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Monday, November 6

11月を迎えて数日経つのに異様な暑さが未だ継続している。夕食、小籠包と白菜の蒸籠蒸しと柚子ポン酢、茄子とほうれん草の味噌汁、烏龍茶。かつて日本の美術館で写真撮影が問答無用で禁止されていた状況に対して、欧米の美術館のようにある程度許可してもよいのではなかろうかと考えたこともあったが、いざ撮影許可が一般的になった現況を体験すると、一律で写真撮影禁止でよいと反動的なことを思う。大半の日本人が所有するスマートフォン特有の事情ではあるが撮影時に「カシャ」なり「ピコン」なりの音響が五月蠅くて仕方がないのは勿論のこと、撮影可の場所と不可の場所を逐一説明している係員の姿が滑稽であるとともに憐れみを誘い、なにより撮影している人間が空間的に邪魔である。こちらも被写体として写り込まないように気を使って立ち位置を変えたりするが、なんで写真撮影する輩に配慮しなければならないのかと疑念が湧いてくる。あるいは印刷物やモニターでは認識の届かない「物質」を確認しに来ているはずなのに、スマートフォンで写真を撮りながら次から次へとそそくさと移動していくあいつらは一体なんなんだ感も漂う。夜、イタリアの白ワインを飲みながら雑誌を渉猟する。「偏愛の京都」特集の『CREA』秋号(文藝春秋)、「もう少しだけワインのことを知りたい」特集の『Hanako』12月号(マガジンハウス)、東京大学出版会のPR誌『UP』11月号。

Tuesday, November 7

雨と風が吹き荒れる嵐の朝。夕食、鶏の唐揚げ、豆腐と茄子とほうれん草の味噌汁。「ヱビスビール」を飲む。美術館のことを考える。日本の美術館でいつも不可解に思うことに、来場者の手荷物に対してたいへん鷹揚であるというのがある。たとえばリュックを背負っていても係員から苦言を呈されることなく展示会場に入ることができる。自身の数少ない外国体験を思い起こしてみると、ヨーロッパの美術館は手荷物に対して手厳しい印象が強い。とにかく手荷物はロッカーに預けろと云われる。トートバックでさえNGで預けるように注意されたこともある。いささか鬱陶しいとはいえ美術品の保護なりテロ対策なりを考えれば欧州の美術館の態度のほうが理にかなっているとは云えるのだが、日本の美術館の手荷物に対する牧歌的な緩さは古きよき「安全神話」を死守する姿のようにも思えてくる。

Wednesday, November 8

読書。伊藤憲二『励起 仁科芳雄と日本の現代物理学』(みすず書房)の下巻を読む。夕食、焼き餃子、ほうれん草の味噌汁。「プレミアムモルツ」を飲む。新型コロナウイルス感染症の後遺症について症状の調査結果を報じているニュースを読んだ。後遺症の専門外来を設置している岡山大学病院の調査によるもの。症状として割合の高いから順番に、倦怠感、頭痛、睡眠障害、嗅覚障害、呼吸困難感、味覚障害、集中力低下、脱毛、咳嗽、めまい、易疲労感、動悸、微熱とのこと。8月下旬に感染したあとで未だにつづく鼻詰まりは後遺症だと思っているのだが、鼻詰まりが症状として見当たらない。こんなところでマイナー感など出したくないのだが。

Thursday, November 9

読書。文化勲章親授式の模様を映した報道映像のなかで、受章者の岩井克人とともに一瞬映った水村美苗の姿を見つけて、水村美苗の著作のなかで未読のものの存在を思い起こして通勤電車内で今週読んでいる。結構な話題になったものの刊行当時スルーしていた『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(ちくま文庫)。『続明暗』の文庫化にあたっての跋文でもそうだったが、本書の文庫版あとがきは単行本刊行時に読書界で生じた波紋に対する応答のかたちをとっていて、そこを面白く読む。ところで刊行当時に本書をブログで積極的に紹介した梅田望夫はいま何をしているのだろう。夕食、焼売、豆腐とほうれん草の味噌汁。「プレミアムモルツ」を飲む。

Friday, November 10

読書。朝の読書として少しずつ読み進めてきた高階秀爾の論集『ヨーロッパ近代芸術論 「知性の美学」から「感性の詩学」へ』(筑摩書房)を最後まで。夕食、鮪のたたきとしめ鯖と卵焼きを添えた海鮮丼、油揚げと若布の味噌汁、熱燗。

Saturday, November 11

いきなり冬が来た。風が強くて肌寒い。朝食後に部屋の掃除。「文明堂」のカステラと紅茶。近所のスーパーマーケットで買いもの。外出。「QBハウス」で髪を切る。新宿の「ブックファースト」でトマス・アクィナス『精選 神学大全 徳論』(稲垣良典・山本芳久/編、稲垣良典/訳、岩波文庫)、瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史』(草思社文庫)、吉田健一『余生の文学』(平凡社ライブラリー)を買う。文庫本を三冊選んだだけなのに合計金額が5500円。昼食は新宿センタービルの「Cafe HAITI」にて。ドライカレーと珈琲。千代田線の乃木坂駅で下車。「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」を見学するために国立新美術館に向かうも入場口は長蛇の列だったので一旦パスして、夕食のために美術館内のレストラン「BRASSRIE PAUL BOCUSE LE MUSEE」に今晩の予約を取ろうと赴くも満席とのこと。無料の企画展「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」を見てから六本木のギャラリーに移動する。「ミリアム・カーン 私だったかもしれない」(WAKO WORKS OF ART)、「SCAI PIRAMIDE SCREENING PROJECT Vol. 2 – Inextinguishable Fire」(SCAI PIRAMIDE)、「マルセル・ブロータース Works, Films and the complete editions & books」(TARO NASU)、「カンディダ・へーファー Reflections on Spaces – Spaces of Reflection空間への反射 – 反射の空間」(KOTARO NUKAGA)、「殿村任香 『ゼィコードゥミーユカリ』新装版刊行記念展」(Zen Foto Gallery)、「南谷理加 黙劇」(小山登美夫ギャラリー)、「ロザリンド・ナシャシビ Infinity Pool」(タカ・イシイギャラリー)。国立新美術館に戻って混雑状況を確認するも行列に変動はないので本日の鑑賞は諦めて乃木坂をあとにする。表参道駅経由で半蔵門線に乗って永田町駅に移動。紀尾井町の「AUX BACCHANALES」にて夕食。バゲット、ニース風サラダ、若鶏のオーブン焼き、田舎風テリーヌ、ギネス、赤ワイン。二人がけの席に案内されたが、四人がけの席でないと料理がすべて置けない状態に陥る久方ぶりのバカナル。

Sunday, November 12

冷たい雨が降る。常備菜づくりと朝食の準備。台所の掃除。「BISCUITERIE BRETONNE」のビスケットと珈琲。昼食は「無印良品」のプラウンマサラ。映画鑑賞。『2046』(ウォン・カーウァイ/監督、2004年)を見る。夕方、ラジオの音楽番組を聴きながら高野文子『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』(講談社)を読む。夕食、蛸とベーコンにしらすと小葱を添えたパスタ、ホワイトセロリとサニーレタスとトマトとしらすとレモンのサラダ、イタリアの白ワイン。