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Sunday, January 1

一年のはじまり。初日の出に間に合うように起きてマンションの屋上にのぼる。数ヶ月前にたまたま屋上で日の出を目にし、これは来年の初日の出はここがうってつけだろうということになったわけだけれど、あいにく本日は曇りがちで太陽は拝めなかった。それにしても薄紫の空と清冽な大気がとても心地よい。穏やかな明けの空。

お節料理はもっと本格的にできたらよかったけど、昆布巻き、黒豆、大根とにんじんのなます、紅白かまぼこ、卵焼きなどをこじんまりとしたお重に詰め、とりあえず味も見た目にも満足がいくものになった。お雑煮は鶏肉、長ねぎ、せり、なると、ちくわ、お餅などを入れて盛りだくさん。ゆず七味を軽くふりかけていただく。ポーランドのビアマグには熱燗を。例年にくらべて圧倒的に飲酒量が少なかったので反省。来年は食材・酒ともに、もっと多めに用意しましょう。

お正月といえば名画である。もう何年前になるのか、十年ほど前、今はなき千石の三百人劇場で世界の名作を年末年始にかけて特集上映したことがあった。そこで観た『天井桟敷の人々』、『日陽は静づかに発酵し…』、『赤い砂漠』……年季の入った劇場の古めかしい椅子に身をうずめ、満ち足りた気分でいっぱいだった。幸福な空気を思い返す。今年は華やかに『フレンチ・カンカン』(ジャン・ルノアール監督、1954年、フランス/イタリア)、『トップ・ハット』(マーク・サンドリッチ監督、1935年、アメリカ)を自宅で鑑賞。

昼、朝と同じお節を食べ、夜、朝と昼と同じお節を食べる。飽きもせず。いや、ちょっと飽きてる。ラジオからは「美しく青きドナウ」が流れる。昨年のクリスマスイブの日誌にも書いたけれど、中学時代の学年全員での合唱はとても楽しかった記憶としてあって、そのとき「美しく青きドナウ」を歌ったおかげで今でも一曲フルで口ずさめる。

夜、悔しくも昨年読み残した『野蛮な読書』(平松洋子/著、集英社)を読みはじめる。表紙が昨年ポーラミュージアムアネックスで観たヴァレリオ・ベッルーティの絵。鮮やか。

Monday, January 2

昨年同様、一月二日は写美の日。朝から東京都写真美術館に向かい、「ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち」「日本の新進作家 vol.10 写真の飛躍」「映像をめぐる冒険 vol.4 見えない世界のみつめ方」を鑑賞。ブラッサイの写真に再会し、7年前に同じ場所で観た「ブラッサイ ポンピドゥーセンター・コレクション展」で夜のパリに魅了された記憶がよみがえる。あと一昨年読んだ『不完全なレンズで—回想と肖像』(ロベール・ドアノー/著、堀江敏幸/訳、月曜社)にはアジェの話に多くのページが割かれていた気がするので、再読してみようと思った。ランチは恵比寿ガーデンプレイスタワーでお好み焼きをいただく。お好み焼きは大好物で、特に広島風お好み焼きが好みで、3、4年前は一ヶ月に2回くらいのペースで食べ歩いていた。またばかみたいにお好み焼きが食べたい。お好み焼きはホットプレートを買ってじぶんで焼けばいい、というものではない。お好み焼き屋に行ったらなるべくカウンター席で、湯気に頬を潤しつつ、目の前で焼かれるのをじっくり観察した後に鉄板からわたしのお皿へとスライドされて食したい。行き帰りに昨年読みさしだった『フローラ逍遥』(澁澤龍彦/著、平凡社ライブラリー)を読了。

Tuesday, January 3

バーゲン! バーゲン! バーゲン! ということでバーゲンへ。メンズのショップで男性店員の着こなしに目を愉しませつつ、渋谷→表参道→代官山をまわるも、なんと一着も「これだ!」と思える一着にめぐりあえなかった。でもこういうことはときどきある。しかも、たとえばいまショーウィンドウのディスプレイなどで見られるコーディネートというのは、手持ちの服で十分に実現可能なもので、よくよく考えてみたら、わたしが切実にほしいのはユニクロのヒートテックと、水色や赤などのカラフルなタイツなのだった。代官山の蔦屋書店をポレポレ。辛いパスタとビールをたっぷり飲食し喉が渇いたので蔦屋書店でCDを視聴しながらアイスコーヒーを飲んだ。行き帰りは軽い文庫本を携帯。昨年、青山の古書日月堂で購入した『アポリネール傑作短篇集』(ギヨーム・アポリネール/著、 窪田般彌翻/訳、福武文庫)を読む。

Wednesday, January 4

午前中、自宅で『クリスマス・ストーリー』(アルノー・デプレシャン監督、2008年、フランス)。本当は昨年の今頃、恵比寿ガーデンシネマで観ているはずだった。午後、「これだ!」を探しにもう一度バーゲンに足を運ぶ。結局、ものすごく着回しのきくであろう黒のニットを一枚だけ買ったのだけど、そしてこのニットは体型に合っておりこれから頗る身につけることになるだろうけれど、やっぱり洋服は「こんなの買って何と合わせるの?」あるいは「これ似たようなのたくさん持ってるじゃん」という、賢く効率よくほかの洋服との調和を考慮するなどというところから遠く離れてしまったけれど買わずにはいられない持たずにはいられないんだ、という品か、じぶんに似合うこと極まりてこれを着ればまさにsupremeなじぶんを実現できる、といった品を買ってこそ天をめがけて自らを刺し抜くような「洋服を選び、購入する」喜びが生じるのであるから、やはり今年の冬のバーゲンは不発だった、と結論づけざるを得ない気がするのだった。

帰り道、夕ごはん何食べよう何食べよう、と考え、冷蔵庫の残り物やら頂き物などをかき集めた結果、バゲット、やまと豚のハム、ペッパーソーセージ、キャロットラペ&きゅうり&玉ねぎのサラダ、白ワイン、デザートにチーズケーキと図らずも豪勢に。お節から遠く離れて。

まだまだお休みは続くよ。

Thursday, January 5

午前中、『女は女である』(ジャン・リュック・ゴダール監督、1961年、フランス/イタリア)。お昼はお餅をもぐもぐ。固めに焼いたお餅のうえに無粋に砂糖をふりかけ、醤油をたらして食べるのが一番好き。新宿に出て、紀伊國屋レーベルDVD40%セールでついに念願の「オタール・イオセリアーニ コレクション DVD-BOX」を買う(富裕層でもないのに)。これでグルジアワインを飲みながらイオセリアーニ節をノンシャランと鑑賞できる。夜はここ数年来、会うたびにもっともホットなひとときを過ごせる友人と2人で新年会。最上階のレストランで美味しいフレンチをいただいた。彼女の肩越しに見える東京タワーの美しさに見惚れてしまう。美術雑誌『四月と十月』vol.22を読みながら電車に揺られて帰宅。

Friday, January 6

年末年始、諸事情によりじつに20連休をいただいたため、本日、21日ぶりの勤労。仕事初め。明日つくる予定の七草粥のことばかり考えていた。

Saturday, January 7

朝食は七草粥。春の七草をすべて揃えることは無理なので、小松菜とお雑煮の残りのせりを入れ、大根とにんじんのなますと黒豆を彩りとしてくわえ、お餅を投入していただく。自宅で午前十時の映画祭。きょうは『赤い砂漠』(ミケランジェロ・アントニオーニ監督、1964年、イタリア/フランス)を観始めたものの、七草粥で張り切りすぎたのか、観始める頃にはすでに眠く、始まってからは病的な眠気に襲われ、身体中が痛く、久方ぶりに金縛りにもあってしまい散々だったゆえ半分も観れていない気がする。気を取り直して美術館へ。東京都現代美術館にて「建築、アートがつくりだす新しい環境」を鑑賞のち、森美術館にて「メタボリズムの未来都市展」を鑑賞。いずれもたいそう楽しめて、気分が上向きに。「メタボリズム」の、矍鑠たる川添登のインタビューが生々しく幾許かの可笑しみも感じられて必見。もちろん歴史の生き証人としての言説としても注目。移動中のおともは『まいまいつぶろ』(高峰秀子/著、新潮社)。

Sunday, January 8

本日の自宅で午前十時の映画祭は『ラ・ピラート』(ジャック・ドワイヨン監督、1984年、フランス)、『ローラーとバイオリン』(アンドレイ・タルコフスキー監督、1960年、ソ連)。『ローラーとバイオリン』はタルコフスキーの大学の卒業制作作品だが、すでに雨、水、光のゆらめき、鏡などのモチーフが扱われている。少年がバイオリンの弓を操るたびに反射光が揺れ動くショットに呼応するかのように、偶然にも自室で、窓のカーテンの切れ目から車のウィンドウに反射した光線が射し込んで天井に鋭い光の模様を描いたのだった。

お昼をいただいてから東京国立近代美術館にて「ぬぐ絵画 日本のヌード 1880-1945」、「ヴァレリオ・オルジャティ展」。二日間で建築系の展覧会を3つ観たわけだが、昨日の2つに比べて、本日のはかなり能動的な鑑賞体勢が要求された。そのぶん難しいわけだけれど、何とかヴァレリオ・オルジャティの思想に近づきたくて展覧会カタログを買った。模型の白色の美しさも胸に残された。

新宿に移動し、知人と宴。久しぶりでとても楽しいひととき。年末年始はお正月料理のことばかり考えて暮らした。