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Monday, October 24

中西夏之の訃報。crystal cage叢書として予告されていた中西夏之の本はどうなるのだろう。

Tuesday, October 25

ずっと読みさしだったゲーテ『イタリア紀行』(相良守峰/訳、岩波文庫)の上巻を読み終える。

NHKラジオ第2の「ラジオ英会話」を聴いたら、アメリカ人宅での食事会に招かれた際の英会話マナーという、おそらく役立つ機会は一生訪れないだろう会話作法の紹介がなされていたのだが、「おいしい」を連発するとそれしか話題のない人だと思われるのでやめたほうがいいとか、中華料理の世界的普及や和食ブームもあって箸の使える西洋人はかなりの数いるので箸を使うさまを大仰に褒めるのはやめたほうがいいとか、なかなか実践的で興味ぶかい話。

Wednesday, October 26

ふとゼーバルトを読みたくなって『移民たち 四つの長い物語』(鈴木仁子/訳、白水社)を一気読み。ゼーバルトを読んでいると感じるのは、よるべなさ。

Thursday, October 27

児玉博『堤清二 罪と業 最後の「告白」』(文藝春秋)を読了。堤清二と堤義明を較べたら、堤清二のほうが「知的」ではあるけれど、どちらもイカれた存在であることを知ると、まあ似た者同士だなあと思う。

「これは余分に買ったから」
ある秘書は清二から経済書を渡された。数日後、その秘書に向かって清二は言うのだった。
「あの本のあそこになんて書いてあったっけ?」
渡した本をその秘書が読んだかどうかを、確かめているのである。その意味で清二は人に逃げ場を与えない男だった。
清二が一日に一度は足を運び、書籍を購入した書店が、西武池袋の中にあった「リブロ(西武ブックセンター)」だ。秘書たちは清二に内緒でその書店に出向き、清二が買っていったのと同じ書籍をこっそり買い求め、その膨大な量の書物を分担して読んでは要約を作った。清二の側近はそれを回し合って勉強し、突然の質問に備えた。清二の読書の対象は、政治経済から、思想、哲学、美術、音楽、時として生物学、建築学にまでわたった。秘書たちは毎日こうした作業に追われ、そのせいで徹夜が続く者がいたほどだった。清二は秘書が数人がかりで必死にやっていたことを、一人で何ごともなかったようにこなしていた。
努力の天才は、他人も同じようにできるものと決めてかかっていた。だから手を抜いたりいい加減な仕事をする者を、蛇蝎のごとく嫌った。部下の仕事ぶりを容赦なく叱責する姿は、暴君として立ちはだかった康次郎のそれと、まったく変わるところがなかった。(pp.169-170)

ほとんどパワハラである。手抜き仕事をする部下を叱るのは正当な行為かもしれないが、そもそも堤清二が読んだ本をすべて追随するのがどれほど意味のある仕事なのかがわからない。『堤清二 罪と業 最後の「告白」』にはこのような堤清二の暴君ぶりを示すエピソードがほかにも出てくるが、もっとも、暴君ぶりのおもしろさの優劣でいえば、堤義明のエピソードのほうが圧倒的におもしろい。こちらはもうほとんどお笑いというか、『こち亀』にでも出てきそうな狂った金持ちのような雰囲気である。

ある日突然、義明の側近たちに招集がかかった。指定された場所は箱根プリンスホテル(現・ザ・プリンス箱根芦ノ湖)にほど近い義明の別荘だった。理由を聞かされないままに集まってきた西武グループの幹部に、義明は何の照れもなく真面目な顔で言うのだった。
「俺は子供の頃からスパルタで育てられ、子供がやるような遊びをしてこなかった。だから今から馬乗りをやる。いいか。わかったな」
義明の前に立っている幹部は一瞬、何を言われたのかわからないように押し黙った。一人が「会長が馬乗りをやるんだ」と言いながら、背広を脱ぎ始める。「どうやるんだっけ」。幹部たちとて皆六十歳を過ぎようかという年齢だ。幼い日の馬乗りの記憶など半世紀も前のものだ。
馬となった幹部らに向かって、「いくぞ」と声をかけた義明が飛び乗る。
義明はさも嬉しげに馬となっている幹部に、
「どうだ、重いか? 昨日は肉を食べたからちょっと重いだろう?」
と言っては、一人ケタケタと笑い転げた。静まり返った夜の別荘に、義明の笑い声だけが響いた。(pp.182-183)

狂っている。

Friday, October 28

有給休暇。午前中、髪を切る。

午後はレコードを聴きつつ、だらだらと読書。ジョイス関連の本を図書館で数冊借りたので、まとめ読み。柳瀬尚紀『ユリシーズのダブリン』(河出書房新社)、結城英雄『「ユリシーズ」の謎を歩く』(集英社)、大澤正佳『ジョイスのための長い通夜』(青土社)。聴いたレコードは、以下の6枚。
・Dinah Washington / Dinah Jams
・Sue Raney / Songs For A Raney Day
・Francis Lai / A Man And A Woman
・Brigitte Fontaine / Comme à la radio
・France Gall / France Gall
・Jutta Hipp / At The Hickory House Volume 1

Saturday, October 29

多摩川沿いを散歩したのち、雪が谷大塚駅近くのラーメン屋「らぁめん 葉月」で昼ごはん。

夜、自宅で映画を見る。ジャック・タチ『ぼくの伯父さん』(1958年)。初見時にあまりおもしろくなくて期待はずれだった記憶とともにこのたび見返した『ぼくの伯父さん』は、やはりいまいち。

Sunday, October 30

ウディ・アレン本人と関係者に取材したドキュメンタリー『映画と恋とウディ・アレン』(2011年)を見る。インタビューに答えるときのウディ・アレンに笑顔はほとんどないのが印象的。