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Monday, September 30

日本語の本を読むことからしばらく遠ざかっていたのだが、10月からは気分を一新し、読書に励むことにする。しかし、まだ9月だ。励むのは明日からにしたい。肩ならしに『図書』(岩波書店)と『一冊の本』(朝日新聞出版)を読む。

夜、胃がもたれ気味だったので素麺を食べる。

Tuesday, October 1

本を読む予定が雑誌を読んでいる。『装苑』(文化出版局)の11月号。特集は渋谷、原宿、表参道。

表参道近辺に来たら食事処としてCAFE Z.南青山(旧店名:Dragonfly CAFE南青山)をよく利用していたのだが、このあいだの日曜日に閉店することを知って悲しい。浅生ハルミン『三時のわたし』(本の雑誌社)にも旧店名で登場するZUCCaの上にあるカフェ。表参道駅前の喧噪からちょっとだけ離れた場所も便利で、食事もおいしく、天気がよければテラス席が気もちいい。困った。表参道で新たな店を開拓しなければならない。いい店がなくなってしまう。ほかにも、渋谷というか原宿というか、キャットストリート沿いでの食事は大抵Annon cookを使っていたのだが、こちらは代官山に移転してしまった。困った。

夜、たらこのパスタと赤ワイン。ワインは成城石井で買ったフランスのコート・ド・ガスコーニュ産。場所がどこなのかさっぱりわからないのでインターネットで調べる。

Wednesday, October 2

台風の影響か、ひどく蒸し暑い。10月からの課題は本を読むこと。それも何かしらのテーマをもって、家にある本を中心に読み進めること。

LIXILギャラリーでの「中谷宇吉郎の森羅万象帖」展がおもしろかったので、展覧会のカタログと樋口敬二編『中谷宇吉郎随筆集』(岩波文庫)を机にならべる。くわえて中谷宇吉郎の師である寺田寅彦の『柿の種』(岩波文庫)も。岩波文庫の随筆集のなかでいちばん魅力的に感じた「「霜柱の研究」について」は、カタログにも再録されていた。ところでこのカタログ、とても凝ったつくりの冊子で、よく定価1800円でつくれるなと本題とはべつのところに感心する。

夜、味噌ラーメン。

Thursday, October 3

iPadに入れているニューヨーク・タイムズのファッション記事の読めるアプリが、コレクション期間中なのでじゃんじゃか更新される。追いつかないでいたのを一気にまとめ読みして、ようやくマーク・ジェイコブズがルイ・ヴィトンを去る記事にようやくたどりつく。本を読めずに一日が終わる。

夜、ゆで卵と鶏肉のマヨネーズ焼き、白米、小松菜の味噌汁。

Friday, October 4

エコノミスト誌を7日間かけて読む習慣はなんとかつづいている。読むにあたって残る問題は語彙力。

夜、中村屋のレトルトカレー。届いた『みすず』(みすず書房)の10月号を少し。

Saturday, October 5

肌寒い土曜日、窓の外を見やると弱い雨が降りつづいている。近所のラーメン屋で昼食を済ましてから、バスに乗って図書館に向かう。

このあいだ東陽町のGallery A4で見た展覧会「トーヴェ・ヤンソン夏の家 ムーミン物語とクルーヴ島の暮らし」で知ったことだが、来年はトーベ・ヤンソンの生誕100周年。展示室のパネル説明によれば、ヤンソンの伝記を上梓する予定のトゥーラ・カルヤライネン(この人はヘルシンキ現代美術館キアズマの元館長)がキュレーターをとつめる展覧会が、2014年にヘルシンキで行なわれるとのこと。次年の旅の目的地は、ヤンソンの展覧会にあわせてフィンランドもいいかもしれない、と考える。調べたらヘルシンキの中心街にあるアテネウム美術館で開催されるようなので、美術館のホームページを確認してみたが、詳しい日程や内容はまだ発表されていない。刊行されるヤンソンの伝記も読んでみたいが、検索するとフィンランド語で書かれた本らしい。読めない。日本語になる日は来るだろうか。

フィンランド旅行を念頭にフィンランドに関する本を図書館で借りる。石野裕子『「大フィンランド」思想の誕生と変遷 叙事詩カレワラと知識人』(岩波書店)。フィンランドに行ったら日帰りでいいので地理的に近いエストニアも訪れてみたいから、あわせて小森宏美『エストニアの政治と歴史認識』(三元社)も借りる。

家に戻って郵便受けを覗くと『花椿』(資生堂)と『UP』(東京大学出版会)が届いていた。『花椿』では穂村弘と綿矢りさが対談している。

穂村 短歌をやっている人も変わった人が多いんです。一般の人はほとんどが車の免許を持っているのに、短歌作る人は一割くらいしかいない。
綿矢 あ、私、車の免許取ったのに、二回しか乗れませんでした。自分はこのラインか、と思いました。料理ができるようになった時、車は無理やけど料理はできるんやって安心しました。
穂村 信号を見て赤青黄の色自体の意味を考えないのが良いドライバーなんです。あの信号の青はちょっと緑っぽいとか考える人は駄目なドライバー。
綿矢 分かります。あと、今クラクション鳴らした人、すごく怒っているんじゃないかとか気になります。ほんまに運転している間、ずっとスーパーマリオやっている気分でした。

分かります。

夜、茹でた人参とさやえんどうと小松菜をのせたカレーうどん。

Sunday, October 6

週末はオクトーバーフェストに行くつもりだったのだが、天候が芳しくないので自宅周辺の移動に終始する。

午前中、食に関係する本(となると、あまりに間口を広げすぎだが)をまとめて読みたくて注文した本が、アマゾンから届く。

・Nathan Williams, The Kinfolk Table: Recipes for Small Gatherings
・Michael Booth, Sushi and Beyond: What the Japanese Know About Cooking
・Michael Pollan, Cooked: A Natural History of Transformation

KINFOLKのレシピ本の判型が大きくて驚く。画集のような料理本。載っているレシピを参考にしようとうっかり台所の近くに置いて飛び散った油で汚れてしまったら悲しい気分になりそうなほど、美しい装幀だ。Sushi and Beyondは『英国一家、日本を食べる』(亜紀書房)として邦訳が既に出ていてそこそこの評判のようだが、アマゾンのレビューを確認すると日本語版は原著から相当量を省いているようなので原著を取り寄せる。Cookedは気になってブックマークしておいた本。食関連ではほかにも、昨日行った図書館にペンギンブックスのGreat Foodシリーズがずらりと並んでいたので五冊ほど借りた。くわえて書棚から吉田健一『私の食物誌』と内田百閒『御馳走帖』(いずれも中公文庫)を取り出して、準備は万全。あとは読むだけ。

昼、焼肉屋で石焼ビビンバとビール。スーパーで食材の調達を済まし、家に戻って読みさしの『UP』と『みすず』を読了。『みすず』掲載の関口裕昭「ジゼル・ツェラン=レトランジュの銅版画の世界」を読んで、神奈川県立近代美術館の鎌倉別館において、パウル・ツェランの妻で版画家のジゼル・ツェラン=レトランジュの銅版画が、まとまったかたちとしては日本で初めて展示されているのを知る。12月1日まで。

近所のカフェで珈琲とチーズケーキをお供に、池内紀『異国を楽しむ』(中公新書)を読む。旅についての牧歌的なエッセイでなごむ。異国を旅するときは、このくらい鷹揚に構えているのがよいのかもしれない。

なぜチェックイン・カウンターでは職員がすわり、客が立っているのだろう。また職員のすわる椅子は、どうしてあんなに高いのだろう。ファーストクラスの客であれ、ビジネスクラスの客であれ、構造は変わらない。目玉のとび出るような高額を支払ったというのに、指示された位置に立って待っている。順番がきてようやく、すわる人に近づいていい。それはさながら裁判官の前に出頭するようなぐあいなのだ。
レシートの審査、本券の発行、預け荷物の引き渡し、機内持ち込みの確認。そういった一連の作業のあいだ、職員はすわったままで、品定めするかのように客を一瞥する。レシートに少しでも不審な個所があると、語気するどく詰問する。ときには五分、十分と交渉が長びく。
交渉となると、客は力が入るらしく、両肘をカウンターにのせ、顔をつき出す姿勢になる。うしろから見ると、上体を傾け、ひざまずいているように見える。無力なままに慈悲を願って嘆願しているかのようなのだ。そのための便宜に職員の位置が高くしてあるのだろうか。

カフェ滞在時間中にあっさり読み終えてしまったので、中谷宇吉郎がらみで読むつもりだった寺田寅彦『柿の種』(岩波文庫)を少し。解説は池内紀の弟、池内了。

東京へんでは、七月ごろから、もうそろそろ秋の「実質」が顔を出し始める。
しかし、それがために、かえって、いよいよ秋の「季節」が到来した時の、秋らしい感じは弱められるような気もする。
たまには、前触れなしの秋が来たらおもしろいかもしれない。

と大正十年に寺田寅彦は書いている。平成二十五年の来週の天気予報を確認すると、東京へんでは、最高気温が二十八度などと告げている。秋はどこにいった。

花屋で紫陽花とダリアとバラのブーケを買って帰宅。

夜、イギリスのビールを飲みながらフランスの映画監督ジャック・ロジエの短篇集を見る。『ブルー・ジーンズ』(1958年)、『パパラッツィ』(1963年)、『バルドー/ゴダール』(1963年)の三作品。ゴダール作品のなかで個人的に見ていていちばん眠くなるのが『軽蔑』(1963年)なのだが(フィルム缶を蹴っ飛ばすシーンで目が覚める)、ジャック・ロジエの『軽蔑』撮影現場を取材したドキュメントはおもしろく、最後まで目は冴えたまま。鑑賞後、劇場公開でのパンフレットを取り出して山田宏一「永遠の青春映画」を読む。