Tuesday, April 14
病院の待合室で待つこと2時間、江國香織『金平糖の降るところ』(小学館文庫)を読み終える。読み終えてもまだまだ時間が余って困った。もう1冊持ってくるべきだった。
江國香織の小説は何年ぶりだろうか、おそらく5年ぶりくらいに読んで、ということは結婚してから初めて読んだのだった(江國作品のことを考えるに、“結婚”は重要な要素であると思う)。江國香織の小説を読むと、この世は恋と愛だけだと思いたい、恋愛に溺れていたい、恋愛に浸かっていないと生きていけない、好きな人のことを考えて浮かれたい、地に足なんか着きたくない、狂ってしまうくらい相手に恋したい、結婚してもそうしたい、この世は恋と愛だけでいいのだから、という思想を持つ自分自身のことを実感する。
Wednesday, April 15
やっと夫の熱がさがり、体調は回復基調に。やれやれ、だ。きょうは久しぶりに晴れた。やっと晴れてくれた。午前5時にはもう外は明るくて、朝の冴えた景色を見たくて、カーテンを開け、窓から見える舗道のハナミズキを眺め、ソファに座って、窓の外が徐々に色づいていくのをしばらく眺めた。窓からの景色を眺めるのと同じくらい、朝の白く薄い光線に浮かび上がる本棚と、本の背表紙を眺めるのも好きだ。ハナミズキは六分咲きといったところ。
きょうは家にある写真集と画集を、手当り次第に眺めるつもりだった。津田直『SAMELAND』、小笠原美環『WINDHAUCH』、アンドレイ・タルコフスキー『Instant Light』、米田知子『After the Thaw』、ミヒャエル・ボレマンス『Eating the Beard』、ダレン・アーモンド『The Civil Dawns』。結局6冊で時間切れだったけれど、どれも真剣にじっくり眺めると、とても時間がかかる。これらの本みな、もう幾度も手にとって、ともに時間を過ごしている。タルコフスキーのポラロイド写真に写っている家(自宅だろうか)、それとかニューヨークのジョナス・メカスの家も、窓辺に大きな机や長机を置いてたくさんのグリーンを並べている、あれはいいなあ、いつか絶対やりたい。
夜は、鶏肉のトマト煮込みと、サニーレタスときゅうりのサラダをつくる。
Thursday, April 16
このところお酒を飲む気にならなかったので、今夜、一週間ぶりの飲酒。トマトとかぶとベーコンのパスタとともに赤ワイン。久しぶりだったせいか、それほど飲んでいないにもかかわらず酔いがまわってしまい、本が読めなかった。そのかわり、ここ数日で無性に観たくなったOK GoのPV「I Won’t Let You Down」 ((OK Go – I Won’t Let You Down – Official Video))を、YouTubeでリピートして延々と観てしまった。これは曲もPVも大好きで、発売当初は何度も何度も観ていた。ちょうどその時、その半年ほど前から月刊『みすず』で鈴木晶の連載「いつも上天気」が始まり、ビアズリーのマスゲーム的振り付けについての記述を読んでいたところだったので、おお、これはなんてビアズリー的! と興奮したのだった。しかも傘を使ったパフォーマンスというものが昔から好きなのだ。ああわたしもパラソル持って踊りたいようと、踊れないくせに思う。で、きょうやっと、冒頭に出てくる3人の女性がPerfumeだということを知った。遅い。
Saturday, April 18
映画を観た翌朝は、必ず前の日に観た映画のことを考えるので、今朝は、ホットケーキ、ヨーグルト、珈琲の朝食をとりながら、昨夜DVDで観た『永遠の語らい』(マノエル・ド・オリヴェイラ監督、2003年)のいくつものシーンを思い出していた。この映画はいろいろな解釈が可能だし、驚愕のラストはインパクトあり過ぎてぽかーんとしてしまうほどで、全編通して面白いのだが、波止場で舫い船にくくりつけられた犬が、船が遠ざかるたびに必死で手足を踏ん張って岸壁から海に落ちまいとするシーン(しかも2回その動作がくり返される)、ああいうヘンなシーンを撮るのってなんとなくオリヴェイラっぽい。あと、港に着くたびに、さまざまなドラマを抱えて乗り込んでくる乗客を船上から見下ろす母親と娘が、常に同じ角度のカメラからとらえられる、あのショットが気になった。何かを暗示しているような、していないような。
支度をして、御茶ノ水へ。cafe104.5でフライドポテトとビール、スペシャルプレート(もち豚にベーコンを巻いて焼いたの、いんげん豆の煮込み、筍とスナップエンドウのソテー、サラダ、バゲット)をいただく。きょうは先週までの憂さ晴らしに、午前中からビールを飲んでやったぜ。店内を見回せば、この時間にお酒を嗜んでいるのは相変わらずわたしたちだけだった。わたしは量はもうそれほど飲まないけれど、常に飲んでいたいのだ、それはお酒を飲むとともに、お酒を飲むことで、美味しい食事を楽しみたい、というのがいちばんにある。美味しい食事を引き立たせるために、美味しいお酒を飲むこと。それはわたしの実家の家訓のひとつであるので、可能な限り遵守する所存。
The Whiteで、「金村修ワークショップ企画展 森谷雅人×石井保子「KAWASAKI/KAWAGOE」」を観る。石井さんが撮り続けている「家」シリーズ(シリーズ名は「houses」)は相変わらず素晴らしい。このシリーズ作品を観始めた当初は、これまで単に「家」だと思っていたものが「家」と思えなくなる面白さやアイロニカルな眼差し、仄かなユーモアに魅せられていた。けれど最近はそれらに加え、見れば見るほど薄ら寒さのようなものも感じて、この写真の、この作品の凄さをあらためて思い知らされることになっている。
その後、久しぶりに古本を漁り、漁り疲れてスタバで休憩する。ドイツのスパークリングウォーターを飲み、生クリームを添えたワッフルを食べながら、本日の戦利品『読書の現在 読書アンケート 1980〜1986』(みすず書房)と、吉田健一『絵空ごと・百鬼の会』(講談社文芸文庫)を愛でる。前者は、見つけた時、なんだこれはとのけぞった。みすず読書アンケート全記録みたいな本が出ていたとは知らなかった。全記録って、全記録ではないんだけど。1965年に始まったという読書アンケート特集の、なぜこの7年間だけ切り取ったんだろう。90年代版や2000年代版はないのかしら。気になる。そしてアンケートの回答者は丸山真男、木村敏、飯島耕一、吉田秀和、中井久夫などなど、まあ皆みすずには縁の深い著者たちではあるけれど、それにしても豪華な顔ぶれだ。これは資料として貴重だね! 嬉しい。あとちょっと驚いたのはみすず読書アンケートでしか名前を見ない(すみません、ご専門では大家でおられると思うのですが、如何せん昆虫学にはまったく疎いもので)、昆虫学者の小西正恭さんがこの年代にもずっと回答者に名を連ねていることだった。ともかく、この類いの本はちまちまと延々と読み続けて、ずっと読んでいられるけど、一体いつ読み終えるだろう。
それから三田線ですぃっと西巣鴨まで行き、大正大学ESPACE 空で「林典子写真展 アラ・カチュー キルギスの誘拐結婚」を観賞。正統派のドキュメンタリー写真であった。正統派のドキュメンタリー写真であることの良き点と悪しき点に思いをめぐらせつつ、しかしそれはそれとして、作品自体は大変興味深く観ることができた。
疲れて帰宅して、夜は、ミニトマトとベーコンとピーマンのアンチョビパスタ、バゲット、赤ワイン。