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Friday, August 1

今週は残業ウィーク。

Saturday, August 2

土曜日。丸の内オアゾの丸善を冷やかしてから、小松庵で鴨汁つけ蕎麦とビールの昼食。外の強い陽射しを逃れるように地下道を歩いて、三菱一号館美術館へと向かう。「ヴァロットン 冷たい炎の画家」展を鑑賞。教科書的な美術史の流れに無理矢理収めるのであれば、いわゆる「ナビ派」の画家となるだろうが、そうした枠から大きく逸脱する数々の作品を残したフェリックス・ヴァロットンの画業を概観する展覧会で、たいへん充実した内容だった。出品数も多く、ミステリアスなまでに変貌する作品群を堪能できる展示に、おおいに満足して会場をあとにする。絵画と版画でなぜあれほど雰囲気が異なるのか、晩年の神話を題材にした作品はほとんどギャグにしか見えない、などなどこの画家への興味は尽きない。

ひとつ残念だったのは、作品に添えられた解説文があまりに誘導的であったこと。きわめて巧妙に誘導的、であればその周到な筆致の芸に感心しなくもないが、あまりに通俗的なかたちで誘導的なものだから、ちょっと興醒めである。

平和なはずの家族の食卓に暗澹とした雰囲気が立ち込める。妻ガブリエルと前夫との間にできた子供たちに囲まれ、ヴァロットンは黒いシルエットと化している。画家が自身の家族に抱く思いを表したこの心象風景は、そのまま現代の冷めた家族関係を暗示しているかのようだ。

たとえばこんな解説を前にすると、とりわけ最後の一文など、よくもまあ、と思う。「現代性」の眼差しを作品解釈に導入することで、豊穣にするどころか、むしろ偏狭にしてしまっているだけだという気がする。

売店で「フランス直輸入」と銘打って、18.5ユーロの図録を7000円を超える値段で売っているのには吃驚した。どういうレートの計算なのか。燃料サーチャージの値段でもプラスしているのだろうか。あと三菱一号館美術館は冷房が強すぎ。それは美術館側も自覚しているようで、館内ではショールの貸出をおこなっているのだが、係員が大量のショールを準備している姿を見かけた。そんな在庫を抱えるくらいなら設定温度を上げたほうが早いのではという疑問が生じる。

ヴァロットン展のあとは、おなじ美術館のひっそりとした一室で「バルテュス最後の写真 密室の対話」展を鑑賞。晩年のバルテュスがモデルをポラロイドで撮影したものが並んでいるのだが、資料的な価値は否定しようがないけれど、「バルテュスが撮影した」というありがたい事実を括弧に入れると、たとえばデイヴィッド・ハミルトンのようなものと何が違うのだろうという気がしなくもない。

丸ノ内線で池袋に移動し、西武池袋本店で開催中の古本市に寄る。これも欲しいあれも欲しいと選んでいたら、あれよあれよと荷物が増える。

Sunday, August 3

David Pilling, Bending Adversity: Japan and the Art of Survival。2002年から2008年までFinancial Times紙の東京支局長だった記者が書いた現代日本論を読んだ。外国人の書く日本論はしばしば内容が奇怪だったりするけれど、本書は丁寧に取材を重ねていて、わりと穏便な内容になっていると思う。一方で、目から鱗の独創的な論が展開されることもないので、読んでいて驚きも特にないとも言えてしまうかもしれない。読みながら、小泉政権や第1次安部内閣の時期を遠いむかしのように感じてくる。