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Wednesday, July 20

午前中、映画『春にして君を想う』(1991年、アイスランド)を観る。ものを言わずに多くのことを物語る映画。老人二人がいまいる環境を抜け出し生まれ故郷をめざす道程、いわば逃避行が描かれるが、監督は制作当時37歳で、この歳でこういう話を撮るとはどれだけ達観した人なのだろうという気もしてくるわけで、wikipediaを読めば監督は「文明批判や社会批判ではなく、古きよき田園生活の憧憬として撮った」とのことで、たしかに老女が若かりし時代を回想するシーンはぐっとくるものがある。主人公の老人男性が長年住み慣れた家をはなれるにあたって身のまわりのものを処分するシーンで、壁にかけられた、丸い額におさめられた写真を手にとると壁には額のかたちに白く色が残り、こういうひそやかなリアリティが保たれた作品こそ映画とよべるのだと思わされる。

銀座におでかけ。夜、このところモーレツに行きたい行きたいと熱望していた洋食屋・煉瓦亭で「昔ながらのオムライス」をいただいて満足。台風の影響か、夜は寒いくらいの気温になった。

*今日の一枚  Giant Steps/John Coltrane

Thursday, July 21

わたしが追いかけている本読みさんたちがみんな読んでるこの夏の鉄板本、『私のいない高校』(青木淳悟、講談社)を読了。なんですかこの小説は。ぽっか~ん。だけどなにがなんだかよくわからないながらもなにかなんだか面白い。「青木作品は難解というより無解」とは鴻巣友季子の言葉。そして舞台となった高校の授業科目がわたしのいた高校とよく似ていてへー、と思った。

昨年11月以来の馬喰町ギャラリー弾丸ツアー。馬喰町のランドマーク、アガタ竹澤ビルからスタート。TARO NASUで「Humid but cool, I think.」、FOIL GALLERYで「川内倫子写真展/Illuminance」、Gallery αMで「αMプロジェクト2011 成層圏 Vol.3 下道基行」。ちかくのmotusfortで「The Myth of Superflat: Slow Reveal: Another Japanese Photography in the 1990’s」。先週の銀座ギャラリーめぐりは苛酷で熾烈で猛烈な暑さのなかこの行程は正気の沙汰ではなかろう、といったものだったが今日はあまりの涼しさに七月の東京の気候もまた正気の沙汰ではないな、と思った。というか寒いってばもー。

アガタ竹澤ビルに入っている東欧の絵本や文房具などを扱う雑貨屋さん、CEDOKでポーランドの陶器展が行なわれているのを見て小躍りする。数年前まではポーランドの陶器なんて現地に行かない限り手に入らないのではないかと思っていたけれど(実際はどうであったのか知らないけれど)、今ではかなり頻繁にポーランド食器にまつわる催しが行なわれている気がする。 ポーランド陶器はおもにドイツ国境近くのボレスワビエツという街でつくられている。焼き物に適した土があることから1800年代のおわりに陶芸学校ができ、じょじょに栄えていったらしく、今ではいくつかの工房が集まっている。ぽってりしたかたちと愛嬌のあるユニークな模様がとても愛らしいが、この模様は特殊なスタンプで絵付けされており、スタンプはバルト海の海綿からできているらしい。バルト海といえば琥珀も名産で、ポーランド名物として琥珀のアクセサリーも有名。バルト海の海綿と琥珀。情緒溢れる光景とアイテムにココロオドル。今回CEDOKで催された展示と販売ではネットショップのツェラミカがアルティスティッチナ、ボレスワビエツ、VENA、ミレナ、WIZA、の5つの工房から製品を買い付けていて、たぶんわたしが買ったのはミレナ社のものなのだけど、実はポーランドの陶器は器の裏をみてもあまりはっきりとは工房の名前を記していなくて、Poland, BoleslawiecとかHANDMADE in PolandとかMANUFAKTURA in Polandとか国と地名くらいしか書かれていないためその潔さに感心してしまう。

ポーランド陶器は口当たりがやさしく、オーブンも食器洗浄機も使えるというもの実用的。現地でいくつも購入したものの、もし落として割ったら…と思うととてもじゃないけど使えなくてときどき取り出しては眺めていたけれど、さすがにそろそろ実際に使ってみようかと思う。ただこの陶器はあまり数多く並べるとごてごてしてしまうから、食卓に1個か1組のみ置くのがよい。

厩橋から東京スカイツリーを眺め、スカイツリーにはさほど思い入れはないけど完成前に一度写真でも撮りに行こうかなあなんて考えた。そして本日は土用の丑ということで鰻重をいただいた。千駄木の古書ほうろうに行ったら『生きることの地獄と極楽 武田泰淳対話集』(武田泰淳、勁草書房)を見つけ、すっごいタイトルだなあと驚いて思わずレジに持っていってしまった。こんな対話集を出していたのだなあ。対話者には加藤周一、立原正秋、古井由吉、埴谷雄高、開高健などが名を連ね、なんてパラダイスな面々であることかと。

*今日の一枚  STANDARDS gift 〜土岐麻子ジャズを歌う〜/土岐麻子

Saturday, July 23

『こちらあみ子』(今村夏子、筑摩書房)を読了。この本は誰かが強烈な勧め方をしていて興味をもったのだけど誰が勧めていたのかも書評の内容も読んだのが何の媒体だったかもわすれてしまった。図書館に予約してわすれたころに手元に届いて読んでみたら、ストーリーやキャラクターよりもこの作家の文章の上手さに感服したのだった。ネットでいくつか書評を読んだけど、川上未映子が書いたものがもっとも的確だと思われ、腑に落ちた。

『鳩の薄闇』(飯島耕一、みすず書房)を読みはじめるが雑用に時間をとられる。あとは料理の試作など。

*今日の一枚  ベストだぜ!!/ウルフルズ

Sunday, July 24

浴衣を着て谷中・根津・千駄木を散歩するといういかにも…な夏の夕暮れを過ごす。この浴衣は15歳のときにじぶんで縫ったもので、袖も裾もすこし短くなったものの、まだまだ着れるまだ着れる。15歳にしてはなかなかシックな柄を選んだではないか、よくやった! と昔のじぶんをほめてあげたい。帯は文庫結びにした。浴衣を着て歩くとすれちがう人(年輩の女性であることが多い)に「あら、今日はお祭りでもあるのかしら」と言われる。うふふちがうのよ、と何人騙せたかを競う遊び。

夜は花火。前方にシューと迸る花火よりも全方位にバチバチと飛び散るような花火が子どもの頃から好きでそのさまはバレエのクラシック・チュチュ(円形で丈が短い)や金平糖を彷彿させる。チュチュといえば昔はクラシック・チュチュより断然ロマンティック・チュチュ(丈が長くてふんわりしてる)が好きだったがいまではクラシック・チュチュも好き、だがロマンチストを自称する身としてはやはりロマンティック・チュチュ派なのであるとしておこう。

*今日の一枚  Back To Black/Amy Winehouse