Monday, January 7
カール・リヒターが指揮するバッハのマタイ受難曲をBGMにしながら磯山雅の『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』(講談社学術文庫)を読んでいたのだが、イヤホンからアリア「憐れみ給え、わが神よ」が流れ出したらもう、いまひらいているページの活字よりもタルコフスキーの映画を思い出してしまって、あたまのなかは「サクリファイス」に占拠される。このタルコフスキーの遺作について、蓮實御大の意見はかなり否定的だったと記憶しているけれど、ラストで家屋が炎々と燃え上がるシーンが撮影中にカメラが停止してしまったがためにセットをぜんぶつくり直して再撮影されたというエピソードがあまりに「泣ける話」なので、肝心の映画の中身のことはあんまり憶えてなくとも同情票を入れたくなる一本。
Tuesday, January 8
会社帰り、渋谷マークシティの和幸でロースかつ御飯を平らげてから井の頭線に乗って下北沢に向かう。「パリを歩く 記憶の街へ、移民街へ」をテーマに、清岡智比古と港千尋のトーク。B&Bにて。ウディ・アレンの映画「ミッドナイト・イン・パリ」で、冒頭短いショットの連続でパリの観光名所をつぎからつぎへと見せてゆくシーンがあるけれど、あれが一般的な旅行者たちがガイドブックの類いに従ったときの名所旧跡めぐりだとしたら、トークショーでふたりが語るパリの風景は、アフリカ人街、インド人街、ユダヤ人街、中華街などなど、とても観光客で溢れかえることなんてなさそうな移民たちが暮らすスポット。パリの地図でこれらの場所を確認すると、北のサクレ=クール寺院から南のサルペトリエール病院あたりまで縦線を引いてみたならば、そのラインの周辺に移民街は点在している。そこはパリの東側。経済的に豊かな層が暮らすパリの西側の景色とはまったく異なる風景が待っている。都築響一が探索した「東京の右半分」のように「パリの右半分」がいかにエキゾチックな雰囲気で包まれているか、くわしくは清岡智比古の近著『エキゾチック・パリ案内』(平凡社新書)に書いてあるというので、あとで読もう。
Wednesday, January 9
ガチャピンとプーチンをグーグルの検索窓に放り込むと、両者の共振関係が多数報告されている事実を確認できる。ポンキッキに出演しているほうではなくロシア大統領に返り咲いたほうについて共同通信の記者が書いた『プーチンの思考 「強いロシア」への選択』(佐藤親賢/著、岩波書店)を晩酌とともに一気読み。あとがきで関係各位に謝辞を記しているのはどの本でもよくあることだが、「様々な事情により一人一人のお名前を挙げることはできない」というくだりがなんとも意味深で、ちょっとした闇を感じずにはいられない。
Friday, January 11
清水靖晃&サキソフォネッツ、鎌倉芸術館にて。バッハとオリジナル作品が交互に奏でられ、途中で波多野睦美のメゾソプラノも加わる。アンコールで演奏された無伴奏チェロ組曲のあまりの格好良さに痺れる。
Saturday, January 12
自宅でシネマは豪華四本立て。「北の橋」(ジャック・リヴェット監督)、「キングス&クイーン」(アルノー・デプレシャン監督)、「ヴェルクマイスター・ハーモニー 」(タル・ベーラ監督)、「霧の中の風景」(テオ・アンゲロプロス監督)。ずいぶんと濃い四本を選んでしまって、すべてを観終えた頃にはぐったり。
Sunday, January 13
前日の映画マラソンによる体力消耗にもめげず、やや疲れ気味の身体に鞭打って、世田谷美術館で松本竣介展、スパイラルガーデンで石本藤雄展、表参道ヒルズでPHOTOGRAPHY展をめぐる。そういえばスパイラル1階のカフェでドイツビールを飲んでいたら、隣の席では『AneCan』の編集者が撮影の打ち合わせをしてた。(盗み聞き)