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Monday, November 4

休日。雨が降ったりやんだりの怪しげな曇天模様だったが、昼すぎ、外出することに。山手線で恵比寿に向かいRue Favartで食事を済ませたあと、東京都写真美術館で開催中の「須田一政 凪の片」展を見る。不勉強ながら写真家が天井桟敷の専属カメラマンだったことを知らずにいて、しかしながら、このあいだワタリウム美術館で見た寺山修司の展覧会での写真のなかに須田一政の名前があったのは記憶していて、ああそうか、そういうことか、と散在していた知識が整理され、ひとり合点する。展示はとてもよかった。

会場に置いてあった図録を確認したら鈴木一誌が寄稿しており、そのなかで大辻清司による須田評を引用している。で、何の気なしに、帰りに美術館併設のナディッフに立ち寄って畠山直哉の『BLAST』(小学館)を立ち読みしたら、あとがきでブックデザインを担当した祖父江慎について、大辻清司に似ていると畠山さんは書いている。大辻清司の相貌をよく知らないのだけど、祖父江さんに似てるの? 顔? 雰囲気? 

地下でやっていた「写真新世紀東京展」も合わせて鑑賞。優秀賞、佳作をぐるっと見わたすも、個人的にピンとくる作品には出会えず。写真を何らかのコンテキストのなかに据えて現代美術的な方法論を用いているような作品が目についたが、写真だけで真っ向勝負というのが少なく、もちろん作品にテーマはあってしかるべきだろうが、主題うんぬんを考える前に、ぱっと見て、嗚呼、これはいい写真! と単純に言えるようなものを見たい。ところで、審査員(大森克己、佐内正史、椹木野衣、清水穣、HIROMIX)による選考の模様がスライドで流れていたのだが、審査員五人のアー写みたいな妙な集合写真がうつし出されて、展示会場でいちばん印象的だった写真はこれかもしれない。

もらい損ねていた「ニァイズ」を入手。笠原美智子のキャラがどんどん凶暴化している。ナディッフで葛西薫のカレンダーを購入。

恵比寿から原宿に移動。ZipZapでギネスビールを注文し休憩していたら雨が降りだした。傘をさしてラフォーレミュージアム原宿に移動し、加茂克也展「100 HEADPIECES」を鑑賞。場所柄、展示内容を考えればあたりまえかもしれないが、会場はいかにもファッションに関心のありそうな服で身を包んだ者たちであふれていた。

マーク・ジェイコブスの本屋「ブックマーク」をのぞく。真面目な(?)本好きであれば怒りだしてしまうかもしれないオシャレ本屋だったが、パリ関係の本のなかに港千尋『パリを歩く』(NTT出版)があって、しかも三冊。なんで三冊もあるのか。あと、ロンドン関係の本のそばに夏目漱石『坊ちゃん』の文庫があって、なにゆえ『坊ちゃん』なのか。『倫敦塔』ならまだわかるけど。どうして『坊ちゃん』。

エスパス ルイ・ヴィトンで森万里子の展示「Infinite Renew (無限の再生)」を見る。

夜、渋谷のGREEN GRILLでブロッコリーとエビの小鍋、トマトリゾットの小鍋、じゃがいもと砂肝の小鍋、牛肉のグリル(かぶのソテーのほうれん草ソースを添えて)、グリーン野菜のペペロンチーノ、赤ワイン。

Wednesday, November 6

『みすず』(みすず書房)と『UP』(東京大学出版会)を読む。

夜、しらす干しと白米、油揚げとしめじの味噌汁、秋刀魚の塩焼きと大根おろし、野菜と茸の酢炒め、蒸しじゃがいもとパプリカのバジル風味。

Thursday, November 7

午後、仕事で市ヶ谷まで来たので、ついでにミヅマアートギャラリーに立ち寄り、ジェーン・リー展「秘密の庭」を見る。

夜、カレーうどん。鶏肉と卵とねぎをのせて。

Friday, November 8

『花椿』(資生堂)が届く。『花椿』を読むと後ろのほうに新作映画評があって、野崎歓が書いているのだが、びっくりするほど字数が少ない。たとえば今月号では『危険なプロット』と『ある愛へと続く旅』の二作品について、つぎのように書いている。

とかく大人の都合ばかり押しつけられて、子どもは大変だ。しかも、世界の未来の鍵を握っているのは間違いなく子どもなのだ。女子大生から中年の母親までを演じ切るペネロペ・クルスの姿から、そんな事実が感動的に立ち現れる。『危険なプロット』は大人を手玉に取る恐るべき美少年のドラマ。オゾンらしい皮肉とエグさが、やがて快感になってくる。

以上で終わりだ。短すぎ。編集者が書いて事足りるような分量で、こんな字数の原稿をなぜ野崎歓に依頼したのかがわからない。野崎歓が引き受けたのもわからない。

夜、居酒屋のようなメニュー。必殺、小鉢攻め。大根サラダ、蟹クリームコロッケ、冷奴と長ねぎ、かまぼこ、キムチ、油揚げの煮物、ネギ塩スープ。

Saturday, November 9

渋谷乗り継ぎで井の頭線に乗って駒場東大前駅で下車。日本民藝館、駒場公園、旧前田侯爵邸(今回は中に入らず外観だけ堪能)、日本近代文学館、河野書店という至福の道のりを辿る。

はじめて訪れた日本民藝館はいい建物だった。柳宗悦の書斎も見学できて、本棚に武者小路実篤の全集が中途半端に揃っているのが気になった。近代文学館では「芥川龍之介」を羅列した太宰治の赤面ノートが展示されていて、じっくり堪能。河野書店では以下の四冊を購入。
・中上健次『紀州 木の国・根の国物語』(朝日文庫)
・『ユリイカ 総特集:ソクーロフ』(青土社)1996年8月臨時増刊
・Virginia Woolf, To the Lighthouse, Harcourt
・Peter F.Ostwald, Glenn Gould: The Ecstasy and Tragedy of Genius, W. W. Norton を購入。
駒場東大前、いい街だけど、近辺の住宅を見わたすと駐車場付きの一軒家ばかりで、到底住める気がしない。

渋谷に戻って、美登利寿司で空腹を満たしたあと、Bunkamura ザ・ミュージアムで「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」を鑑賞。すぐそばにあるギャラリーATSUKOBAROUHで「植田正治の道楽カメラ」を赤ワイン片手に見る。500円ワンドリンクという不思議なシステムのギャラリーで、ドリンクって飾りみたいなものかと思ったらグラスにどぶどぶと注いでくれる。

Sunday, November 10

映画関連の本をまとめて読もうと集めている。集めるのに比して読むのがだいぶ疎かになっているので、まずはユルい感じのところから、和田誠と山田宏一の対談本『たかが映画じゃないか』(文春文庫)を近所の珈琲店で読む。どちらも似たような口調で書かれてあるので、途中どっちが喋っているのか混乱してくるのだが、それはともかく、映画をめぐるふたりの雑談が延々とつづいて愉しい。結論としてふたりともジェーン・フォンダと若尾文子が好きだということがよくわかった。

それにしても山田宏一はその文章から「いい人」感がいつもあふれている。文章しか知らないけど、山田さんはいい人だ。いい人にちがいない。蓮實重彦や金井美恵子といった邪悪な人たちと仲がいいのが不思議に思えてくるくらいである。

夜、鱈としめじとほうれん草のパスタにミニトマトをのせる。アルコールは赤ワイン。