Thursday, August 29
一週間弱の短い期間とはいえ北欧の気候のなかですごすと、日本の夏があらためて地獄のように思えてくる。この時期に日本を訪れる外国人観光客の気持ちが理解できない。日本の夏はお盆とかあって都心に人が少なくなるので電車もわりと空いてるよ、とかなんとか意地悪な周囲の人間の言葉に騙されて、うっかりやってきた人たちなのではないかと勘繰りたくなる。
食欲があまりない。この世に素麺というものがあってよかった。
Friday, August 30
仕事帰りに大江戸線に乗り換えて六本木に向かう。ミッドタウンのオランジェで軽く食事。サーモンの薫製と玉ねぎのマリネ、豚肉と茄子のポロネーゼ、ギネスビール。
外国旅行で困るのは、食事処でメニューを出されても字面から一体どういうものが出てくるのかまったく想像できないことだが、日本のレストランでメニューを見ても、いつもよくわからないまま注文している。言葉の問題ではなかった。
国立新美術館でアンドレアス・グルスキー展を鑑賞。夏の国立新美術館は寒い。冷房機能が優れているのかイカレているのか、とにかく途方もなく寒い。2010年のマン・レイ展で体験した強烈な冷え込み。マン・レイの作品群の記憶もふっ飛ぶ寒さで、横須賀線なんて目じゃないという冷えっぷりだった。翌年、震災で電力消費量がさかんに叫ばれているなかでも、8月の国立新美術館は寒かった。ぶれない。
グルスキーはベッヒャー夫妻の直系という感じで、きっちりした写真を撮る。この「きっちり撮る」というのはドイツ現代写真のひとつの特徴かもしれない。一方で、グルスキーはフォトショ職人でもあって、コンピュータを駆使して建物をまるごと消したり複数の写真をつなげたり。どーん、と見るものを圧倒する写真がずらりとならぶ。
入口で配られた作品リストと展示されている写真の順序がバラバラで、逐一作品番号と題名を確認するはめになり、さながらオリエンテーリングのような様相を呈する。図録は買わず。グルスキーの写真は紙媒体に印刷されたものに触れるまえに、まず、どーん、という体験をしないとあまり意味がないかもしれない。
Saturday, August 31
早起きして鎌倉へ。ひさびさのスターバックス鎌倉御成町店。しかし夏のスターバックスもまた国立新美術館とおなじく鬼門で、店内はものすごく寒く、テラス席はものすごく暑い。居続ける場所がない。硬い椅子とともに回転率向上への戦略だろうか。ダークモカチップフラペチーノ、フィローネ ハム&マリボーチーズを庭の手前のテラス席で。
暑い。徒歩。暑い。
神奈川県立近代美術館の別館で、「野中ユリ展 美しい本とともに」を鑑賞。近年の神秘主義に接近する作品にはついていけないものがあったけれど(ランボーの姿を切り取ったコラージュとか、冗談に見えてしまう)、青を基調としたシンプルな絵画作品はよかった。
暑い。徒歩。暑い。死。
倒れ込むように小町通りにあるカレー店OXYMORONに入る。チキンカリー、紫キャベツのコールスロー、ヒューガルデン。
暑い。徒歩。暑い。
古本とリトルプレスと雑貨の店、Books mobloに立ち寄る。活版のしおりを購入。
暑い。徒歩。暑い。死。
江ノ電に乗って鎌倉高校前駅で下車。駅のベンチに座って眼前にひろがる海を眺める。鎌倉でいちばん好きな場所がここかもしれない。