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Saturday, April 4

所用あって浅草まで。花曇りでひんやりしているけれど、浅草公園は花見客で大にぎわい。川沿いを歩く。対岸の桜も綺麗だ。その向こうにスカイツリー。

10年ほど前の4月に、お台場のパナソニックセンターだったか、一日限りのイングマール・ベルイマン特集上映が開かれて、数本上映された。そのときわたしは『叫びとささやき』を観て、わー、ホラー映画だわ、と衝撃を受けてくらくらしながら会場を出て、季節柄、その後満開の桜を眺めた。だから何となく毎年、桜を見ると『叫びとささやき』を思い出すのだった。

おとといの晩、寝る前に、Twitterのタイムラインでマノエル・ド・オリヴェイラ監督死去の報を知った。不思議と、まだまだまだまだ、永遠に生きて、映画を撮り続けるように思っていたけれど、それは錯覚だった。いわゆる大往生というものだけれど、やはり心に空洞ができたようで、ぼんやりしてしまう。

Sunday, April 5

『大船日記 小津安二郎先生の思い出』(笠智衆、扶桑社)を読む。『秋刀魚の味』で、岸田今日子がママを演じるバーで笠智衆と加東大介がお酒を飲み交わす場面で、軍艦マーチに合わせて敬礼するシーンで受けた小津監督の演出についての回想が、なんとなく心に残った。わたしもあのシーンが好きだからだろうか。

あのシャシンには、とても好きな場面があります。

僕と、戦友の加東大介さんが、岸田今日子さんがマダムのバーでウイスキーを飲む場面です。常連客の加東さんが、「おいママ、あれかけろ」と言うと、岸田さんが『軍艦マーチ』のレコードをかける。加東さんと僕は、戦争中のことを思い出し、マーチに合わせて敬礼します。岸田さんもやるのですが、加東さんに「それは陸軍だ。海軍はこうじゃなくて、こうだ」とたしなめられる。僕は戦艦の元艦長で、加東さんは部下。海軍の敬礼のように頭の横じゃなく、顔の前のほうで手を真っすぐ立てるようにするのです。軍艦は狭いので、場所をとらないようにそうなったのでしょう。

いい場面でした。岸田さんが可愛かった。とても気に入っています。

先生と僕と加東さんが、セットで敬礼しているスチール写真が残っています。記念写真か演出風景かはわかりません。もし演出中だとしたら、先生が実際にやってみせられたわけで、たいへん珍しいことです。

あれが、先生から受けた最後の演出になります。

うー、笠智衆、大好き。笠さんの本は読んでいないものもあるから、これから読む楽しみがまだ残っている。

きょう深夜からFM横浜で、ピーター・バラカン&真之輔バラカンの新番組「アナログ特区」が始まった。嬉しくて聴き始めたが、数分で眠りに落ちてしまったようで、ガバリと起きてあわててオフにして、寝た。