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Sunday, August 14

DIC川村記念美術館に「サイ・トゥオンブリーの写真 -変奏のリリシズム-」を観に行く。トゥオンブリーの絵画作品にはあいにくまったく心惹かれないのだけれど、写真は大変よかった。1950年代に撮られた作品はゼーバルトが作品中に引用する写真を彷彿とさせるし、正方形のフォーマットも手伝って、タルコフスキーのポラロイド写真を思い出させるところもある。それから、室内を写した作品は彩度の低さや硬質な冷たさが小笠原美環の絵に通じる気がするし、小笠原美環の絵画はゲルハルト・リヒターに繋がるものもあって、などと、作品を観ながらどこまでも思考を拡げていくことができた。

鑑賞後はいつものように敷地内を散策。ある一角では、やぐらが組まれたりロープが張られたりして、お祭りの準備が始まっているようだった。わたしが「盆踊り大会の準備だね」とつぶやくと、夫は「サイ・トゥオンブリー音頭が流れるね」と意味不明なことを言い放ち、その後しばらく、わたしたちの頭のなかでは「イエローサブマリン音頭」 [1] の旋律で「サイ・トゥオンブリー音頭」が流れ続けた。

帰京して、東京都美術館で「木々との対話 -再生をめぐる5つの風景-」を観る。やはり須田悦弘と土屋仁応がいいな。夜は上野精養軒のビアガーデンにて、ジャンボメンチカツ、枝豆、小海老のアヒージョ、若鶏の唐揚げ、ピザ、ビールなど。

小林エリカ『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)を読んだ。複数のタイムラインが時折交錯しつつもパラレルに走り続ける手法はおなじみだが、やはり読んでいて愉しい。アート作品に付随するテキストも、こうした文芸作品も、わたしはこのひとの書くものが好き。誘発されて、キュリー夫人の関連本をいくつか読もうと思い立つ。小学生になった頃に買い与えられた数冊の伝記本のうち、いちばん最初に買ってもらったのがキュリー夫人、ヘレン・ケラー、野口英世だった。ヘレン・ケラーについて書いた夏休みの読書感想文では、優秀作品に選ばれて区内の読書感想文集に掲載された思い出がある。でもやっぱりいちばん印象に残ったのはキュリー夫人の伝記だった。キュリー夫人の書物=読書に対するすさまじい情熱や渇望が、子ども心に鬼気迫るものとして感じられたのかもしれない。

  1. イエロー・サブマリン音頭 金沢明子 []