382

Monday, May 21

淀川長治・蓮實重彦・山田宏一『映画千夜一夜』(中央公論社)にあるつぎのくだりにふれて、これから読む本としてパトリシア・ハイスミスの小説を積んでいる。

蓮實 同じ女流作家でも、パトリシア・ハイスミスのほうが、アガサ・クリスチイよりも映画では絶対に面白いですね。
淀川 もちろん面白い。ヒッチコックの映画で、パトリシア・ハイスミスの原作のものがあったでしょう。『見知らぬ乗客』がそうだね。
山田 あれがパトリシア・ハイスミスの最初の映画化ですね。
淀川 そうだね。それはアガサ・クリスチイよりずっといいわ。
蓮實 これは映画的になるんですね。パトリシア・ハイスミス本人をぼく見たことがあるんですよ。
淀川 ああ、そうなの、フーン。
蓮實 ロカルノ映画祭でヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』を上映したときに、うしろの席にいたんでびっくりしちゃいました。
淀川 もうだいぶおばあさんでしょ。
蓮實 ええ、スイスに住んでるんですが、おばあさんです。というより美しい老婦人といった感じでした。で、どうしてかなあと思ったら、ヴェンダースがその前に彼女の『贋作』を映画化して『アメリカの友人』を撮っているので、それでヴェンダースの映画を観にきていたんですね。
淀川 アガサ・クリスチイというのは評判がよくて、みんなが読んでるし、写真見て、こんな顔の人かってこともわかるけど、パトリシア・ハイスミスのことはぼく何も知らない。けど、パトリシアのほうが好きだな。
蓮實 絶対いいですよ。格が違います。

今月の『メトロミニッツ』(スターツ出版)の特集は「TOKYO まちとビール」。存在は知っているけれどいまだ訪れたことのない店がいくつか載っている。

夕食、卵と牛肉とかいわれの三色そぼろ丼、舞茸と小松菜のお吸いもの、たこわさ、ビール。

Tuesday, May 22

パトリシア・ハイスミス『キャロル』(柿沼瑛子/訳、河出文庫)を読了。ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラが主演をつとめ、トッド・ヘインズが監督した映画もとてもよかったが、小説もまたよかった。つづけて、おなじくハイスミスの『太陽がいっぱい』(佐宗鈴夫/訳、河出文庫)を読みはじめる。

夜、『雨に唄えば』(ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン/監督、1952年)を見る。再見。ジーン・ケリーが雨のなか歌いながらタップダンスを踊るシーン以外にも見どころはたくさんある映画なのに、あのシーンだけが特権的な扱いを受けているのはなぜ。

Wednesday, May 23

昼前から小雨が降る。

そのむかし日暮里の古書信天翁で購入したRichard Roudによる60年代ゴダール論(『Godard』)を読んでいる。この本についてインターネットで調べると、『ゴダールの世界』(竹内書店)として日本語訳もあるらしく、翻訳者の名前は柄谷真佐子だった。

Thursday, May 24

傍観者の立場からすると、リフレ派vs.反リフレ派の血腥い論争はどちらも自身の立場を譲る気はびた一文ないものだから、終わりなき反復のようにみえてしょうがないのだが、リフレ派の面々の主張で気になるのは、長年にわたり疎外的なあつかいを受けてきたルサンチマンが溜まっているのか、その理論的な強度は認めるにしても、彼らの筆致が往往にして素直じゃない点である。野口旭『アベノミクスが変えた日本経済』(ちくま新書)を読んでいたら、つぎのようなくだりに出くわす。

確かに、消費者物価上昇率を2%まで引き上げるという約束は、当初の想定であった2年以内どころか、黒田日銀の任期である5年以内でも達成できなかったのだから、その点に関して日銀に弁解の余地はない。とはいえ、そのことだけから異次元金融緩和政策そのものを失敗と決めつけるとすれば、それはあまりにも短絡的である。というのは、ある政策の失敗や成功というものは、その政策が本来何を目的としていたか、そしてその目的が実際に達成されつつあるのか否かという点から判断されるべきだからである。
それでは、インフレ目標政策の目的とは何か。それは直接的には「2%インフレ率の達成」そのものである。しかし実は、インフレ目標政策の本来的な目的は、物価それ自体にあるのでは必ずしもない。より重要なのは、望ましい雇用と所得の達成および維持である。というのは、インフレ率をいくら高めたところで、それ自体は人々の経済厚生すなわち豊かさを改善させるわけではないからである。一国が本当の意味で豊かになるためには、何よりも、一国の雇用が増え、所得が増えることが必要である。物価目標の達成というのは、そのような上位の政策目標からすれば、たかだか「目安」にすぎない。

言いたいことはわかるが、同時に素直じゃないな、とも思う。

本の終わりに印刷されているちくま新書の既刊案内をみると、岩田規久男や若田部昌澄や原田泰や片岡剛士らが執筆者として存在する一方で、翁邦雄もちくま新書から本を出している。おそらく担当した編集者は異なるのだろうが、もしもおなじ担当者だったら節操のない感じでよい。

Friday, May 25

『MONOCLE』6月号が届く。『ナボコフ・コレクション 処刑への誘い 戯曲 事件 ワルツの発明』(小西昌隆、毛利公美、沼野充義/訳、新潮社)を読む。

Saturday, May 26

『太陽がいっぱい』を読了する。原作と映画でラストが異なることを、いまさらながら知る。

「鹿島茂コレクション フランス絵本の世界」を見るために目黒の東京都庭園美術館に向かう。旧朝香宮邸の建物公開も同時にやっていたので、ひさかたぶりにウインターガーデンに入室。ウインターガーデンは公開期間を限定したうえに、やたらと注意事項を連発してくるのを不思議に思っていたら、どうやらあの部屋は消防法にひっかかっているらしい。

旧朝香宮邸は一時期、外務大臣公邸として吉田茂が使用していたので、吉田茂の写真がパネル展示してある。吉田茂の相貌を見るたびに、吉田健一って吉田茂にぜんぜん似てないなと思うのだが、吉田茂の妻である雪子の写真もあって、吉田健一は母親似であることがわかる。

目黒から有楽町まで山手線で移動。日比谷公園で開催中の「ヒビヤガーデン2018」に参戦。ビール2杯とソーセージとポテト。

Sunday, May 27

あたまに連休のある月は長く感じる。一月、そして五月。五月がなかなか終わらない。

戸越銀座駅ちかくのカレーの店「ストン」でお昼食。マトンキーマとインドの青鬼を注文する。おいしい。