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Monday, January 9

エコノミスト誌の書評欄にイギリスのEU離脱問題を論じた本が四冊紹介されているが、英語の本を何冊も通読する気力はないので、かわりといってはなんだけれども庄司克宏『欧州の危機』(東洋経済新報社)を読んだ。イギリス離脱をめぐる経緯と論点を網羅的かつ平明に解説しており、勉強になる。イギリスでは労働者としてやってくるポーランド人への差別がひどいという話をブレイディみかこが書いていたけれど、『欧州の危機』を読むと、かれらが根拠薄弱な理屈で誹謗されているであろうことが想像される。

ポーランドなど新規加盟国からの移民労働者は必ずしも未熟練労働者ではありませんが、それにもかかわらず、主として建設、小売り、接客業、家事、食品加工、農業などの部門で未熟練労働者として雇用されています。かれらが、イギリス国民の雇用に悪影響を与えているということはほとんどないとされています。しかも、税収などでイギリスの公共財政に貢献しています。公立小学校などの不足が生じていますが、それはイギリス政府に責任があることです。
域内移民労働者がイギリスに来るのは社会給付を受けるのが動機であると、とくに保守党の政治家から非難されますが、これも的を射ていないようです。かれらはイギリス人労働者に比べて失業手当を受けることはあまりありません。児童手当など、低賃金労働者に給付される在職手当を受けていますが、イギリスに来て数年経過してからそうするのがほとんどで、そのような手当自体が移民労働者の動機ではないと言われています。それにもかかわらず、英EU改革合意では、それらの在職手当が争点となり、移民労働者に対するセーフガードが認められました。しかし、これは移民労働者がイギリスに来る主な動機とは無関係であるため、たとえイギリスがEUに残留して実施されたとしても、ほとんどが影響はなかったであろうと指摘されています。
以上の点から、英EU改革合意に至るキャメロン首相の要求や、国民投票での争点としての「移民」は、まともな根拠なく政治争点化された的外れな主張であり、EUと移民労働者は「スケープゴート」にされたことがわかります。

Tuesday, January 10

高橋龍太郎『現代美術コレクター』(講談社現代新書)と『Aesthetica』12/1月号を読む。

去年の夏まで住んでいた東京の駒込という街には、いいコーヒー専門店ができて、いい花屋ができて、いいカフェ&デリができて、なんとギャラリー(駒込倉庫)までできたので、あとは古本屋だけだなと思っていたら、できたという。「BOOKS青いカバ」という店名で、場所は東洋文庫のそば。池袋リブロの海外文学棚を担当していた人がつくった店だというので、機会を見つけて行ってみたい。現在の住居のまわりに古本屋はないので羨ましく、引越してからできた事実に、ちょっと悔しくもある。しかし近所にいい古本屋があると散財してきっと大変なことになるだろうことを考えて、羨望の気持ちを慰めることとしたい。

古本屋で思い出したが、いま住んでいる場所からいちばん近いブックオフは、本の売場はほかのブックオフと同様でさしたる特徴はないのだが、DVDの棚をのぞくと、ゴダールがあり、トリュフォーがあり、ブレッソンがあり、ロメールがあり、アンゲロプロスがあり、キェシロフスキがあり、ランズマンの『ショア』まであるという、独特の充実ぶりを発揮している。

Wednesday, January 11

有給休暇。渋谷にて。シアター・イメージフォーラムでユーリー・ノルシュテイン監督特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」を鑑賞。上映作品は全部で6本。『25日・最初の日』(1968年)『ケルジェネツの戦い』(1971年)『キツネとウサギ』(1973年)『アオサギとツル』(1974年)『霧の中のハリネズミ』(1975年)『話の話』(1979年)。

Bunkamuraザ・ミュージアムに移動して「マリメッコ展 デザイン、ファブリック、ライフスタイル」を見る。マリメッコの歴史において、ジャクリーン・ケネディがワンピースを購入した出来事が、ブランドの名前を広める非常におおきな宣伝効果となったようだが、展覧会の最後に掲げられた年表を読んでいたらつぎのように書いてある。

1960年 ジャクリーン・ケネディが、デザイン・リサーチ社のショップで9着のマリメッコ・ワンピースを購入(のち一着を返品)。

返品の事実まで握られているジャクリーン・ケネディ。資料として展覧会図録を購入する。

夕方、渋谷マークシティにある「梅丘寿司の美登利総本店」へ。いつもすごい行列でとても入れる気のしない人気店だが、平日の夕方であればさくっと入店できることが判明。

Thursday, January 12

駒込にある宮殿みたいな邸宅が47億5000万円で売りに出されているのが話題になっている。早速立地をGoogleマップで確認すると、六義園の角、文京学院大学女子中学校・高等学校の隣で、いわゆる「大和郷」と呼ばれる地域である。47億円はさすがに高いと思うけれども、大和郷の存在を知っているとそれほどの驚きはない。このあたりは唖然とするような豪邸が屹立している場所なので。ちなみにGoogleマップによれば、「BOOKS青いカバ」からこの邸宅までは、徒歩7分。

昨年読んで印象ぶかかった谷口吉郎『雪あかり日記・せせらぎ日記』(中公文庫)を再読。

Friday, January 13

iPadでエコノミスト誌を読む。特集は生涯学習(lifelong learning)。生涯学習と聞いても通信教育の「ユーキャン」くらいしかイメージが浮かんでこないのは、日本の場合、「総合職」という名の日本独特の正社員システムを採用している企業のもとでは、たいていの人びとは大人になってから「学習」などする必要がないからである。

Saturday, January 14

これぞ冬、という寒さ。街全体が寒々しい雰囲気に。恵比寿の東京都写真美術館内にあるNADiffで尾仲浩二が編集する『街道マガジン』vol.4を買う。昨年訪れたPOSTでの展覧会「エレナ・トゥタッチコワ写真展 In Summer: Apples, Fossils and the Book」が展示替えしていると知って、立ち寄る。あわせて南ドイツ新聞の特別エディションとして再生紙に印刷されたロバート・フランク展のカタログを購入。東京藝術大学大学美術館陳列館でおこなわれた展覧会の際にはすぐに売り切れてしまった、STEIDL作成のもの。

恵比寿から代官山まで歩く。いくつかの洋服店を物色ののち、蔦屋書店で時間をつぶしてから、IVY PLACEで夕食。注文したのは、パルマ産 プロシュート、シュリンプのタイ風クランチーサラダ チリライムドレッシング、北海道産生ウニと青紫蘇のリングイネ、ラムチョップのグリル ゆり根のソテー アンチョビバターソース、赤ワインをボトル1本、グラス1杯。なぜ食べたものを正確に記述できるかといえばメニューがウェブにあがっているからだ。なぜ赤ワインの銘柄を正確に記載できないかといえばウェブにあがっていないからだ。

蔦屋書店で冨田恵一『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(DU BOOKS)を買って帰る。

Sunday, January 15

板垣雄三門下を中心としてアラブ(とりわけパレスチナ)の受苦に寄り添うようにして論考をつむぐ独特の雰囲気が日本の中東研究(の一部)には存在するのだが、それに対して喧嘩を売ったのが2002年刊行の池内恵『現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義』(講談社現代新書)だった、というのが夕食時の話題。