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Monday, January 18

淀川美代子を編集長に迎えてリニューアルした『クウネル』(マガジンハウス)が届く。封を開けた瞬間にエイ出版社のムックみたいなものが出てきて嫌な予感がしたが、あまりの期待外れに愕然とする。新しい『クウネル』は葛西薫のタイトルデザイン以外に継承しているものは何もないので、リニューアルというより別雑誌といったほうがよい。であれば『クウネル』を休刊(という名の廃刊)にして、新雑誌を立ち上げればよかったのでは。リニューアルなどという読者との軋轢を生みかねないハードルの高いことをせず、新雑誌の創刊であれば余計な不興を招くこともないだろうに。これまでの『クウネル』がマンネリ化していたのは読者であれば感じていたことで、部数も低迷していたのなら潔く休刊にすればよかった。そうすれば、なんだかんだいってよい雑誌だったよねとしみじみ語られて終焉を迎えられたはず。スタッフの氏名を確認すると、編集部は一人をのぞき総入れ替えのようで、アートディレクションも有山達也から藤本やすしに変わり、鈴木るみこも書いていない。そして坂崎千春の描くクウネルくんがいない。クウネルくんはどこに行ったのか? 失踪したのなら理由を知りたいし、死んだのなら弔ってほしい。リニューアル後の『クウネル』は、表紙もレイアウトもフォントも紙質もすべてがダサいという感動的な仕上がりで、どうして雑誌業界で名を馳せる面々が参画しながらこんなことになったのかと不思議である。よかれと思ってやったことがすべて裏目に出た、合成の誤謬だろうか。これだけいじくりまわしておいて新連載が松浦弥太郎という凡庸さにも呆れる。読者層は50代の女性を想定しているようだが、日本の50代女性はダサいとみずから実証してみせてどうする。

朝、アロエヨーグルト、珈琲。
昼、弁当。
夜、白米、大根とわかめの味噌汁、油揚げとピーマンの胡麻油炒め、蛸としらす、もやしのナムル、鯵のひらき。

Tuesday, January 19

テレビがないのでYouTubeで昨夜の「SMAP×SMAP」の映像を見る。ビストロSMAPにジャニー喜多川とメリー喜多川が来店する壮大な内輪コントだったらどうしようと心配したのだが杞憂に終わり、引きつった顔の中年男性たちが深刻に語る映像が流れた。

『クウネル』の定期購読を解約。『クウネル』リニューアルをそのへんの編集者がやってダメにしたのなら納得もできるが、よりによって淀川美代子がやってしまったという事実が残念でならない。淀川美代子に晩節を汚すようなことをしてほしくなかった。リニューアル前の『クウネル』的なものを一掃するのはそれはそれで結構だと思っていて、であるならば、感嘆させる刷新をしてほしかった。体裁も内容も中途半端なものなど望んでいない。リニューアルで普通の雑誌になったのであればまだマシだが、普通の雑誌よりひどいと思う。淀川美代子が編集長を務めていた『MAISHA』(昨年の春に休刊)を「ひどい」とはまったく思わなかったので、なにゆえこんな惨事を招いたのか不可解である。これは以前にも書いたことだけれど、いわゆる「生活系雑誌」として括られがちだが、『クウネル』はまったく生活系ではない。生活に役立つ家事の情報もあるにはあるが、後ろのほうにおまけ程度に載っているだけだ。また、市井の人びとの暮らしをとりあげているようにも見えるが、いわゆる一般的な賃金労働者はまず出てこない。自作のお弁当を紹介するページ以外で会社員が出てくることは稀である。登場するのはどうやって金を稼いでいるのか謎の人たち。それゆえ、どこか『クウネル』は地に足がついていない。よい意味で地に足のついていない雑誌だった。現実を取材しているのにうっすらフィクション性が宿っていた。逃れられるはずもない高度消費社会を括弧にいれている浮世離れ感がよかったのだ(人によってはこれが『クウネル』を敬遠する理由にもなる)。しかしその特徴ゆえに、売れなかったのだと思う。マイナーなのだ。部数が後発の生活系雑誌に抜かれるのも当然である。ジェンダー論的な解釈の適用が可能かどうかはわからないのだが、幸いにして(?)オリーブ少女の過去もなく、そもそも男性性であるわたしは『クウネル』に対して斜に構える複雑で面倒な理由が存在しないため、浮世離れ感が単純に好きだった。数ある日本の雑誌のなかで、体裁も内容もとてもよくできているとの認識で読み続けた。地に足のついていないフィクション性を了解したうえで。そもそも『クウネル』自身、キャッチコピーとして謳っていたのは「ストーリーのあるモノと暮らし」である。雑誌みずから物語を表明している。リニューアルなどせず休刊にすれば誰も不幸にならずに済んだのに。もしかしたら淀川美代子の時代を読む感性のほうが正確で、リニューアルした『クウネル』は売れるのかもしれない。もっともあんなのが売れる世界を、わたしは程度が低いと軽蔑するけれども。

朝、トースト、苺ジャム、サラダ、目玉焼き、ハム、珈琲。
昼、弁当。
夜、ピラフ、小松菜のスープ、ブルームーン。

Wednesday, January 20

インスタで朝昼晩の食事を逐一あげているのは、コメントの書きかたを含めて『クウネル』にあった「ただいま食事中。」のオマージュというか真似というか剽窃で、リニューアルでこのコーナーも消滅してしまうかもしれないと危惧してはじめた。消滅は現実となったので、「エブリデイ・マイ弁当」と「ただいま食事中。」は俺が継ぐ。

『週刊文春』や『週刊新潮』によるジャニーズ事務所の後期高齢者へのインタビューは、読者にまったく共感を呼ばないことで逆説的にジャニーズ事務所の旧態依然の傲慢さを炙り出すという大変まどろっこしい批評的態度のようにも見えるが、正攻法で攻撃する『噂の真相』のような雑誌がないとやはり面白みに欠ける。『噂の真相』だったら半笑いで読めるし。

本谷有希子が芥川賞を受賞し、スポーツ新聞の記事がYahoo!ニュースに登場したのだが、その見出しは「声優、女優、劇団主宰…「又吉後」芥川賞は超多才36歳美人ママ」とある。この品のない見出しはなんだろうか。本谷といえば「パルコカードの審査も通らなかったのに、本谷、PARCOで演劇やるよ」の本谷だろう。

植田実『集合住宅30講』(みすず書房)を読む。写真がたくさん掲載されていて嬉しい。植田実は「月刊みずず」でも建築について連載しているが、いかんせんこちらは文字だけで実際の建築写真や図面がないため、説明の文章からの想像に頼るほかなく、どうしても(わたしの想像力では)限界がある。

清田耕造『拡大する直接投資と日本企業』(NTT出版)を読む。日本企業の海外進出が国内雇用の低下につながるだとか、外資系企業はリストラが厳しいだとかの通説は、必ずしもデータに支持されているわけではない(根拠があるわけではない)ことを示す。

朝、トースト、サラダ、目玉焼き、珈琲。
昼、弁当。
夜、醤油ラーメン(生卵、玉葱、ハム、小葱)、麦酒。

Thursday, January 21

定期購読の解約も済ませたし『クウネル』リニューアル批判はもういいかなと個人的には沈静化に向かっているが、世間的には静かな盛りあがりをみせている模様。しかしこんな文脈で岡戸絹枝の『つるとはな』が注目を浴びるとは。ところで、リニューアルをめぐっては編集長の淀川美代子が批判の十字砲火を浴びているが、藤本やすしによるアートディレクションもひどいと思う。ほかの携わっている雑誌はひどい気はしないのでなんでこんな事態になったのか本当に不可解なのだが、50代女性という読者層の設定に引っぱられて失敗している感はある。なるべく読みやすいようにと中途半端にでかい文字サイズとか。あと、今回のリニューアルに関しては、50代女性の『クウネル』読者の見解を知りたい。

倉田徹+張彧暋『香港 中国と向き合う自由都市』(岩波新書)を読む。2014年香港反政府デモ(雨傘運動)に至るまでの経緯を論じながら現代香港を照射する好著。

現実のジャッキー・チェンは今や中国大陸にも進出し、香港人という身分にこだわる理由もなくなり、自称中国人、まさに「成龍=中国のシンボルである龍に成った」。元アイドル歌手で今は「日本人の奥さん」になったアグネス・チャンや、この成龍が政治的なコメントを発信しても、香港人、特に若い世代は強く反発する。彼らには、ジャッキーやアグネスの生き方は「もう香港人の感覚を持っていない」と感じられるからだ。ジャッキーはいまだ80年代の感覚だ。香港社会は変わったのに、彼らは変わらなかった。80年代に香港人意識が定着したのは確かだが、その意識は浅かった。香港映画が改革・開放後の中国に進出すると、80年代のスターである彼らは90年代以降の変わりゆく香港社会の感覚からはかけ離れていったのだ。
だがジャッキー・チェンだけではない。団塊世代の香港人のうち、まだ「香港人」を自認する人の割合はどれぐらいだろうか。香港映画を代表する数々の監督やスターたちは中国に進出するや、中国を受け入れて溶け込み、香港の自由に強くこだわる下の世代に文句を言う。彼らが変わったのではなく、香港が変わり、次世代が変わっただけなのだ。ジャッキー・チェンは何人か、誰にもわからなくなった。(pp.161-162)

朝、ピザトースト、珈琲。
昼、弁当。
夜、レッドカレー、人参サラダ、麦酒。

Friday, January 22

有給休暇。銀座にある「資生堂ギャラリー」「資生堂パーラー」「SHISEIDO THE GINZA」「資生堂銀座ビル」で開催中の「BEAUTY CROSSING GINZA 銀座+ラ・モード+資生堂」を見てまわる。SHISEIDO THE GINZAで山口晃の連載が始まった『銀座百点』を入手。東銀座に移動してcafe 634で昼食をとる。マガジンハウス本社の裏にあるカフェで『クウネル』リニューアルについて談義。淀川美代子はもう開き直って、淀川デストロイヤー美代子と改名するのはどうか。森岡書店に立ち寄り、山下陽子の展覧会を鑑賞。販売されていたアンドレイ・タルコフスキー『ホフマニアーナ』(前田和泉/訳、山下陽子/挿画、エクリ)は、既に鎌倉ブックフェスタで購入済み。六本木に移動し、ピラミデビルのギャラリーを遊覧。国立新美術館で「DOMANI・明日展」と「はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション」を鑑賞。DOMANIでは木島孝文の作品がよかった。夕食をとりながら、林雄司と住正徳のニコニコ生放送を見る。

朝、くるみパン、人参サラダ、玉葱とほうれん草のグリル、珈琲。
昼、CAFE 634にて。
夜、蛸とトマトとピーマンのパスタ、砂肝のアヒージョ、バゲット、赤ワイン。

Saturday, January 23

雪が降るかもしれないという予報のわりに、外はそれほど寒くなかった。iPadで『エコノミスト』誌を半分ほど読む。

朝、ホットケーキ、サラダ、珈琲。
昼、camp expressにて。
夜、鶏団子と白菜の鍋、麦酒。

Sunday, January 24

早朝にコンビニまで日経新聞を買いにいく以外、一歩も外から出ず。窓からのぞむ外界はとても寒そう。家のなかも寒い。読書、食事、昼寝、読書、ラジオ。青木淳悟『学校の近くの家』(新潮社)と『世界を食べよう! 東京外国語大学の世界料理』(沼野恭子/編、東京外国語大学出版会)を読了。InterFMで流れる湯山玲子の選曲を聴きながら夕食。

朝、トースト、苺ジャム、サラダ、珈琲。
昼、力うどん、麦酒。
夜、白米、ほうれん草と人参の中華風スープ、きゅうりの漬物、麻婆豆腐、春巻、麦酒。