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Tuesday, September 25

二週間ほど前にいちど読了したものの、もういちどページをめくりたい気分になってモーリス・ブランショ『謎のトマ』(篠沢秀夫/訳、中央公論新社)を読んでいる。訳者の篠沢教授については、「クイズダービー」の解答者としての顔と保守派の論客としての顔とブランショの紹介者としての顔がいまだ同心円上にうまく描けずにいるのだけれど、それはそうと先日、筋萎縮性側索硬化症を患っている篠沢教授の闘病生活の模様を昼間のワイドショーが取りあげていたらしい。聞くところによれば『謎のトマ』のこともどーんと紹介されていたというけれど、お昼のワイドショーのメンタリティとは、ずいぶんとまた遠く離れた小説だと思う。

夜、白米、油揚げと葱の味噌汁、秋刀魚の塩焼き、かぼす、大根おろし、もやしのナムル、ひじきの煮物、烏龍茶。

Wednesday, September 26

英文法についての本を読みたくなって、大西泰斗『英文法をこわす 感覚による再構築』(日本放送出版協会)と澤井康佑『一生モノの英文法』(講談社)を図書館で借りる。後者を読んだら前者の向こうを張っていた。語学の本において、文法構造を説明する場面では理性的なのに、学習論に突入した途端に論者を熱くしてしまうのはいったい何だろう。

夜、焼き豚肉とほうれん草とかぼすをのせた温かい蕎麦、葱と茗荷の冷や奴、烏龍茶。

Saturday, September 29

休日出勤。オフィスビルの窓からは、青空を背にして聳える東京タワーが見える。窓から地上を見下ろすと、小学校で運動会をやっている。9時/5時で労働のあと、新宿ニコンサロンに立ち寄り石井保子写真展「houses」を鑑賞。

Sunday, September 30

沼野充義が「ユーラシア文学の世界に分け入る俊英たちによる研究書」として紹介した本をちびちびと読み進める第一弾、阿部賢一『複数形のプラハ』(人文書院)。

ドゥルーズ/ガタリの言を俟つまでもなく、カフカは「プラハにおけるドイツ系ユダヤ作家」という位相に収斂され、またその位相を通して様々な読みが提示されてきたのは周知のとおりである。だが、ドゥルーズ/ガタリにしてもその著書『カフカ マイナー文学のために』において完全に見落としているのが、「プラハにおけるチェコ系ユダヤ作家」という位相である。