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Monday, November 21

ジャン=マリー・ストローブの死去を知る。朝の冷え込みの程度がわからず外套を羽織らずに外にでたら結構寒い。雨が降る。会社に到着する頃には身体が冷えてしまい悪寒一歩前の状態になってしまったので、予防的な措置として風邪薬を服用する。悪寒に気を取られて今月劈頭からつづく酷い頭痛が弱まったのは、病をもって病を制している感あり。読書。旅の支度に併走する作家をひとり選ぶとするならばそれは吉田健一で、もう何周目なのかわからない程度の再訪となる『金沢・酒宴』(講談社文芸文庫)を先日より読み返している。夕食、紫玉葱としめじの炒めものをのせたラムキーマカレー、麦酒。

Tuesday, November 22

読書。吉田健一『本が語ってくれること』(平凡社ライブラリー)を読む。いつのまにやらサッカーのワールドカップがはじまっている。前回のワールドカップの際に思った4年後はおそらくテレビがなくともインターネットで全試合を観戦できる環境が整っているはずという予測はそのとおりとなったが、その運営を担うのが「Ameba」というのはやや意想外。アルゼンチンとサウジアラビアの試合を見る。下馬評を覆してサウジアラビアが勝利。夕食、「sakana bacca」のばらちらし、海鮮茶碗蒸し、しじみの味噌汁、胡瓜の糠漬け、麦酒。将棋の王将戦で藤井聡太と羽生善治の対決が実現するとの報せ。夜、旅支度。「全国旅行支援」とは無縁のやり方でホテルの予約を取ってしまったので日本政府からの恩恵は特に受けない旅となる。ふだん日本政府に対して批判的な態度を取りながら場当たり的かつ不平等な政策に便乗するのは欺瞞きわまる態度である気もするのでよしとしたい。

Wednesday, November 23

雨。朝食、茹で卵、サニーレタスとトマトと紫玉葱とベーコンのサラダ、ミルクブレッドとクリームチーズ、ヨーグルト、珈琲。荷物の詰まった重いスーツケースを玄関から引き摺り、タクシーを呼んで最寄り駅まで移動。東京駅から北陸新幹線に乗って金沢を目指す。これまで新幹線に乗車するときは大抵始発に近い時間帯を選択してきたので、駅弁購入の選択肢は「駅弁屋 祭」一択に近い状況であったが、今回は常識的な出発時間にしたので「エキュート東京」も「グランスタ東京」も営業中。東京駅構内にて店舗をいろいろ見てまわる。「エキュート東京」の「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」で鮭の海苔弁当を買って、「le billet PRODUIT PAR A LA CAMPAGNE」でスフレチーズケーキを買って、「猿田彦珈琲」で珈琲を買って、北陸新幹線「かがやき」に乗り込む。午後過ぎに金沢駅着。金沢も雨。

内山は雨が好きだった。それは雨が出来損ないの町も先ず見られるものにして町らしい町ならばその風格を増すからばかりでなくて内山自身が雨が降っているとその音と何かその時にいる場所の他は水の中になっている感じで神経が鎮められるようである為だった。従ってそれは雨でも風を伴わない静かな雨でなければならなくてその音はそれそのもののよりも雨垂れの音が望ましかった。(吉田健一「金沢」)

一定の期間逗留する旅であれば雨もまた一興と思えるかもしれないが、短期滞在者にとっては雨模様は困る。風情より実利。宿泊先の「金沢東急ホテル」に荷物を預けてからタクシーで「石川県立図書館」に向かう。利用するわけでもない図書館にタクシーで訪れるなどこれぞ物見遊山と云える振る舞いだが、施設の素晴らしさに感銘を受ける。建物の写真を撮ったり雑談している人も見受けられるが、建物が巨大なのでさして騒音にならず、適度なノイズとして気持ちのよい空間となっていた。箱物に陥る危うさを回避した意識的な本の配架を瞥見しても「TSUTAYA図書館」のような杜撰さはない。円形の書架はアスプルンド設計の「ストックホルム市立図書館」を参照していたりするのだろうか。図書館から香林坊付近まで戻る手段としてバスを利用するのが安上がりかと思うが、知らない土地のバス便ほど難しいものはないので「GO」アプリでタクシーを呼ぶ。とても便利。竹野内豊のみならずタクシーを呼ぶならアプリを使うとよいと思う。ホテルのラウンジでカフェラテを飲んで少し休憩してから、「オヨヨ書林せせらぎ通り店」を訪れて古本を物色する。5冊購入。雨足が強まる。夕食はホテル併設のフランス料理レストラン「MARAIS D’OR 」にて。

Thursday, November 24

ノートパソコンを持参したので、早朝仕事をする。勝手にワーケーション。夜から明け方まで降っていた雨があがる。曇り。朝食のためホテルからせせらぎ通りを歩いて「ひらみぱん」を目指す。開店時間の30分前に赴くも既に数名の先客が並んでいる。朝食メニューからキッシュを選択。店を出ると長蛇の列ができていた。「いしかわ四高記念公園」を散歩してから「金沢21世紀美術館」に向かう。開館時間前から既に結構な行列ができており、金沢は全体的に閑散としているところが多いとの印象だがピンポイントで混雑スポットが存在する。開催中の展示「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」と「コレクション展2 Sea Lane – Connecting to the Islands 航路 – 島々への接続」を見学。イヴ・クラインの展示を見ることがこのたび金沢を訪れた一番の目的。ミュージアムショップを覗くも図録はまだ販売しておらず、Amazonで予約注文しておく。美術館内のポスターで小松市立本陣記念美術館にて町田久美の個展をやっていることを知るも、いま知ってもどうにもならず。美術館の外をぐるっと散策して、昼食としてうどんを食べるために「小橋お多福」に向かうも想定外の臨時休業。やむなく浅野川沿いの主計町茶屋街を歩いて周辺で食事処を見つけて、「手打ちそば処 くら」で鴨南蛮蕎麦を食べる。「八百萬本舗」にて土産物を物色してから、ひがし茶屋街周辺を少し歩いて一旦ホテルに戻る。「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」「鈴木大拙館」「国立工芸館」をめぐり、途中、曇天の人気のない犀川沿いを少し歩く。夕食は「BISTRO YUIGA」にて。

Friday, November 25

朝食は新竪町商店街の一角にある「MONET」にて。広大な金沢城公園を散歩してからホテルのチェックアウトを済ませ、金沢駅に向かう。事前に予約しておいた「サンダーバード」の切符を受け取るために発券機を操作しようとするも、購入時のクレジットカードを持参するのを忘れたため発券できず。複数のクレジットカードを場合によって使い分ける生活の弊害がでてしまう。やむなく人生における最悪な10のことのひとつに挙げてよい「みどりの窓口にならぶ」羽目に陥る。窓口で変更手順を教えてもらいなんとか解決。京都へ。昼食は金沢駅の「金沢百番街」で購入した、「ますのすし本舗 源」の鱒寿司と「茶菓工房たろう」の羊羹。移動中は本を読むより外の景色を眺めているほうが最近は心地よいので、金沢から京都までほぼ車窓に視線をやってすごす。途中で車窓から琵琶湖が見える。

併し兎に角、旅行している時に本や雑誌を読むの程、愚の骨頂はない。読むというのは、そこにあることの方へ連れて行かれることで、新潟にいても、岡山にいても、北極のことが書いてあるのを読めば、自分がいる所が北極になる。又そうなる程度によく書いてあるものでなければ、読んでも仕方がなくて、自分が折角、岡山だかどこだかにいるのに、北極にいる積りになることはない。(吉田健一「道草」)

京都駅着。居心地のよい人の密度を保つ金沢の街から、どこに行っても「ひらみぱん」状態の人だらけの京都の街へ。宿泊先の「RC HOTEL 京都八坂」でチェックインの手続きを済ませて、写真展「原榮三郎が撮った京都」(ZENBI -鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM)を見てから、「仔鹿」に立ち寄ってワインを買う。夕食は京都を訪れるたびに毎回赴いている気がする「東華菜館」にて。食事をしていたら忽那賢志のまわし者かと疑いたくなるマスク会食を実践する人びとを見かけたが、観察していると途中からマスクを外してぐだぐだな感じになっていた。無理なことを推奨しないほうがよい。

Saturday, November 26

「イノダコーヒ」の清水支店は閉店してしまい、本店は早朝から長蛇の列なので、朝食の新たな選択肢として「小川珈琲堺町錦店」に入店。食事も珈琲もおいしい。初めての訪問となる「青蓮院門跡」をめぐってから、「京都市京セラ美術館」でこのたびの京都旅行におけるお目当ての「アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO」を見学する。個人的にはそこまで惹かれる美術家ではないものの、展示はおもしろく見る。図録を購入。「essence kyoto」に立ち寄ってお茶を買い、烏丸御池駅から地下鉄に乗って北山駅まで。「よしむら北山楼」で昼食を摂り、「マールブランシュ」に寄り道してから「京都府立植物園」に向かう。温室を見学。散財レベルでタクシーを活用しているとはいえ、歩数計を見るとそれなりに歩いているので植物園のベンチに座ってしばらく休憩。好天に恵まれてなにより。「イノブン北山店」と「NORR KYOTO」をまわってから「誠光社」に立ち寄り本日の予定を消化する。夕食は「sumiyaki 燈」にて。

Sunday, November 27

本日も朝食は「小川珈琲堺町錦店」にて。入店時は空いていたが帰る頃には店の外まで行列ができている。ホテルのチェックアウトを済ませて、紅葉が見頃の東福寺に向かう暴挙にでる。紅葉は綺麗だが、予想どおりの混雑っぷり。人混みのなかで「もうええわ、おんなじような写真ばっかり撮って」と云っていた中年女性がいたとのことだが、正論である。夏の京都は暑すぎて、冬の京都は寒すぎて、春と秋の京都は混みすぎ。タクシーで北に移動。今回の旅で、「GO」で呼んだタクシーの運転手は喋らず、流しを捉まえた場合はよく喋るという法則が成り立っていたのだが、本日その法則が崩れる。喋るだけでなく要所要所で京都の名所旧跡の案内もしてくれた。京都市役所駅近辺まで向かい、「craft dining upit」でハンバーガーをテイクアウトして、鴨川を眺めながら昼食。「京都BAL」と「ANGERS 河原町本店」をめぐってから、渡月橋の混雑ぶりを眺めるため、ではなく「London Books」を訪れるために嵐山に向かう。2冊購入。渡月橋周辺は予想どおりの賑わい。京都駅まで移動して「ROASTERY DAUGHTER / GALLERY SON」にて珈琲豆を購入してから、「ジェイアール京都伊勢丹」の地下食品売場でお土産を買う。伊勢丹も混んでいたが最後の京都駅のみどりの窓口が阿鼻叫喚の様相で、通路を塞ぐほどの行列ができていた。夕食は東海道新幹線の車内にて「いづう」の鯖姿寿司と麦酒。