような身振りで集中して活字を追っている。忙しないほど読書が捗る。宮下遼『物語イスタンブールの歴史 「世界帝都」の1600年』(中公新書)、『UP』11月号(東京大学出版会)を読む。平山亜佐子『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)を途中まで。法政大学出版局の新刊案内にサドッホ(後藤浩子、澤野雅樹、矢作征男)による『セックス 強度と発生』があって、サドッホってまだやっているんだと思った。夕食、ほうれん草と生卵をのせた日清チキンラーメン、ビール。濃い味のスープを飲み干すと大変健康に悪そうでよい。

Tuesday, November 9

雨。読書。読みさしの平山亜佐子『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)を最後まで。週末に途中まで読み進めていた大森荘蔵『新視覚新論』(講談社学術文庫)を最後まで。『新視覚新論』に附された野家啓一の解説を読むと、「大森の盟友であった哲学者山本信は、酒席ではあったが大森哲学を「天動説を維持しようとして次々に新たな周転円を加えて収拾がつかなくなっている体系」と評したことがある。周転円とは、大森が次々と繰り出す「立ち現われ」「声振り」「虚想」「脳透視」「無脳論」といった新奇な概念を指して揶揄したものである」とある。解説文はすぐあとに「大森が繰り出した新たな概念は、二元論という牙城へ向かって次々と放たれた渾身の一矢であった」と大森擁護に向かうのだが、山本信の「揶揄」には一理あると思ってしまう。しかし大森荘蔵の文体を愛する者としては続々と繰り出される新奇な概念こそがなにより魅力的なのであり、これは大森哲学の概念というより批判的な文脈で語られているものではあるが、本書『新視覚新論』でいちばん気に入っている用語は「ケセラセラ決定論」なる言葉である。声に出して読みたくなる日本語、ケセラセラ決定論。卓抜にすぎる語彙の選択が素晴らしい。夕食、白米、豚汁(人参、大根、油揚げ、長葱、いんげん)、土佐甘とうの素焼き、ビール。

Wednesday, November 10

読書。荒木博行『世界「失敗」製品図鑑 「攻めた失敗」20例でわかる成功への近道』(日経BP)と北村紗衣『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』(ちくま新書)を読む。映画。『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(マイケル・アプテッド/監督)を見る。

Thursday, November 11

そしてデスマーチはつづく。読書。清水唯一朗『原敬 「平民宰相」の虚像と実像』(中公新書)を読む。夕食、豚肉と舞茸と長葱の春巻き、土佐甘とうの素焼き、茄子と舞茸とあおさの味噌汁、ビール。

Friday, November 12

日中は暖かく朝晩冷える日々。読書。『世界哲学史1 古代1 知恵から愛知へ』(伊藤邦武、山内志朗、中島隆博、納富信留/訳、ちくま新書)をつまみ読み。夕食、ソーセージと粒マスタード、小松菜のソテー、キャロットラペ、ビール。

Saturday, November 13

晴れ。クローゼットを整理整頓。今後着用しないであろう洋服を一斉処分する。午前は歯医者に赴いて治療。次回の治療でいちおう1クール終了とのこと。1クールとは。と思って「クール」という語を大辞林で調べると、ドイツ語で「特定の治療や効果や副作用を見るために定めた期間」であると知る。昼食は簡単に「Soup Stock Tokyo」の冷凍スープ、東京ボルシチ。午後は街に出る。山手線の有楽町駅下車。銀座を歩く。「マロニエゲート銀座」の「UNITED ARROWS」が閉店したことをいまさら知る。ルミネカードを所有している者としては、すぐ傍に「ルミネ有楽町」があるので「マロニエゲート銀座」の「UNITED ARROWS」で買う積極的な理由はなく、ほぼ利用せずだったが。「UNIQLO TOKYO」で衣料品と花を買う。荒木博行『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)にユニクロの失敗事業として生鮮野菜販売が挙げられていたが、ユニクロの花屋はよいので停滞することなくつづいてほしい。銀座の街はアフターコロナを予告するような賑わいっぷり。人混みの復活。「ルミネ有楽町」に立ち寄り「UNITED ARROWS」でワイシャツとネクタイを買う。いまのご時世でいちばん売れなそうな商品を買っている。銀座線に乗るために地下鉄の乗り場へ。いつのまにやら東京メトロの銀座駅構内が綺麗になっていた。渋谷に移動。「TOWER RECORDS」でレコードを買う。竹内まりや「ヴァラエティ」とBuena Vista Social Club「Buena Vista Social Club」の二枚。タワレコは男性アイドルに関するイベントをやっているようで妙齢の女性で溢れかえっている。これからのCDショップの実店舗はイベントスペースとして生き残るしかないのかもしれない。渋谷ヒカリエの「LE PAIN de Joël Robuchon」でパンを買って帰る。夕食、「sacana bacca」のばらちらし、つぶ貝わさび、菜の花にしん漬、ほうれん草と茄子の味噌汁、ビール。radikoのタイムフリー機能で「RADIO SAKAMOTO」(J-WAVE)で流れた浅田彰によるBTS批評を聴く。浅田彰は暇なのかと思うほど相変わらずいろいろ知っている。この人の喋りの癖として「まぁ」という間投詞が多いことに気づくが、BTSの楽曲解説で興が乗ってくると間投詞が消える。キーボードを弾きながらラジオで曲を解説するとは、菊地成孔の御株を奪うようなことをやっている。

Sunday, November 14

洗濯。部屋の掃除。本棚の整理。近所のスーパーマーケットとドラッグストアで買いもの。レコードを聴きながら珈琲を飲みつつジャック=アンリ・ラルティーグの写真集を二冊眺める。夕食、焼肉(黒毛和牛、玉葱、ピーマン、サンチュ)、絹ごし豆腐とキムチ、卵とわかめの中華風スープ、ビール。ピーター・バラカンの番組「Barakan Beat」(InterFM)に沖野修也が出演しているのを聴く。沖野修也の声質と喋り方が誰かに似ていると気づいて、それは小谷元彦の声だった。そっくり。

サントリー学芸賞を受賞した竹倉史人『土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎』(晶文社)が学術的に妥当なのかが論議を呼んでいるらしい。土偶に興味はないので著作の善し悪しを語る資格はもちあわせていないのだが、サントリー学芸賞で思い出したのは、かつて田中康夫がサントリー学芸賞はサントリーだけに審査員は酔っぱらってるんじゃないかと語ったことである。いつまでもイロモノ感の拭えないサントリー学芸賞。