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Monday, January 16

『親愛なるキティーたちへ』(小林エリカ/著、リトルモア)を読む。アンネ・フランクの日記、父親の日記、本人の旅行記、地の文(と言っていいのか?)が交叉する。夕食、白米、味噌汁、冷や奴、キムチ、鯵のひらき、大根おろし、漬け物。

Tuesday, January 17

去年増補改訂版として刊行された『心の傷を癒すということ 大災害精神医療の臨床報告』(安克昌/著、作品社)を読む。以下、再刊にあたり宮地尚子が寄せた文章より。

これから〈心のケア〉が叫ばれるだろう。それはとても大切なことだ。
けれども、〈心のケア〉はそれほど簡単なものではない。被災者の受けた心の傷のあらわれ方は単純なものではないし、時期によってもどんどん変わっていく。外から来た者が(たとえ専門家であったとしても)、丁寧にカウンセリングをしたからといって、心の傷が癒され、元気になって明日からまたがんばれるようになるといったものでもない。そんな安易な回復を、被災者に期待しないでほしい。
今後、復興に向けて、さまざまな潜在的問題が表に出、格差があらわになり、補償やローンや住宅や就労や、生活支援のあり方をめぐって、被災者と支援者の間で多くのトラブルがおきてくるだろう。
この本は、そういった現実的な時間の流れの中でとまどう人たちに、たくさんの智慧を授けてくれる本である。(pp.428-429)

夕餉はグリーンカレー。夜、『黒いオルフェ』(マルセル・カミュ監督、1959年、フランス/ブラジル/イタリア)を鑑賞。劇中で使われている音楽だけをこれまでいくども耳にしてきたけれど、映画を観るのははじめてで、こんな映画だったの? としばし途方に暮れる。カエターノ・ヴェローゾが

黒いオルフェは、単純な悲恋物語に終始して、ヴィニシウス原作にあったブラジルやファヴェーラの本質を描いていない、したがってブラジル人はまったく評価していない。

と語っていることをWikipediaで知って、そう言いたくなる気もちもよくわかる。いろんな意味で「おもしろく」観たけど。

Wednesday, January 18

小林エリカの本は『親愛なるキティーたちへ』がはじめてだと思っていたのだが、図書館で借りた『空爆の日に会いましょう』(小林エリカ/著、マガジンハウス)を開いたら、これ読んでいた、ということを思い出す。二〇一一年九月十一日のアメリカ同時多発テロ事件を契機とするアメリカ軍によるアフガニスタンへの空爆に際し、そういえば奇怪な反戦活動をしていた女性がいたなあと微かな記憶をたぐり寄せつつ、この人のきわめて独特なかたちでずっと「戦争」に執着しているさまを思う。

夜の食卓、ハムと葱と白菜とコーンをのせたタンメン。

Thursday, January 19

『アイ・ウェイウェイは語る』(ハンス・ウルリッヒ・オブリスト/著、坪内祐三/訳、尾方邦雄/訳、みすず書房)を読む。冒頭に掲載されている2006年に撮影されたアイ・ウェイウェイの肖像写真が「あきらかに見た者たちを笑わせようとしている」としか思えないのだが、これ如何に。特に髪型が。ところでアイ・ウェイウェイのインタビュー本になぜ坪内祐三が文章を寄せているかが読むまで謎だったのだが(アイ・ウェイウェイと坪内祐三の組み合わせという妙な感じ)、詰まるところ坪内祐三が紀伊國屋書店新宿南口店の洋書フロアでたまたま目に留まった本書をおもしろがって、みすず書房の編集者・尾方邦雄にかけあって邦訳が出版されるに至ったという経緯とのこと。それはそうと坪内祐三は最近までアイ・ウェイウェイのことをまったく知らなかったらしい。数年前に森美術館で展覧会やったじゃん! と思うのだが、

私は六本木ヒルズが大嫌いで森美術館には一度も行ったことがないし行くつもりもない(p.191)

そうで。

夕餉、白米、味噌汁、長葱、茄子、パプリカ、鱈のグリル、煮南瓜。

Friday, January 20

コダック社が破産法申請したというニュースとともに読み始めた『写真の秘密』(ロジェ・グルニエ/著、宮下志朗/訳、みすず書房)。

まずは、ひとつのエピソードから。わたしはマージョリー・ファーガソンというアメリカ女性と知り合いになったが、その家族はまるでヘンリー・ジェイムズの小説から抜け出してきたみたいだった。ものすごく裕福な一族で、その昔に、イーストマンという名前の家庭教師を雇っていたという。ある日、この男が、自分はとても実用的な新しいタイプのカメラを発明した、いずれ、どこでも使われるようになるにちがいない、と話したというのだ。そして出資をもちかけてきたが、彼らはそれを断ったという。やがてイーストマンは別の筋から、この計画を実現するのに必要な資金を引き出すことになった。そしてこの新製品は、シャッター音を示すオノマトペから「コダック」と命名された。(pp.3-4)

夕ごはんはベーコンとキャベツと茄子のパスタ。

Saturday, January 21

大寒。冷たい空気、冷たい雨。暖房の効いた室内でぬくぬく一日を過ごすのが理想と思われる休日だが、修行僧のごとくギャラリー行脚。「小西真奈/Alex」(アラタニウラノ)、「細江英公展」(BLD Gallery)、「大森克己/すべては初めて起こる」(ポーラ・ミュージアム・アネックス)、SUZU CAFEで昼食、教文館でローラ・インガルス・ワイルダーをめぐる展示、「アレハンドロ・チャスキエルベルグ/High Tide」(リコーフォトギャラリー)、「ハワード・ワイツマン/FACING SHIBUYA」(銀座ニコンサロン)、「入江明日香展」(シロタ画廊)、「shiseido art egg vol.6/Three」(資生堂ギャラリー)、「田中一光ポスター 1980-2002」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)。バタンキュー。

Sunday, January 22

『鎌倉の西洋館』(柴田泉/著、萩原美寛/写真、平凡社)を眺める午前中を経て、午後に近所のスーパーで買いもの。夕方、外出。時間がなくて忙しいので『ku:nel』(マガジンハウス)を電車の中で立ち読みという、この雑誌のスタンスと真逆のアプローチで読了する。渋谷駅で降り立ち、夕食として和幸でとんかつを食べるものの、「ご飯・味噌汁・キャベツおかわり自由」の三原則を忠実に実行したところ食べすぎで胃がもたれ、マークシティ通路のベンチでしばしじっとする。ユーロスペースで『帽子箱を持った少女』(ボリス・バルネット監督、1927年、旧ソ連)を鑑賞。