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Monday, October 29

ダニール・トリフォノフによるラフマニノフのピアノ協奏曲。第2番と第4番を聴く。秋晴れの本日は10月末とは思えない暖かさ。

きのう聞いた岡﨑乾二郎と松浦寿夫によるボナールをめぐる対談に内部観測の話が出てきて、そういえば内部観測なんてものがあったなと思い至って、本棚から松野孝一郎『内部観測とは何か』(青土社)をひっぱりだす。ひさかたぶりに読み返してみる。

経験は間断のない観測から成り立つ。その観測は経験世界の内部のみから生じて来る。経験世界内に現われる個物は何であれ、他の個物と関係を持つとき、相手から受ける影響を特定できる限りにおいて、その相手を同定する。しかも相手を同定する、とする観測はこの経験世界の内で絶えることがない。何が何を観測しようとも、その観測は後続する、果てしのない観測を内蔵する。これを内部観測と言う。

ブラジルの次期大統領がジャイル・ボルソナロに決まる。ポピュリズムなるものが言葉として流布しているだけなのか実際の現象として広まっているのか判然としないが、あまりにわかりやすすぎるキャラの人間ばかりが登場するので、彼/彼女らは単純なポピュリストを意図的に演じているのではないかと疑いたくなる。

夜ごはん、牛肉のバルサミコ酢ソテー、ロメインレタス、レモン、バゲット、麦酒。

Tuesday, October 30

本日も晴れ。

州議会選挙の敗北を受けてドイツのメルケル首相がキリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞めて、首相の地位からも2021年の任期をもって退くという。任期をもって首相を辞めるのは既定路線ではあったものの、しかし2021年までメルケルはもつのだろうかと不穏な空気が流れている。

ブーレーズ指揮によるストラヴィンスキー「春の祭典」を流しつつ、松野孝一郎『内部観測とは何か』(青土社)のつづき。

夜ごはん、焼き餃子、麻婆豆腐、中華風落とし卵スープ、麦酒。

Wednesday, October 31

出勤途中でやたらと警察官を見かけたのだが、仮装した一般人の可能性もある。ハロウィン。

ハロウィンがケルト文化を起源とするらしい催しであることを無視した日本における曲解したハロウィンに対して眉を顰めるのが良識的な態度なのであろうが、クリスマスにしてもどうしてそうなったのか不思議でならない日本独自の曲解は、けして嫌いではない。けっこう好きである。渋谷駅周辺で人びとが暴れているのもおもしろい。関係者からすれば迷惑きわまりない話ではあろうが、渋谷で暴れるという理詰めで考えても意味のわからない現象が気になる。ハロウィン、大晦日のカウントダウン、サッカーワールドカップでの日本戦などのたびにスクランブル交差点は大混乱になっているけれども、暴れる基準があるようでない。政治的な含意も皆無である。とにかく暴れる。

『図書』(岩波書店)での連載で、冨原真弓がトーベ・ヤンソンのことを知った経緯を書いている。ムーミンの作者がヤンソンであることを知ったとき、スウェーデン語系フィンランド人であることはおろか、女性の作家であることも知らなかったという普通っぷりに好感をもつ。もっとも、そこからスウェーデン語を学習してヤンソンの著作を翻訳するまでになるというのは普通じゃないけれども。

夜、自宅シネマ。『エル・トポ』(アレハンドロ・ホドロフスキー/監督、1970年)。変な映画を見た。

Thursday, November 1

グリュミオーのヴァイオリンでモーツァルトを聴く。

会社近くの飲食店が不毛なのでお弁当を持参しない日は丸亀製麺かとんかつ和幸か寿司屋の三択である。寿司屋は突出して美味しい店というわけではないが、さほど混んでいないし、注文するとすぐ板前が握って出てくるので無駄な待ち時間に耐えられない人間にとっては都合がよい。ところでこの寿司屋、お客の半分以上が外国人という状況がしばしばあって、つまりは日本人が外国人をビジネスランチとして連れてくるのだが、連れていくなら丸亀製麺にすればいいのにといつも思う。へたな寿司屋より丸亀製麺のほうがよほど現代日本の食文化の水準をあらわしている。

Friday, November 2

グリュミオーのヴァイオリンでベートーヴェンを聴く。

マガジンハウスの『ブルータス』が過去5年分のほぼ全ての記事を公開するウェブサイトを作成するという。

興味ぶかい試みだけれど、個人的にはたぶんそんなに読まないだろうなと思ってしまった。紙媒体をウェブ化して魅力的になった例をほとんど知らない。紙は紙のほうがよい。というわけで、昨日買った札幌特集の『ブルータス』を読む。

夜、豚のそぼろ肉とロメインレタスのオリーブオイル炒め、かぶとかぶの葉とベーコンのコンソメスープ、バゲット、赤ワイン。

Saturday, November 3

鎌倉。江ノ電に乗って由比ヶ浜で下車し、吉田五十八の設計による吉屋信子記念館を見学する。休日だしたいそうな混雑ぶりを覚悟で訪れると、拍子抜けするほどがらがらだった。建物の内部と庭をまわる。吉屋信子を紹介する各種資料も展示されているのだが、この記念館の展示は、事実上のパートナーであった秘書の存在がなかったことになっているとあとで教えてもらう。

江ノ電で鎌倉高校前に移動。海を見に行く。目の前に海というロケーション以外にはこれといって何もないこの場所が鎌倉のなかでいちばん好きなのだが、駅前に結構な数の観光客がわらわらと存在する。なんでも『スラムダンク』の聖地らしいとはあとでインターネットで調べて知った事実で、アニメが台湾で放送されて人気らしい。世代的にはドンピシャのはずなのだけれども、『スラムダンク』の漫画もアニメも見たことがない。

江ノ島へ。江の島灯台に登る。

鎌倉方面に戻る。御成通りにあるKIBIYAベーカリーで明日のためのパンを買って、yui the public houseでヒューガルデンを呑んで休憩。夜、オステリア・コマチーナで夕食。あいかわらず何を食べてもおいしい。

Sunday, November 4

昼前から雨がぱらつき、午後になると本格的に降り出す。天気については増田雅昭による予測を毎日のように参照しているのだが、当初の予報と異なる気象状況にたいして「今日の予報、完全に変わってしまいました…高気圧が踏ん張れず東へ去ってしまい…すみません!」とtwitterに書くのだが、しかしそれは予報が変わったのではなく、結果が変わったのでは。

午後、半蔵門線で三越前。日本橋三越で「写真展 木村伊兵衛 パリ残像」を見る。充実の展示数で満足。物販コーナーで写真集『パリ残像』(クレヴィス)を買う。

コレド室町のCRAFT BEER MARKETでスコットランドの麦酒を呑む。

日本橋から銀座まで歩く。高島屋新館の365日でパンを買おうと思ったら行列だったので退散。ひさびさにLIXILの前を通りがかって、LIXILブックギャラリーが閉店したことを今更ながらに知る。ポーラ・ミュージアム・アネックスでSHIMURAbros 「Seeing Is Believing 見ることは信じること」を見る。

夜、蛸のペペロンチーノ、豚肉の赤ワイン煮込み、ベビーリーフのサラダ、バゲット、赤ワイン。

ニューヨーク・タイムズ紙の訃報欄にレジデンツの(たぶん)メンバーであったハーディー・フォックス死去の報せ。