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Monday, July 30

うんざりする不快な暑さ。早朝から暑くて夕方も暑い。通勤の行き帰りの移動だけでどっと疲れる。

『図書』8月号(岩波書店)と大高保二郎『ベラスケス 宮廷のなかの革命者』(岩波新書)を読む。

夜ごはん、カレーピラフ、オニオンスープ、麦酒。

Tuesday, July 31

「LGBTは生産性がない」という国会議員による言説が議論を呼んでいるようだが、ジェンダーアイデンティティをめぐって反動的な主張が唱えられる理由、しかしながら時勢を考慮すればそれは無駄な抵抗であることが、見田宗介『現代社会はどこに向かうか 高原の見晴らしを切り開くこと』(岩波新書)を読んだら書いてあった。

「近代家父長制家族」とは、夫の経済力に対する妻の全面的、生涯的な信頼と依存、妻の生活処理能力に対する夫の全面的、生涯的な信頼と依存を前提とするシステムであり、強力にモノガミー的(一夫一婦制的)なモラルを形成し、またこのモノガミー的なモラルに支えられて初めて充全に生きられる。
この人生の根幹の安定をおびやかす恐れのある婚姻外的な性関係は、不吉なもの、許しえないもの=反倫理として感覚される。生涯的な相互依存と相互拘束のモノガミー制の関係の絶対性が解体すれば、婚姻前提の生産主義的な性のモラルも絶対性を失うこととなる。
「近代家父長制家族」の本質は、人間の生の全領域の生産主義的な手段化(instrumentalism)、という仕方での合理化の貫徹であった。それはリビドーの生産主義的な管理経済システムとして、productiveな性、未来に責任をもって育成する体勢(=婚姻)によって担保されている性のみを許容する。一見無関係であるように見える、近代家父長制的な家庭の理想像の解体と、婚姻主義的な性のモラルの解体が連動するのはこのためである。
生存の物質的な基本条件の確保のための戦いの強いる、生産主義的、未来主義的な〈合理化〉の圧力による、男女の平等の封印も性の自由の封印も、この戦いの勝利と共にその根拠を失って失効し、平等を求める女性たちの声、自由を求める青年たちの声の前に、「近代家父長制家族」のシステムとこれを支えるモラルと感覚の総体は、音を立てて崩壊を開始する他はない。

ところでこの小さな本の論述は、さらっと書いてあるけど数多の論点が埋め込まれている、そこを長々と引用するかというくだりがでてくる、ちょっとドン引きするような楽観的な話でエンディングをむかえる等々、あいかわらずの見田宗介だった。

夜、映画鑑賞。『パラダイスの夕暮れ』(アキ・カウリスマキ/監督、1986年)。カウリスマキ映画あるあるを考える。役者が誰も笑わない。食事の風景にでてくる料理があんまりおいしくなさそう。ロック演奏のシーンで楽器を弾いているのが大抵中年男性。

Wednesday, August 1

ろくでもない天気がつづいた7月が終わって8月に突入。本日もまた苦痛を感じる暑さ。

岩村充『金融政策に未来はあるか』(岩波新書)が抜群におもしろい。黒田日銀の金融政策について論じた本を紐解くと、リフレ派の主張は自己弁護的なくせに強気な叙述が鼻につくし、反リフレ派の主張は安倍晋三批判とごっちゃになっている感があってバランスが悪い。つまるところ、書き手の立ち位置を知れば最後まで目をとおす必要のない本が多いのだが、本書の切り口は新鮮でとても刺激的。著者の未来予想図がどこまで正鵠を射たものなのか難易度が高すぎてよくわからないところもまたいい。

夜ごはん、白米、小松菜の味噌汁、鮪の刺身、鯵のひらき、ホタルイカの沖漬け、麦酒。

Thursday, August 2

『大江健三郎 柄谷行人 全対話 世界と日本と日本人』(講談社)を読む。講談社文芸文庫の『柄谷行人 蓮實重彦 全対話』のときも思ったが、「全対話」って二人とも存命なのにもう二度と話す気はないのかと思う企画である。大江健三郎の発言がいろいろおもしろい。

夜、自宅シネマ。『過去のない男』(アキ・カウリスマキ/監督、2002年)を鑑賞。夜に映画を見るときは、スープをつくってそれを食べながら見るのだが、今夜はトマトとセロリと鶏肉のコンソメスープをつくった。カウリスマキの映画にでてくる食事よりはおいしいだろうと思う。

Friday, August 3

日本の報道を追っているぶんには関心が向きづらいが、BBCのラジオニュースを聴いていると、ジンバブエの大統領選挙の結果とその余波について連日トップニュースとして報じている。かつてイギリスの植民地だった地域なので、関心に温度差があるのは当然ではあるけれども。もっとも、ジンバブエの情勢に私もさしたる関心はないのだが。

週のあたまから少しずつ読んできたウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』(藤平育子/訳、岩波文庫)の上巻を読了。小説を読むときにネタバレ云々にまるで興味がなく、そもそも再読なので個人的にはどうでもよいのではあるが、本書は冒頭の登場人物紹介で物語のあらすじのほとんどを説明してしまっている。

夜ごはん、親子丼、わかめとキャベツの味噌汁、きゅうりと味噌、麦酒。

Saturday, August 4

『ハッピーエンド』(ミヒャエル・ハネケ/監督、2017年)を鑑賞。少女の着ているTシャツにプリントされている文字が「ALOHA」とか「I★JAPAN」とかで、なにかしらの意図があるのか気になる。

夕方、外出。暑すぎてとてもじゃないけど歩きまわる気にはなれないので、目黒区美術館までタクシーで移動し、Blitz Galleryまでタクシーで移動し、学芸大学駅までタクシーで移動する。真夏は交通費にお金がかかる。

目黒区美術館で「フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア」を見る。特になんの考えもなくマリメッコのトートバックで出かけたものだから、会場でフィンランド大好きっ子みたいになってしまった。Blitz Galleryでテリ・ワイフェンバックとケイト・マクドネルの写真展「Heliotropism」を見る。カタログを買う。夜は学芸大学駅ちかくのOsteria Bar Ri.caricaで夕食。

Sunday, August 5

天気予報で繰り返される「危険な暑さ」との警告。暑すぎて体調が悪くなる。終日自宅にて。

朝、自宅シネマ。『恋する惑星』(ウォン・カーウァイ/監督、1994年)を20年ぶりくらいに再見する。

マンガを読む習慣のまったくないなかで唯一全巻目をとおしている、よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社)の最新刊を読んだ。

InterFMの「Barakan Beat」を聴いてから、ラジコのタイムフリー機能でTOKYO FMで放送した村上春樹の番組を聴く。村上春樹の喋る声をはじめて耳にした。ちょっと意外な感じの声。なんとなく声質が小西康陽っぽい。

夜ごはん、豚肉とトマトとセロリのパスタ、きゅうりとサニーレタスのサラダ、麦酒。