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Monday, November 21

『花椿11月号 みる』『花椿12月号 よむ』(資生堂)読む。『花椿』、次号の12月号まで現在の誌面が続いたのち来年4月にリニューアルとのお知らせが。連載「自分風土記」は終わってほしくないと思う。これはずっと続いている連載で、わたしが初めて手にした『花椿』は1994年7月号で、いま手元にあるためこの号の「自分風土記」を見てみると大川豊が書いているのだった。隣の頁に目をやれば清恵子による「東欧通信」があり、「まとまらない結束 — ハンガリー狂算国」というタイトルでハンガリーがいかに数学国かということが述べられ、「自分風土記」の頁に視線を戻すと、上段には

《妖怪がヨーロッパに出没する。共産主義という妖怪が》こんな書き出しの本書を、今日の読者はいったいどんな表情で読み進むのだろう? にんまりと笑って、「何を今さら」と吹き出してみたりするのだろうか。

「何を今さら」というのは、ほかでもない。つい数年前、まさに歴史のひと齣として、私たちがソ連・東欧圏の崩壊を目のあたりにしたからである。

とはじまる、久間十義によるカール・マルクス『共産主義者宣言』の現代新訳(太田出版)の書評が掲載されているなどもろもろ興味深く、そういえば、1996年に伊井直行の小説『三月生まれ』(講談社)が刊行されたときに新聞に載った久間十義の評は素晴らしかったなあ、と思い出されその書評の切り抜きを読み返してしまったりするのだからやはり古雑誌や切り抜きなどの資料・文献は捨てられないのであるよ。

*今日の一枚  Yasuaki Shimizu & Saxophonettes/Bach Cello Suites

Wednesday, November 23

朝から薬局、スーパー、TSUTAYAに赴き用を済ませるなど精力的に動く。きゅうり・にんじん・パプリカのピクルスとキャベツ・大根・茗荷・生姜の即席漬けをいっぱいつくる(でもあっという間になくなる)。『キッチン』のみかげではないのでこの世でいちばん好きな場所は台所だとは思わないけれど、いようと思えばいつまででもいられる場所であることは間違いなく、台所に立つ時間を減らせばもう少し効率よく生活できるのにと思いつつ如何ともし難く、さあエプロンをはずそうと思った途端にこの壁だけ拭いておこうとか砂糖を補充しておこうなどと思い立つ(とはいえさぼってしまうこともしばしば)。『冷静と情熱のあいだ』のあおいのように料理の合間に本を読む、というのは理想の読書シチュエーションのひとつであると思うけれど、たとえばコトコト煮込んでいるあいだ、本を読むよりお飾りの白髪ねぎをつくったり片栗粉を水に溶かしたり保存容器を焼酎で清めたりしておくほうが自然な行為であるとも思う。

アイロンがけと縫い物をしたあと、近所をポレポレ散歩。知らない道を歩いたら知らない公園が続々と現れ、なんて灯台モトクラシー。木立の様子が好ましい公園でひさしぶりのバドミントンに興じる。

もう一度軽く買いものをして夕ごはんを食べ、ミケランジェロ・アントニオーニ『夜』(1961年、イタリア/フランス)を観る。映画と建築について少しだけ思いをめぐらせて。

*今日の一枚  Maria Muldaur/Maria Muldaur

Thursday, November 24

夕べ、映画と建築の話になったので、出勤前に手にとったのは『DETAIL JAPAN 2008年7月号別冊 映画の発見! 映画のセンスがなければ、もはや建築は出来ない』。新進気鋭の建築家48名が建築をキーワードに好きな映画10本を選んでいるのだが、集計結果を見るとトップ3が『ブレードランナー』(11票)、『2001年宇宙の旅』(10票)、『東京物語』『ベルリン・天使の詩』(7票)。対談や論考もいくつか収められており、巻頭、宇野邦一と鈴木了二が「映画と建築の出合う場所」というタイトルで対談をしていて、鈴木了二の「建築映画の巨匠というと、まっさきにデュラスになる。デュラスの映画を一本も知らなかったら建築家はモグリね(笑)。」ということばに司会者(DETAIL JAPAN)が「今回建築家へのアンケートで「わたしの十本」というのを挙げてもらったんですが、デュラスはたぶんゼロですね。」と応えているため本当にゼロだったらなんて皮肉、と思い再度集計結果を見てみたのだけれどトップ5以降あたりから票が割れまくって細かい字で映画タイトルが頁いっぱいに羅列されているためデュラス作品があるか否かを調べるのはやめにした。根気がない。

それにしても2008年刊行だったのか、このムック。今年3月にでた『映画空間 400選』(INAX出版)、気になりつつまだ読んでいなかった。

*今日の一枚  ミスリム/荒井由実

Friday, November 25

お昼は渋谷のマークシティ内の美登利寿司にて。お寿司とインドカレー屋さんで出てくるナン、これらはある一定の地点までもりもり食べ続けられるのに、その地点を超えると突如として満腹感に襲われ、もうひとくちも入らなくなり打ち止めになる。というのがわたしの持論なのですがいかがでしょう。駒場東大前へ移動し、お気に入りの河野書店へ。図書館で借りるよりもじぶんで所有したい、と思っていた澁澤龍彦の『フローラ逍遥』(平凡社ライブラリー)をやっと見つけた。古本屋で探している本に出会えたときの嬉しさといったら。『フローラ逍遥』は水仙、椿、梅、などなど25の花々について、美しい図版と小話を楽しめるのだけど、そこは書き手が澁澤なのであるから通り一遍の解説ではない。澁澤が通り一遍の解説をしていたらそれはそれで貴重ですね。という話。

駒場東大前は静かで好きな街だ。雰囲気を味わいつつ駒場公園へ。紅葉は必ず駒場公園と東大駒場キャンパスで見ると決めている。はずなのだけど、そういえば昨年は訪れなかった。旧前田侯爵邸洋館で、外からの陽光が窓硝子をとおして七色に反射するのを見ながらコーヒーで一服したのち館内を見学(見学無料+写真撮影可)。渋谷に戻って、ユーロスペースのフレデリック・ワイズマン特集上映最終日に駆け込む。『チチカット・フォーリーズ』(1967年)、『ボクシング・ジム』(2010年)。本日も盛況、立ち見も大勢。移動中、電車のなかでiPhoneでこの記事 [1]を読んでいて、地方のミニシアターの興行収入額に愕然としてしまったのだけど、たとえばこのワイズマン一回の上映で二百人近く人が集まりその額を一挙に達成できてしまうのかもしれず、やっぱり愕然としてしまう。映画館のデジタルシネマ導入についての記事はひとまずこれと、こちら [2]を読んだ。

*今日の一枚  Love Story ~Avec Piano~/Smooth Ace

Saturday, November 26

清澄白河ギャラリー行脚。その前に山食堂で豆のカレーライス(玄米)、ピクルス、ヨーグルトをいただく。とても美味しい。このお店、前を通るたびに気になりつつ今回初めて行ってみたら、なんとベルギービールのVEDETの生が飲めることが判明! ベルギービール好きには嬉しいお店。VEDETは瓶のデザインに水色とクリーム色が使われていて色合いが綺麗で、キャラクターの白クマも可愛らしいのでビアグラスを愛用している。そのグラスでいつもモルツやら麦とホップやらスーパードライやらYEBISUやらを飲んでいる。ベルビーギールはいささかお高いのでR。

古本屋ふたつ。eastend TOKYO BOOKSでは相当気に入ったにもかかわらずこれまで買わずにきてしまった林田摂子の写真集『森をさがす』(POCKET BOOKS)がパッと目についたので一瞬でお買い上げ。今年も清澄公園の紅葉は美しい。一本、枝ぶりが絶妙な木がある。綺麗な木陰ができていて、いつ見ても目を奪われる。小山登美夫ギャラリーで「ディエゴ・シン Table for one.」、Ai Kowada Galleryで「アートとプロダクトの不穏な関係」、キドプレスで「樋口佳絵展」、ヒロミヨシイで「津田直 REBORN」、タカイシイギャラリーで「前田征紀 ECHOES」、シュウゴアーツで「米田知子 Japanese House」。米田知子、やっぱりよかった。行ってよかった。

夜、六義園のライトアップを見に行く。お客さんがみな静かで落ち着いて庭園を逍遥することができた。茶屋は遠目に見るといっそう存在感を増して煌めく。それにしても水面に映るもののなんというひそやかな美しさ。海を見ているときのように、いくらでも見つづけられそうだった。

*今日の一枚  Diving into your mind/畠山美由紀

Sunday, November 27

キッチンにはハイライトもウイスキーグラスもないけれどたとえば珈琲豆と東欧陶器のビアマグがある。そのキッチンで本日も代わり映えのしない品々をつくる。

先日、資生堂ギャラリーで観たインドの女性写真家、ダヤニータ・シンの展示がとても印象的だったため購入した図録をぱらぱら。じぶんが女性であるためどうしても女性の表現者には、作家にしろ画家にしろ写真家にしろ映画監督にしろ、興味をかきたてられ、ダヤニータ・シンも例にもれず女性であるところに強く惹かれる。加えて作品が豊かな物語性を孕んでいるところに。暗闇のなか、茫とした灯りに照らされた木の写真があり、昨日、六義園で、ライトアップの灯りがうっすら届いた松の木を見ながら当然その一枚を思い出していた。ある写真にはスピヴァクのことばが添えられている。文脈を消失させるかもしれない危険を承知であえて一文を抜き出すなら「たぶん人間って、自分の本当の居場所にいるときは、もうそこは、名前もなにもないはずです」。以前、図書館で借りた際に読み損ね、先週、借り直していたため偶々手元にあったスピヴァク『ナショナリズムと想像力』(青土社)を読みはじめる。

  1. 「アート系映画が観られない!?」「映画料金は下がらない?」…映画のデジタル化がもたらすものとは? []
  2. これが、映画上映のデジタル革命だ []