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Monday, July 14

自宅の本棚に眠っている学生時分に読んだ本を再読している。きょう読んだのは、米本昌平+橳島次郎+松原洋子+市野川容孝『優生学と人間社会』(講談社現代新書)。「本書の重要な帰結の一つは、優生学が二度と許してはならない悪の極北として位置づけられるようになったのは1970年前後であった、という点である」と米本昌平が最後に書くように、イギリス、アメリカ、ドイツ、北欧、フランス、日本それぞれの優生思想の歴史的な系譜を丁寧にたどることで、紋切型の優生学理解を刷新する良書だ。執筆者によるそれぞれの論考は、たとえば青土社の雑誌『現代思想』なんかに載るというのであれば特段驚きはしない内容だけれども、生命倫理の先端の問題を新書というかたちにまとめて世に出したことに、感銘を受けたのを憶えている。

ところで、装丁の担当が杉浦康平から中島英樹になってからの講談社現代新書をほとんど読んでいなことに気づく。デザインが変わったときの当時の不評悪評を思い出すけれど、デザインが「軽く」なったと同時に、内容も「軽く」なってしまったような。

Thursday, July 17

『ku:nel』(マガジンハウス)の特集タイトルが「庭のよろこび。」で、表紙の写真は花の蕾、そして冒頭には鈴木るみこによるイギリスの庭紹介記事があるものだから、これはなんとなく梨木香歩あたりの匂いがするなあと思って最後まで読んでいったら、巻末エッセイが梨木香歩だった。

Saturday, June 19

丸一日寝食を忘れて蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」論』(筑摩書房)といいたいところだが、朝昼晩の食事は忘れないし、夜になったら眠くなる。朝はホットケーキと珈琲、昼は蛸と水菜のパスタと冷えた白ワイン、夜は浅蜊の白ワイン蒸しとサラダとバゲットとビール。夜の11時には眠りに入る。寝食を忘れない生活である。

Sunday, June 20

朝食を抜いて、恵比寿に向かう。今日は一日”フィオナ・タン三昧”とばかりに、東京都写真美術館でフィオナ・タンの映像作品を2本を見て、本人のトークショーを聴き、そして彼女の展示(すべて映像作品)を見る予定なので、食事をしている暇がない。腹拵えとして、なんとなくうどんが食べたい、と思って、恵比寿ガーデンプレイス内の飲食店一覧に目を通すも、うどん屋がない。そもそも時間が早すぎて、開店している店がない。やむなく、ガーデンプレイスのど真ん中のベンチで、ファミマで買ったどん兵衛を食べるという荒業にうってでる。ひさしぶりに食べたカップ麺は、ジャンクな味でおいしかった。

はじめに見たドキュメンタリー2作品『興味深い時代を生きますように』と『影の王国』はとてもおもしろく、こういう映像作品をわたしはもっと見たい。近年劇場で公開される最新作の宣伝惹句にまるで魅力を感じず、見たい気もちがまるで沸いてこないのだが、こういう作品が四六時中かかるのであれば、足繁く映画館に通うのに、と思う。つづけてフィオナ・タンのアーティスト・トーク。進行役は担当学芸員の岡村恵子。通訳に横田佳世子。カレー沢薫『ニァイズ』(講談社)を参照すると、学芸員の岡村さんは頭にサングラスをのせて描かれているのだが、このたび見た岡村さんもやっぱり頭にサングラスである。あれが正装なのだろうか。それにしても通訳横田さんの仕事量が凄かった。最後のほうで、観客からの質問にフィオナがうまく言葉を見つけられず匙を投げたら、すかさず内容をまとめてフィオナに確認し、本人了解のもとで代わりに回答するという芸当を披露。離れ業である。最後に展示(4作品)をじっくりと堪能。帰りがけにナディッフに寄って、これが売れないと始末書を書かなきゃならないと岡村さんが言っていた展覧会図録を予約注文した。

Post/limartとG/P GALLERYをまわり細倉真弓の新作をチェックしてから、Rue Favartで夕食をとる。朝昼兼用のどん兵衛からうってかわり、田舎風パテ、ニース風サラダ、鴨のコンフィ、赤ワインというヨーロッパ貴族のような夕餉である。