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Monday, November 4

東京都写真美術館で開催中の「須田一政 凪の片」展を観る。須田一政の作品をまとめてじっくり観たのは初めてだ。とても良かった。図録を読んだら大辻清司が須田一政の写真について、須田はいつも今だ、というショットのポイントから少しずらして撮る、それが絶妙な揺らぎを生み出している、というような内容のことを語った言葉が引用されていた。併せて「写真新世紀東京展」も観た。

ガーデンプレイスにクリスマスツリーがお目見え。バカラのシャンデリアも。この恵比寿の風物詩をかれこれ10年以上見続けている。クリスマスツリーとシャンデリアがセットになったような恵比寿ガーデンプレイスのクリスマス、大好きだ。シャンデリアを恋人と一緒に見に行くことにはまったく興味がなかった、ガーデンプレイスや写真美術館に映画や写真を観に行って、その帰り、作品の余韻に少し高揚感をおぼえながらひとりで眺めるシャンデリアがただただ大好きだった。二十代だったわたし、まだまだ子ども時代に居たわたし。いまとは決定的に何かが違う。

今年もナディッフで翌年のカレンダーを購入し、原宿まで移動してZipZapでギネスビールを飲む。休んでいるうちに雨が降り出して、けっこう本降りに。足下を濡らしながらラフォーレミュージアム原宿まで歩いて「加茂克也展 100 HEADPIECES」を観る。加茂克也はジュンヤワタナベ・コム デ ギャルソンやアンダーカバー、シャネル、ミンドデザインズ、フェンディなどのコレクションを手がけるヘアデザイナー。今回の展覧会では彼のこれまでの作品を一望できるとのことで、いままで加茂克也という名前と存在はまったく知らなかったが、作品を観ると、おお! あの時のコレクション、これはあの時の! と彼がデザインしたヘッドピースをつけてランウェイを歩くモデルたちの姿が思い浮かぶ。わたしの記憶が正しければ、たとえば2001年のアンダーカバーや2008年のジュンヤ、2000年代中頃のミントデザインズなどで見た非常に迫力のあるヘッドピース、それらはみな加茂克也によって生み出されたものだったのだ。椎名林檎のコンサートで彼女がかぶる装飾的な帽子に目がいってしまうように、頭部に施す装飾がとても好きなので、大変に楽しめる展覧会だった。

新しくできたマーク・ジェイコブスの本屋さん「BOOKMARC」をひやかし、エスパス ルイ・ヴィトンで森万里子の展示「Infinite Renew (無限の再生)」を観て、渋谷のGREEN GRILLでブロッコリーとエビの小鍋、トマトリゾットの小鍋、じゃがいもと砂肝の小鍋、牛肉のグリル(かぶのソテーのほうれん草ソースを添えて)、グリーン野菜のペペロンチーノ、赤ワインを食べて帰宅。嗚呼、お昼も外食(Rue Favartで食べた)、夜も外食。散財だ。少し節約しなければならない。

Thursday, November 7

ミヅマアートギャラリーで「ジェーン・リー展 秘密の庭」を観る。

パンフレットで南條史生が「本来絵画は二次元の平面の上に、三次元の物体の擬似的虚像を浮かび上がらせる幻術に近い技術であったはずだ。それは遠近法や明暗、影、輪郭の操作で行われた複雑な視覚の操作であった。しかし、もし素材の絵の具そのものが、絵画の平面から独立して立ち上がり、さらにはキャンパスから決裂していったら、それは絵画と言えるだろうか。イメージが支持体から独立するという革命。絵の具が彫刻になるという転換。」と書くように、今回初めて観たジェーン・リーの作品は、キャンバスに無数の色が細かに散りばめられている! と思って近づいて見るとそれらはキャンバスの布を細く切り刻み、幾重にも重ねて絵の具をのせた立体的なもので、おびただしい花びらをもった花あるいはリボンかと見まがう物体がキャンバスから立ち上がっていることがわかる。その形態と色調がなかなか魅力的で、独特の親密さとポエジーをたたえていて、この人はこれから日本で人気が出そうな気がした。

帰り道はすっかり日が落ちて、暗闇に灯りを点すCANAL CAFEを右手に眺めながら歩く。1月とか2月とかいちばん寒い時期に、灯りがゆらゆら揺らめくお堀の水面を見ながらCANAL CAFEで夕ごはんを食べたい。

帰宅して夜の食事は、鶏肉、卵、長ねぎ、小ねぎをのせたカレーうどん、ビール。

Saturday, November 9

駒場の日本民藝館に「特別展 柳宗理の観見てきたもの」を観に行く。日本民藝館は何度来てもいいところだ。特に2階の、水瓶がぽつぽつと並ぶ窓が大好きで、いつまででも眺めていられる。展示では、布全部、アフリカのお面、チベットの民族衣装を熱心に観る。作品が置かれた棚や机、あと椅子なども熱心に見る。民藝館の向かい、本日開放の西館(旧柳宗悦邸)も見に行く。宗悦の書斎を見に行く、と言ってもいい。宗悦の蔵書が部屋の三方をずらりと埋める光景が素晴らしい。

その後、すぐそばの日本近代文学館に移動して「新収蔵資料展」を観る。ニュースで取り上げられて話題にもなった、太宰がノートに「芥川芥川芥川芥川芥川」と書き連ねた、件の落書きが見れた! 嬉しい。この文学館の受付でいつももらえる可愛いハガキ、石川啄木『あこがれ』と北原白秋『桐の花』の表紙絵だった(2人分で、2枚)。

最後に駅前の河野書店で古本を漁り、中上健次『紀州 木の国・根の国物語』、『ユリイカ 総特集:ソクーロフ』(1996年8月臨時増刊)、あと洋書を2冊お買い上げして、駒場遊覧は終了。駒場東大前は静かでいい街だなあ、もともと好きな街で、一度ここに住みたくて物件を調べようとしたことがあった。勤めていた会社の場所の関係でやめたけれど、いま思えば家賃相場が高すぎたかもしれないな。

渋谷まで戻ってきて美登利寿司でお昼を済ませた後、Bunkamura ザ・ミュージアムで「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」、すぐそばにあるギャラリーATSUKOBAROUHで「植田正治の道楽カメラ」を観て帰る。懸念していた雨は降らず、干して出かけた洗濯物は無事だった。

Sunday, November 10

毎日なんやかんやといそがしい。それに反して、わたしはまったくのんきな人間だなあ、とさまざまな局面で思う。

午前中は買い物に行って食材を調達し、かぼちゃの煮物、リボンにんじんのピクルス、赤パプリカのピクルスなどつくる。リボンにんじんとはピーラーでひらひらむいたにんじんのこと、リボンという発音が好きなのでそう呼ぶ。午後、いつもの珈琲の美味しいカフェ(これからは珈琲店と呼ぼうかしら)で、珈琲とチーズケーキをおともに読書。ひどい眠気で、辛い。眠ることがそれほど好きではないからできる限り眠りたくない。目覚めていたい。眠気を追い払うため、台所に立ってかぶとペコロスのソテーをつくる。ぱくっと味見をする。オリーブオイルと塩胡椒で炒めるだけで、なぜにこんなに美味しいんだろうねえ。そんなこんなでどうにかやり過ごし、お風呂に入って、夕ごはん、鱈とほうれん草としめじのパスタ、赤ワイン。身体の不調を鑑みてしばらく控えていたワインをついに解禁してしまったが、目の炎症への影響は大丈夫だろうか。だいぶ良くなってきたとは思うけど。グラスに一杯、二杯……、くらいなら平気かな。それにしても日々というものはよくもこう食べる、飲むという行為に支配されていることよ。