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Friday, August 16

コペンハーゲン二日目の朝、曇り。

ホテルの1階にあるレストランで朝食。昼と夜の食事のあてをまったく考えていないので、朝のうちに食べられるだけ食べようとパン、チーズ、フルーツ、肉、魚など限界のかぎり皿に盛りつける。窓際の席に腰をおろすと、外にはセブンイレブンが見える。

デンマークとスウェーデンはEU加盟国だがユーロを導入していないので、貨幣による市場における交換は、それぞれデンマーククローネ(DKK)とスウェーデンクローナ(SEK)が必要になる。日本で両替すると流通量が少ないこともあってレートが悪く、北欧は完全なクレジットカード社会という情報だったので、SEKは5000円分の両替を日本で済ませておいたが、デンマークで使える紙幣も硬貨も持参しなかった(SEKは両替して、DKKは両替していなかったことに特に理由はなく、ただなんとなく)。しかし、日本と違ってヨーロッパのトイレは大抵有料でコインが必要になるだろうと見越して、朝食後、出かける前にホテルのフロントで500SEK札をDKKの硬貨に両替してもらう。

もっとも結論から言ってしまうと、デンマークではトイレのための硬貨はまったく必要としなかった。多くの公共施設や商業施設のトイレは無料で、コペンハーゲン中央駅のトイレは有料だったが、なんとクレジットカードが使える(逆にスウェーデンのトイレはほとんとが有料で、硬貨が必要だった)。ではデンマークでまったく硬貨が不要かというとそうでなく、美術館をめぐる場合、それなりの大きさの荷物を持っていると、受付で荷物をロッカーに預けるように必ず言われる。そのロッカーで硬貨が必要になるのだ。こういう痒いところに手の届く情報はガイドブックには載ってない。現地に行ってはじめてわかること。ちなみに日本の美術館とおなじように、デンマークの美術館のロッカーも荷物を取り出すときにコインは戻ってくる。

コペンハーゲン市内の観光はあとまわしにして、まずは郊外に向かう。中央駅からエストーC線に乗って終点のクランペンボー駅で下車。歩いて海岸に向かい、アルネ・ヤコブセンがデザインを手がけたベルビュー・ビーチを訪れる。浜辺の監視塔やシャワー、周辺の集合住宅や劇場もヤコブセンのデザイン。現地の若者たちがビーチバレーを楽しんだりしているが、観光客が誰もいない。本当にここは観光地なのかと思うほど観光客はだれもいない。遠くに目をやると、海岸線の感じがなんとなく鎌倉に似ている。

ひと通りの散策を終えて、列車でさらに北へ。ヘルシンオア駅で下車し、少し歩いてルイジアナ現代美術館に向かう。開館の数分前に着いたので、入口には数十人の人びとが美術館が開くのを待っていた。海岸沿いの自然に囲まれた立地の美術館で、なんとなく神奈川県立近代美術館の葉山館に近いものを感じたのだが(ルイジアナの方が規模はずっと大きいけど)、あとでインターネットで検索したら、葉山館を建てる際にルイジアナ現代美術館を視察したらしい。やはり。

常設展の現代美術作品を堪能。イヴ・クラインやジャコメッティの作品がたくさんあって嬉しい。美術館併設のカフェでビュッフェ形式のお昼ごはんののち、企画展を鑑賞。企画展は、オノ・ヨーコの回顧展。北欧に来てオノ・ヨーコの作品をめぐることになるとは。

美術館をあとにして、再度ヘルシンオア駅へ。ハンマースホイの作品があるオードロップゴー美術館に行きたいのだが、行き方がむずかしくてバスに乗らなくてはならないのだ。バスが嫌だ。鉄道ならともかく、だいたいバスはシステムがよくわからない。外国のバスだから嫌だというのではなく、日本でもバスが苦手だ。たとえば京都観光でバスは欠かせない交通手段だが、京都のバスはさっぱりわからないので気が滅入る。時間通り来るかもわからないし、路線図もむずかしいし、料金のシステムもいろいろだし、下車の方法もそれぞれだったりして、とにかくバスがあまり好きではない。で、ヘルシンオア駅でバスの時刻表を確認したところ1時間に1本くらいしか来ないようなので、歩くことにする。徒歩25分くらい。デンマーク郊外の樹々が屹立する道をひたすら歩くという、それはそれで貴重な体験をして、オードロップゴー美術館に到着。

ザハ・ハディド設計のコンクリート建築と趣のある洋館がならぶオードロップゴー美術館。美術鑑賞とカフェでビール。美術館を奥に進んだ先にあるフィン・ユールの自邸は閉まっていて、見学できたのは外観のみ。帰りにハンマースホイの画集を買う。レジにもっていったその本の解説がすべてデンマーク語なので、受付の女性が英語版がないかを捜してくれたのだが結局見あたらず、これでいいか? と訊かれたので、「デンマーク語を勉強します」と適当にも程がある回答をし、信用のおけない日本人観光客の出現として記憶されたかもしれない。

さすがに疲れたので帰り道はバスに乗ろうと意を決して待っていたら、満員だったらしく、バス停に停まる気ゼロの感じでバスは過ぎ去っていった。地元のおばあさんたちも、あらー、という感じで途方に暮れている。仕方がないので、帰り道も徒歩。

コペンハーゲン中央駅に戻り、駅構内のセブンイレブンでミネラルウォーターを買って、いったんホテルに戻る。

日が暮れるまではまだ時間があるので、翌日の筋肉痛の恐怖を無視して、ラウンドタワーに向かう。ぐるぐる続く坂道を歩いていくと、屋上が展望台になっていて、コペンハーゲンをぐるりと見渡せる。ただ、それほど高い建物ではないので、泊まっているホテルからのほうがよく市内を見渡せるのではないかという疑いも。

ラウンドタワーのそばにあるアーノルド・ブスクという本屋に行きたかったのだが、残念ながらすでに閉店時間を過ぎていた。明日来るのは日程的にきびしいので、また今度デンマークに来たときにでも。本屋の場合、今度来たときにまでに存在していてくれるかどうかが若干不安ではあるが。

夕暮れの時間までコペンハーゲンの街を歩く。(途中で道に迷う)