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Monday, February 13

長谷部千彩がブログのどこかで人間関係を複雑にするのがあまり好きではないと書いていて、レコード会社の社長という職にありながら人脈づくりに不熱心というそのスタンスに少しばかり吃驚しつつも、そしてわたしと長谷部千彩とでは社会的なポジションがちがいすぎるほどちがうけれど、とても共感をおぼえた。おなじように可能なかぎり人間関係を複雑にしたくない、と思いながら日々生きている。人に逢うのはあくまで「例外的な事件」として。しかし往々にして事件は起こる。願わくばそれが喜ばしい事件であらんことを。夜の食卓は、ほうれん草とベーコンのパスタ、白ワイン。

Tuesday, February 14

『ペソア詩集 海外詩文庫16』(澤田直/訳編、思潮社)を読む。「ペソアウィルス」の感染力を思う。夕食、ビーフハヤシライス、ロゼワイン。

Wednesday, February 15

アントニオ・タブッキ『他人まかせの自伝 あとづけの詩学』(和田忠彦、花本和子/訳、岩波書店)を読む。前日に読んだフェルナンド・ペソアの詩集にはアントニオ・タブッキが文章を寄せていて、『ペソア詩集』と『他人まかせの自伝』はまったく異なるきっかけで手にとったものだったが、本のリレーがくりひろげられてゆく。夕餉、白米、葱の味噌汁、豚肉と玉葱の炒めもの、ビール。

Thursday, February 16

会社の研修できょうはホテルに宿泊しなければならない。自宅からホテルまでの移動時間をしらべてみれば30分くらい。会社に行くより近いという、いったいなんのために宿泊しなければならないのかよくわからない事態になっているけれど、ともかく終日研修。夕食を兼ねた懇親会は雀の涙の社交性を発揮することでなんとかしのぎ、夜はそっと、ひとりで外へ。遅くまでやっている店をさがして、「BOOK246」の隣にあるカフェ「CAFE246」へ。賑わう店内はカウンター席しかあいていないというのでそこに座り、ビールとフライドポテトを注文して、しばらく前に買ったきりで未読だった山尾悠子『ラピスラズリ』(ちくま文庫)をひらく。そういえば「BOOK246」で『ペソアと歩くリスボン』(近藤紀子/訳、彩流社)なんていう本が存在することを知る。

Friday, February 17

宿泊のホテルで朝食も可能なのだけれど、その食事処はなんとなくしょぼい雰囲気のフロアで、きょうも一日研修で朝から気分が閉塞するのもできれば避けたいというのもあって、散歩がてらきんと冷えた空気のおおう舗道を歩く。行き着いた「スターバックス」でパンとコーヒーを注文して、『銀座通・道頓堀通』(坪内祐三/監修・解説、廣済堂文庫)を読んでいた。研修終了後、きのう「BOOK246」で見かけて気になったサリー・スコットのカタログ『Nikukyu Issue #09』を購入して帰宅。夕食、イエローカレー。

Saturday, February 18

外苑前で下車。「アール・カフェ」でオムライスを食べたあと、「北斗七星の庭_展 重森三玲 1896-1975」(ワタリウム美術館)、「ジョナス・メカス展」(ときの忘れもの)、「JACK GOLDSTEIN」(ラット・ホール・ギャラリー)、「Cosmic Travelers – Toward the Unknown」(エスパス ルイ・ヴィトン東京)と美術館&ギャラリーめぐり。

途中「パンとエスプレッソと」で休憩。ところで「パンとエスプレッソと」という店名は括弧なりで囲わないと、たとえば「パンとエスプレッソとで休憩した」となってしまい、なにやら助詞の使いかたがよくわかっていない人と扱われかねないのだが、というよりそもそも読み手が店名であることを知っている、もしくは書き手が店名であることを明示しないかぎり、「パンとエスプレッソと」を文中に挿入するとまったく意味不明の事態に陥る。さらに余談をつけくわえれば、「パンとエスプレッソと」とくればどうしたって、「パンとエスプレッソと部屋とワイシャツと私」と言いたくなるのが人情であるが、これを言ったら負けな気はする。

恵比寿に移動してナディッフへ。「丹羽良徳 ベルンで熊を拍手喝采する」(ナディッフ・アパート)、「南川史門 「鏡、音楽、マルチメディア」とコーヒーパーティー」(ナディッフ・アパート)、「戸島麻貴 メタ・モルフォス」(MEM)、「小山泰介展」(G/P gallery)、「志村信裕 恵比寿幻燈祭 Dress」(TRAUMARIS)を観てまわり、夕食は「AFURI」で塩ラーメン。

Sunday, February 19

朝の読書は月曜社の本を二冊。モーリス・ブランショ『書物の不在』(中山元/訳)、片山廣子『新編 燈火節』。昼前、神保町に移動して「メナムのほとり」でタイ料理。「深谷桃子 sew I thought」(路地と人)という展示をみたり、改装中の「東京堂書店」をのぞいて「港の人フェア」や最新刊を眺めたりで時間をつぶす。本日のメインイベントは神保町シアターで『汽車はふたたび故郷へ』(オタール・イオセリアーニ/監督、2010年、フランス/グルジア)を鑑賞すること。途中で地震が発生して、劇場がざわざわと軽くどよめく。映画が終わりエンドロールが流れるところで「この映画いったいなんだったんだろう?」という雰囲気で劇場がざわざわと軽くどよめく。おもしろかったのだけれど、何がどうおもしろかったのかの説明に窮する映画かもしれない。鑑賞後、ふたたび「東京堂書店」。澁谷征司の写真集『BIRTH』(赤々舎)を購入。「彫刻の森美術館」で開催中の展覧会には行けそうにないので、写真集を買って帳尻をあわせる。夕食、鮪丼、葱の味噌汁、ビール。