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Saturday, August 27

今週月曜、台風9号が関東地方に上陸し、雨風を振り撒いて抜けていった夜、我が家にレコードプレーヤーがやってきた。この夏、にわかに夫のレコード熱が高まり、わたしはまた散財のタネが増えるのでは…と懸念していたのだけれど、いざレコードに針を落としてみれば、柔らかな音の粒が部屋を満たして、満ち足りた心持ちになる。その夜からずっと、レコードのある生活っていいわね、とニコニコしている。

前田英樹『小津安二郎の喜び』(講談社選書メチエ)を読んだ。かなり抽象的な言説が多かったけれど、前田さん面白くて好きだし、面白く読んだ。

事件の迫力も、サスペンスの緊張もなく、筋立て迫力いたって希薄。これは小津が望んだことではない、言わば映画という知覚機械の性質から深く強いられたことだった。この性質を覆い隠すか、あからさまにするか、映画技術はこれらふたつの方向をいつも同時に持ち、結局はいずれかの方向に統合させていくしかない。(p.287-288)

撮られていく映画が、同時にふたつの方向を持つように、私たちの知覚もまた、ふたつの方向を持っている。そのうちの一方は、行動中の現在にあり、それは動き、生活する身体と共に絶えず未来の方を目指している。もう一方は、同じ現在のなかにありながら、身体は行動から滑り落ち、心は未来を目指さず、過去の持続の全体へと逆向きに流れ込んでいく。そのような持続の全体に引き込まれる現在は、宇宙の全過去と共に振動する〈永遠の現在〉である。私たちの生には、必ずこの二重の側面があり、それに応じて、視覚もまたふたつの方向を必ず持っている。(p.288-289)

Sunday, August 28

早速、レコードを漁りに街へ出かけたのだけれど、神保町のレコード屋でまさかのレーザーディスクを購入。ベルトラン・ブリエ監督、シャルロット・ゲンズブール主演の『メルシー・ラ・ヴィ』を見つけて、シャルロット出演作品の所有欲と懐かしさにより買ってしまったのだった。実はわたし、レーザーディスクプレーヤーも持ってるんです。何でもとっておくものですね。