189

Monday, November 3

バルサミコ酢を買うと思い出すのは長尾智子『New Standard Dish』(柴田書店)にある「濃くて主張のある、魅力的な酢。原料はぶどう。値段も味もいろいろだけれど、一度に大量に使うものではないので、質の良いものを選びたい」との記述だ。本日食材の調達にむかった近所のスーパーにはバルサミコ酢は一種類しかおいていなくて、選択の余地はなかったが。

夜、牛肉とルッコラのサラダ、バゲットとレバーペースト、しめじと玉ねぎとミニトマトのコンソメスープ、赤ワイン。牛肉とルッコラのサラダの参考文献は、野口真紀『きょうのサラダ』(主婦と生活社)を使用。

Tuesday, November 4

『In-between 6 野村恵子 イタリア、スウェーデン』(EU・ジャパンフェスト日本委員会)を読む。ちょうど銀座ニコンサロンで野村恵子写真展をやっているのに気づいたのは、会期終了間近のこと。見逃してしまった。

夜、蛸と玉ねぎの白ワイン蒸しパスタにルッコラとナチュラルチーズをのせる。ビール。

Wednesday, November 5

ヘルシンキ現代美術館(キアズマ)の元館長が執筆したトーベ・ヤンソンの評伝、トゥーラ・カルヤライネン『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』(セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社)を読む。著者は、現在横浜のそごう美術館に巡回している、ヘルシンキのアテネウム美術館で開催された「トーベ・ヤンソン展」をキュレーションした人物でもある。日本ではヤンソンの仕事はムーミン一色に集約されているけれど、このたびの展覧会の意図は、「画家としてのヤンソン」にライトをあてて彼女の画業を包括的に紹介するというもの。ムーミンだけではないヤンソンの姿を浮かびあがらせる。著作にもその意図がうかがえる。だから本書の日本語訳の題名が「ムーミンの生みの親」との「説明つき」なのは、なんともな感じではある。

そごう美術館の展示は未見だが、この夏フィンランドを旅したので、アテネウム美術館で開催中だった「トーベ・ヤンソン展」をヘルシンキで見た。日本での巡回展はトゥーラ・カルヤライネン監修のもと再構成をしたものらしいので内容にどれほどの相違があるのかわからないけれど、決定的にちがっているのは「物販」だろう。日本の展覧会では、限定グッズや祖父江慎が手掛けた展覧会図録を販売するようで、展示をやりたいのか物販をやりたいのかわからない会場の模様が想像できるけれど、ヘルシンキでの展覧会では、そもそも図録がなかった。売り切れたのではなく、つくっていない。ムーミン関連のグッズもいちおうあるにはあるのだが、チケット売場の片隅にこじんまりおいてあるだけで、日本の展覧会にあるような物販攻勢はまるでなかった。展覧会自体は行列ができるほどの盛況だったので、潔いほどの商売っけなさに驚く。

夜、レッドカレー、ビール。

Thursday, November 6

きのう届いた『みすず』11月号(みすず書房)を会社の昼休みにドトールで読む。連載の大谷卓史「メディアの現在史」はとてもためになる内容で、「情報と法」をめぐる話を毎号たのしみにしているのだけれど、つぎのくだりは硬い文章に落とし込んだことで少しばかりおかしな事態になっているように思った。

自宅を訪問した暴漢に殺害されたライターの村崎百郎氏は『鬼畜のススメ』(データハウス)でごみ漁りが趣味と明かし、分別や廃棄時の裁断処理が行われていないごみは個人情報の宝庫と断言し、拾い集めたごみの一部を紹介した。個人が特定できない形での公開なのでプライバシー侵害とは言えないだろうが、ごみから個人情報を特定する行動には恐怖と嫌悪を覚えた読者も多いと思われる。

とあるのだが、このての話に恐怖と嫌悪を覚える人は『鬼畜のススメ』なんて本を読まないのではなかろうか。

帰宅したら『UP』11月号(東京大学出版会)が届いていた。ページをめくった冒頭にある松本文夫「模型の思考」にある、

本連載で紹介する模型の多くは、東京大学の学生によって制作されたものである。制作者は対象となる建築や設計者について情報を収集し、図面や写真から全体構成を読み込んで模型化していく。今回取りあげる「落水荘」は近代住宅の傑作として名高く、建築と周辺環境が密接に結びついた作品である。担当した今枝秀二郎君の果敢な取り組みが模型に結実した。

というくだりを読んで、この最後の一文にある名前、さっき見かけたような、と思って『みすず』掲載の森まゆみの連載「2020国立競技場の新築は必要か」を確認すると、建築家会館で開かれた公開勉強会の模様にふれて、つぎのように書いてある。

最後に東京大学三年生、今枝秀二郎さん、平山貴大さんが、大野秀敏教授の課題として、新築設計案を発表した。事前の与えられた土地とスタジアムに必要な機能についてのリサーチもよく整理されていて勉強になった。ザハ・ハディドはこのようなリサーチはしなかったに違いない。今枝さんの発表はイベントのない時も新国立競技場の中を通り抜ける歩道をもうけていた。座席を花びら型にすることで上り下りする傾斜を緩くすることもいい提案だと思えた。

ほぼ同時期にでた出版社のPR誌のふたつに名前が刻まれている。

夜、白米、油揚げと万能ねぎの味噌汁、エリンギとインゲンのオリーブ油バター炒め、焼き魚(鯵)、キムチ、ビール。

Friday, November 7

「The Economist」をiPadで。メインの記事はアメリカ中間選挙でオバマ民主党が惨敗した話。夜、醤油ラーメン(具は長ねぎ、万能ねぎ、牛肉、ほうれん草、生卵、コーン)、ビール。

Saturday, November 8

今にも雨の降りそうな曇天模様なか東京駅で下車。東京ステーションギャラリーで「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい」展を見学する。国鉄時代のキャンペーンの模様を健全なシニカルさでまとめた展示はとてもおもしろく、具体的な展覧会の内容は浅田彰の紹介文 [1]に詳しいのだけれど、ところで、あいかわらずの情報量で書かれたその文章のなかで圧倒的に共感するのはつぎのくだりである。

そもそも、入口の自動販売機で入場券を買ったあと、目の前の受付でそれを展覧会チケットと交換しなければならないというのは、一体どういうことだろう。

あと気になったのは、展覧会の終盤、北井一夫と中平卓馬の雑誌掲載の写真を展示しているのだけれど、出品数が少なくてずいぶん壁が余っていたことだ。ほかからもっと写真を調達できなかったのかな? 現在休館中の写美からとか。

丸の内側から八重洲側に徒歩移動し、ブリヂストン美術館で「ウィレム・デ・クーニング展」を見る。「女」の絵画を中心としたラインナップで、出品数は少なめ。ブリヂストン美術館に来ると常設にあるザオ・ウーキーの絵を見るのが毎度のたのしみ。

西村画廊での町田久美の展示を鑑賞ののち、東京スクエアガーデンに移動して「すぎのこ」で親子丼と鶏そばの昼食を済ます。さっきまで降っていた雨はやんだが、空模様は怪しげなまま。

東京国立近代美術館フィルムセンターで「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」展。ハリソン・フォードのインタビューがおもしろく、無名時代のじぶんを評価してくれたジャック・ドゥミのおかげで頑張ってこれたと語っていたのだがほんとかな?

LIXILブックギャラリーで高野文子『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)を買う。

警察博物館のピーポくんを横目に、ZEIT-FOTO SALONにむかって「5人の写真」展を見る。出品作家は北井一夫、オノデラユキ、鷹野隆大、楢橋朝子、浦上有紀。北井一夫がパリを撮ったカラー写真が素晴らしかった。

銀座にあるAppleの隣のビルで開催中の「エスプリ ディオール ディオールの世界」に入る。係の女性にパンフレットをわたされると同時に「ディオールへようこそ!」と声をかけられる。テンションとしては「デニーズへようこそ!」とほぼおなじである。地下一階から地上三階までディオールの世界が充溢している展示はファッション好きにはずっと楽しんでいられる煌びやかな空間になっている。アート好きには、名和晃平や宮永愛子がディオールのバッグをやりたい放題な感じにしている展示がみどころか。しかし銀座の一等地でこれだけの規模の展示でありながら、入場は無料。カネはあるところにはある。

銀座メゾンエルメスで「「逆転移」 リギョン展」を見る。ふたつ展示があって、床がツルツル滑るほうじゃない展示(と文章にしても意味不明だな)が行列だったので、次回銀座に来たときにまた訪れることにして退散。

山手線で有楽町から日暮里に移動し、SCAI THE BATHHOUSEで中西夏之「キアスム / chiasme」を鑑賞。

夕食の時間まで、カヤバ珈琲でカフェラテを片手にiPadで「The New Yorker」や「Newsweek」を読みつつ、しばし休憩。

千駄木のイタリアン露地で夕食。フォカッチャ、パテドカンパーニュ、ルッコラセルバチコとペコリーノチーズのサラダ、タコのラグーとポモドーロのパスタ、サラミ盛り合わせ、赤ワインを4杯飲んだところで終了。食べすぎて飲みすぎた。

酔いさましに古書ほうろうに寄って、片山廣子『燈火節』(月曜社)とシモーヌ・ヴェイユ『工場日記』(田辺保訳、講談社学芸文庫)を購入。どちらも欲しかった本で、さいわいにも穏当な値段。酔っているわりには正確な買いものをした。

Sunday, November 9

曇天、そして寒い。朝食にホットケーキを焼き、近所のスーパーで買いものを終えて、きのう見た展示を反芻するような読書をする。本棚から画集やらカタログやらを抜きだした。『町田久美画集』(青幻舎)、『ザオ・ウーキー展』(石橋財団ブリヂストン美術館)、『中西夏之 韻 洗濯バサミは攪拌行動を主張する 擦れ違い/遠のく紫 近づく白斑』(DIC川村記念美術館)、『ジャック・ドゥミ、結晶の罠』(東京日仏学院)を読む。

昼食は麻婆茄子の丼飯、トマトと卵の中華風スープ、ビール。

午後は、昼寝したり、津田直の写真集『SAMELAND』(limArt)を眺めたり、高野文子『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)を読んだり、朝永振一郎『物理学とは何だろうか』(岩波新書)下巻に所収の「科学と文明」を読んだりしているうちに、外は暗くなる。

夜、浅蜊と小松菜とトマトのパスタ、白ワイン。トゥーラ・カルヤライネン『ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン』(セルボ貴子・五十嵐淳訳、河出書房新社)のつづきを読む。

InterFMの「Barakan Beat」を聴いたら、テリー・ライリーが来日するという。来日公演の場所は東雲のTolot/heuristicとのこと。テリー・ライリーには是非ともそばにある「ゆで太郎」に行ってもらいたい。

  1. ふたたび「モーレツからビューティフルへ」?——東京ステーションギャラリーの冒険 []