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Monday, May 19

大阪発のリトルプレス『ぽかん』を学芸大学駅にあるSUNNY BOY BOOKSで入手したのは土曜日のこと。日曜日にじっくり熟読し、月曜日はその流れで『ぽかん』の名づけ親である山田稔が編訳した『フランス短篇傑作選』(岩波文庫)を読んだ。それにしても「ぽかん」っていい名前だなあ。リトルプレスに収められたおのおのの文章は、濃淡はあれどどこか寂寞とした印象を残すものが多くて、そこもよかった。『フランス短篇傑作選』のほうでは、いかにもフランス的な愛と情熱たっぷりの話よりも、歯医者への恨み節が綴られたマルセル・シュウォッブ「ある歯科医の話」なんかが好み。

ロンドンから定期購読したMONOCLEが、県外からは小さな雑誌が郵便受けに届いた。

Tuesday, May 20

夜、ヤマモリのレッドカレー、グリーンリーフと新玉ねぎとミニトマトとブルサンのチーズのサラダ、ピクルス。ヱビスの缶ビールを飲む。代々木公園でのタイフェスで、ヤマモリの売り子の男性がタイカレーのでかいパッケージを頭上に掲げていて、あれ欲しいなーと思ってしまった。もし家にあったら邪魔以外の何ものでもないだろうが、欲しい。あのでかいパッケージ。

Wednesday, May 21

読みたい本は数あれど、読む時間がない。会社でパソコンに向かっている時間がいちばん無駄だと悪態をつきながら、夜、ゴーヤチャンプルをつくる。

Thursday, May 22

夕暮れ、雷とともに沛然たる豪雨。すかさず東京アメッシュをひらく。雷雨のときに東京アメッシュを見ていると楽しい。しかし雷雨が起こってからアメッシュを見るなんていうのは素人のやることかもしれなくて、達人は快晴のときであっても、なんの動きもないWebの画面を眺めながら機微を愛でているかもしれない。

『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(2012)を自宅で。アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラという豪華監督陣によるオムニバス映画。カウリスマキはどこで撮ろうが悲哀たっぷりの切ないカウリスマキ映画になるのがよくて、ペドロ・コスタはエレベーターのなかでストローブ=ユイレをやってる感じで(と文章にするとまったく意味不明だが)、オリヴェイラは観光客に対するちょっと意地悪なウィットを含みながらポルトガルの歴史を抽出する。しかし期待したエリセの作品がちょっと退屈で、見ながら飲んでいたヱビスの缶ビールのせいもあって、途中で寝てしまった。期待値が高すぎたか。閉鎖した紡績繊維工場が舞台というという設定も素晴らしいし、劈頭のシーンの美しさにも打たれたのだが、その後がかつて工場に勤めていた人々のインタビューが延々つづくというのはしんどかった。

Friday, May 23

デジタル版のエコノミスト誌を読む媒体として、iPhoneかiPadかWebかで試したところiPhoneがいちばん読みやすいという個人の感想にたどり着く。ニューヨーカー誌とアトランティック誌はiPadが読みやすい。ところで、ニューヨーカー誌とアトランティック誌って、デジタル版だと一冊あたりドトールでブレンドコーヒーSサイズ一杯を飲むより安い。デジタル版が安いのかコーヒーが高いのか。エコノミスト誌の場合は少々お高くて、ブレンドコーヒーSサイズ一杯を飲むよりは高くて、一冊あたり、スターバックスで抹茶クリームフラペチーノのトールサイズを飲むのとおなじくらいの値段である。話変わって、フラペチーノで思い出したが、スタバでフラペチーノ系を注文すると、飲み終えたころのプラスチックカップがたいへんきたならしい事態に陥るのを解決する手立てはあるのだろうか。

Saturday, May 24

ミシェル・アザナヴィシウス監督が撮った『アーティスト』(2011)の不幸は、アカデミー賞などという御大層なものを受賞してしまったことにある気がして、そんな賞レースに参加しなければ小粋な逸品として愛される作品だっただろうに。おなじ監督が『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』(2006)なんていうタイトルからして脱力する「出オチ」のような映画を撮っていると知り、さっそくツタヤで借りてきた。言うまでもなくジェームズ・ボンドのパロディ作品だが、パロディでない独特のくだらないギャグも満載。わざとやっているのだろうけれど、人種差別、性差別、植民地主義、動物虐待がてんこ盛りで、怒られなかったのか、これ。

午後、街へ。東京国立近代美術館で「映画をめぐる美術 マルセル・ブロータースから始める」展をみる。とても意欲的な試みで、すべてを欠くことなく真剣に鑑賞しようとしたら丸一日かかるだろう充実した内容だった。今回の展示は、京都国立近代美術館からの巡回展のようだが、東京国立近代美術館では美術を新たな角度から照射する企画をたまにやっていて、思い出すところでは「痕跡 戦後美術における身体と思考」とか、とてもよかった。しかしこれ、調べてみたら2005年の展示。思い出すものが古い。

竹橋から靖国神社の方面まで徒歩で向かおうと、緑の映える北の丸公園を散歩する。横目には日本武道館。午後5時前、ガエ・アウレンティ設計のスタイリッシュな建築物、イタリア文化会館に到着。Wikipediaによれば皇居近くに真っ赤な建物ということで景観論争があったらしい。イタリアの女優で写真家のキアラ・カセッリによる「Il giardino 庭園」展をみる。

九段下から銀座に移動。資生堂ギャラリーで「椿会展」をみる。明日で会期終了の展示で時間がなければ諦めようと思っていたのだが、畠山直哉の写真をみてやっぱり来ておいてよかったと思う。内藤礼の作品を畠山直哉が写真に収めたものがならぶギャラリー小柳での展示(タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください))もあわせて鑑賞。

銀座から神楽坂に移っての夕食は、「酉玉」で焼鳥。今月はやや出費が多かったので節約のために外食は控えようと志は高くもつ。行動が伴わなくとも、志は大切だ。胃袋は膨らみ、財布は軽くなる。

Sunday, May 25

髪を切り、買い物を済ます、なんということのない明日の月曜日に怯える日曜日。昼食は蛸とベーコンとピーマンを白ワインで蒸し、パスタと和えて、最後に水菜をのせる。昼間からビール。

MONOCLEを読んでいたら六本木にあるIMA CONCEPT STOREの紹介があるのだが、Ima(“Now”) is a commercial gallery, cafe and bookshop…と書いてあって、IMAって「なう」だったののか。あんな小洒落た施設なのに「なう」。いいのか「なう」で。

夕暮れ時に、フランスの赤ワインの栓を抜き、陽が落ちてから、グリーンリーフ、玉ねぎ、きゅうり、コーン、蛸のサラダを和風ドレッシングで。サントリーモルツの缶ビールをもう一本。