472

Monday, November 25

早朝、都内ではめずらしく霧がたちこめる。

乾燥した東京の冬には一年に一度あるかないかだけれど、ほんとうにまれに霧が出ることがある。夜、仕事を終えて外にでたときに、霧がかかっていると、あ、この匂いは知ってる、と思う。十年以上くらしたミラノの風物でなにがいちばんなつかしいかと聞かれたら、私は即座に「霧」とこたえるだろう。ところが、最近の様子を聞くと、この霧がだんだん姿を消しはじめたようである。ミラノの住人たちは、だれもはっきりした理由がわからないままに、ずっと昔から民謡やポップズに歌われてきた霧が、どうしたことか、ここ数年はめずらしくなったという。暖房に重油をつかわなくなったからだと言う人もいる。そうだろうか。あんな霧、なくなったほうがいいですよ、とミラノに住んでいた日本人は言うが、古くからのミラノ人は、なんとなく淋しく思っている。
(須賀敦子『ミラノ 霧の風景』白水社)

本日は休暇なので午前中は自宅にこもって映画を三本見る。ルネ・クレール『夜ごとの美女』(1952年)、ジュールズ・ダッシン『日曜はダメよ』(1960年)、ダグラス・サーク『誘拐魔』(1947年)。作品の存在は知りながら未見だった三本、だと思っていたら『夜ごとの美女』は、見覚えのあるシーンがでてくるので過去に鑑賞済みであることが判明。ダグラス・サークの『誘拐魔』をとてもおもしろく見た。

昼過ぎに外出する。渋谷のツタヤで返却と貸出。平日昼間の渋谷スクランブル交差点前のスターバックスは、外国人観光客で埋め尽くされていた。帰りがけに「les mille feuilles de liberte」で常緑樹の束を買う。ダイニングテーブルの花瓶に活ける用として。自宅にもどり郵便受けを覗くと『MONOCLE』が届いている。日本大好き『MONOCLE』の最新号は日本特集で、表紙はくまモン。

朝食、目玉焼き、ベーコン、トマト、サニーレタス、くるみパン、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。晩ごはん、コンソメと白ワインビネガーで煮込んだ豚かたまり肉としめじとキャベツ、サニーレタスとレモン、たことオリーブ、ビール。

夜、The Beach Boys「The Beach Boys’ Christmas Album」を聴く。

Tuesday, November 26

ギャレス・デイル『カール・ポランニー伝』(若森みどり、若森章孝、太田仁樹/訳、平凡社)を読む。訳者あとがきで栗本慎一郎『ブダペスト物語』(晶文社)が褒め称えられている。インターネットで調べてみると文庫化もされておらず絶版の模様。

朝食、目玉焼き、ベーコン、トマト、サニーレタス、玄米パン、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。晩ごはん、白米、キャベツの味噌汁、辛子明太子、焼き魚(かます)、大根の白だし煮、きゅうりと味噌、ビール。

外を出歩くにはコート必須の寒い一日。夜、Johnny Mathis「Merry Christmas」を聴く。部屋でクリスマスソングを流すのは、外気が冷たくないと雰囲気がでないので寒くて結構。

Wednesday, November 27

寒いのは構わないが雨が降るのは鬱陶しい。朝の通勤途中、雨がぱらつく。歩きながら、この程度の雨であればロンドンに住む人びとは傘などささないだろうなと考えはじめたのは、昨年のいまごろロンドンを旅して、ロンドンっ子たちは本当に傘をささないことを思い出したからだ。知識として傘をささないのは知っていたけれど、実際の光景を目にするとやはり驚く。ロンドンの雨と東京の雨は質が異なるのだという話もあるけれど、旅行中に降られた雨は、さほどちがうようには思えなかった。ざーざー降りでも傘をささないひとはささない。傘を持参する気がそもそもないのだろう。パーカーを着た若者がフードをかぶって雨をしのぐ姿はまだ諒解の範疇だが、ジャケットを着て皮の鞄を携えたおじさんがずぶ濡れになっても平気な顔をしているのは理解が届かず。あの鞄の中には書類とか入っていないのだろうか。

神奈川近代文学館で見た「中島敦展 魅せられた旅人の短い生涯」で、中島敦の髪の毛はさらさらであったとの知識を得たが、高校の教科書で読んで以来目をとおしていない中島敦の作品を読んでみたくもなって、先週末に駒込の「BOOKS青いカバ」で買った文庫本を積んでいる。『李陵・山月記』(新潮文庫)と『光と風と夢/わが西遊記』(講談社文芸文庫)。前者を読了。いまさら感満載の感想だが、「山月記」はおもしろい。

朝食、目玉焼き、ベーコン、サニーレタス、玄米パン、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。晩ごはん、焼豚と長ねぎと温泉卵をのせた塩ラーメン、きゅうりと味噌、ビール。

夜、Rosemary Clooney「Irving Berlin’s “White Christmas”」とElvis Presley「Elvis’ Christmas Album」を聴く。

Thursday, November 28

美術作家として活動した永井宏について言及している文章をしばしば目にしても、その魅力についてあまりピンとこなかったので、このたび復刊された『マーキュリー・シティ』(mille books)を手にとってみる。読了後もその魅力にあまりピンとこないのは変わらなかったのだが、ミック・ジャガーについて書いたつぎのくだりはいいと思った。

マーキュリー・シティ。水星に都市などあるわけもないと、誰しもそう思うだろうが、ほんの何十年か前まで、あるのかもしれないと思っていたひともたくさんいた。しかし、もし水星に都市があったらと思い始めると、無限にイマジネーションがわいてくる。あるはずがないと科学的に証明されようとも、その無限のイマジネーションは失いたくない。ないと解っていても、あると思いたいのだ。僕らは無数の記憶のなかで現在を生きている。そんなイマジネーションも記憶のなかにあるし、生きている。
たった二十五年ぐらいのローリング・ストーンズの記憶で、あれほどまでにロックンロールと自分の現在を感じさせてくれるのなら、もっと昔の原始からの記憶は、どれほどまでに僕らを豊かに感じさせてくれるのだろう。何度考えても、ほんのわずかなことしか思い出せないのだが、僕は絶えずそんな記憶と現在のことを考えながら、小さな宇宙のなかで生きている。

朝食、目玉焼き、ベーコン、トマト、サニーレタス、くるみパン、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。晩ごはん、ほうれん草とベーコンとトマトとオリーブのパスタ、ビール。

夜、Doris Day「The Doris Day Christmas Album」を聴く。

Friday, November 29

中曽根康弘死去。服部龍二『中曽根康弘 「大統領的首相」の軌跡』(中公新書)は興味ぶかい本だったので読み返してみたいところ。

朝食、スキレットでソーセージ、キャベツ、トマト、目玉焼き。トースト、ヨーグルト、珈琲。昼食、お弁当。晩ごはん、鶏肉と玉ねぎと人参のクリームシチュー、くるみパン、ビール。

夜、Frank Sinatra「Christmas Songs by Sinatora」とBing Crosby「White Christmas」を聴く。

Saturday, November 30

朝食、目玉焼き、ベーコン、トマト、ベビーリーフ、トースト、ヨーグルト、珈琲。ラジオからロンドン橋付近でテロ発生との報道が流れる。

酒井忠康『展覧会の挨拶』(生活の友社)を読む。展覧会図録の冒頭に掲載される美術館館長による挨拶文をまとめたもの。まえがきに「本文中の時制と肩書きは、執筆当時のままにしましたが、展覧会関係者への謝辞等は、ごく僅かの例を除いて割愛しました」とあるのだけれど、その「ごく僅かな例」がなにゆえ割愛されなかったのか気になりながら目をとおす。

午前中、酒井忠康が館長をつとめる世田谷美術館へ。用賀駅からタクシーで砧公園にある美術館に向かう。「奈良原一高のスペイン 約束の旅」を見る。とてもいい展示だったので図録を購入。ポスターやチラシといった展覧会の宣伝に使われている、帽子を被った男女4人が陽気に練り歩く写真がなにより素晴らしい。

砧公園の樹々の紅葉を少しみてから、千歳船橋に向かうためにタクシーをつかまえようとするも、なかなか来てくれない。風が冷たくて寒い。スマホのアプリをひらいてタクシーを呼ぼうと模索しはじめたら、東急バスがやってきたのでそれに乗る。千歳船橋駅から小田急線で新宿に移動。道中『MONOCLE』を読む。NEWoManにはいっている「tavern on S <és>」で昼食。スープと前菜盛り合わせ、骨つきフライドチキンとフレンチフライ、デザート、赤ワイン。

新宿御苑まで紅葉を見にいく。200円から500円に値上がりしてからの新宿御苑ははじめて。新宿御苑は好きな場所だが、とくに何も変わっていない(ように見える)のに500円は高いのではと思ってしまう。帰りがけ、紀伊國屋書店本店に入居している「ディスクユニオン 新宿クラシック館」でクラシック音楽のレコードを買う。バッハやベートーヴェンやヨハン・シュトラウスなど安いものを6枚。

昼間にお酒を飲むと夕暮れ時にどっと疲れるようになってしまった。齢である。晩ごはん、白米、ほうれん草と豆腐の味噌汁、鯵のひらき、茹でたカリフラワー、ビール。

Sunday, December 1

師走がはじまる。洗濯、アイロンがけ、つくりおきの料理、片づけを済ませる。朝食、目玉焼き、ソーセージ、ベビーリーフ、トマト、くるみパン、ヨーグルト、珈琲。きのうディスクユニオンで購入したフルトヴェングラー&ベルリンフィルによるベートーヴェンの第九を聴く。旧ソ連でプレスしたものらしく、ジャケットはロシア語と英語で演奏者が表記されている。昼食、おにぎり、大根とかいわれの味噌汁、ほうじ茶。

近所の図書館に本を返却してから、渋谷へ。スターバックスでカプチーノを買って、渋谷ヒカリエでの買いものに付き合ったのち、先日オープンしたばかりの渋谷PARCOを見学する。上階から順番に各店舗をざっくりと見てまわる。地下の飲食店街はおもしろそうだったが、いまここで飲み食いしてしまうとこれからの工程に支障がでるので離脱する。渋谷駅の「本家しぶそば」で腹ごしらえをしてから、天王洲アイルに移動。シャネルの「MADEMOISELLE PRIVÉ TOKYO マドモアゼル プリヴェ展」に駆け込む。最終日の最終時間帯という滑り込みでの入場だったが、日曜日の夜でも混んでいた。観賞後、タクシーで品川まで移動して「AUX BACCHANALES」で軽く飲んで帰る。