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Saturday, August 17

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コペンハーゲン 2日目

6時頃起床。日記用にメモをとる。ホテルのレストランで美味しい朝食をいただく。

本日はコペンハーゲン中心部を観光。雨のそぼ降る午前中は、デンマーク国立美術館(ハンマースホイの部屋がある)、ヒアシュプロング美術館(ハンマースホイの一角がある)、そしてダビデ・コレクション(ハンマースホイの部屋がある)をめぐり、ハンマースホイ巡礼の旅を完結させる。きのうオードロップゴー美術館で手に入れた図録と、昨年ブリュッセルで買った図録を捲りながら、きょう訪れるハンマースホイに満たされた場所をひとつひとつ思い返すことになるだろう。

それにしても雨の異国の美術館というのは、傘が邪魔! とか、快晴だったらよかったのに! とか、そのときは思うものの、後々思い出すと味わい深いものがある。それにパリでルーブル、オルセー、ポンピドゥーとまわったときにも実感したけれど、どこに行くにも何を買うにも自らの意志を伝えることにも相手の意向を汲み取ることにも大なり小なりの苦痛が伴う異国では、ある程度の時間を過ごすとどうしたって疲弊してきて、でもひとたび美術館に入ってしまえばこの空間に守られているという安心感に包まれる。人種も言葉も習慣も違っても、美術館という場所に身を浸しているわたしたちの間では、壁は取り払われる。たとえ楽観的、牧歌的、といわれても、そう感じる。

午後は、デザイン博物館デンマークでヤコブセン、アアルト、ヴェルナー・パントン、ザハ・ハディドなどなどがデザインしたたくさんの椅子を観て、庭のカフェで変わりやすいヨーロッパの天候を気にしつつりんごジュースを飲んでいたら明るい日が射してきたので、急いで次の目的地に向かう。向かう先はコペンハーゲン屈指の観光地点、ニューハウン。

アンデルセンの人魚像やカステレット要塞をかすめ、海岸通りとも呼びたくなる運河沿いの道をてくてく歩く(水上バスに乗りたかったのだが、満員で乗れず)。対岸にオペラハウスが見える。たくさんの船が停泊していて、その様子を眺めるのもとても楽しい。歩いているうちにみるみる頭上の雲が流れ、青い空が広がり始めた。ほどなくニューハウンに到着。運河の両側にカラフルな木造家屋がびっちりと並ぶ眺めは独創的で壮観だ。もともとは船乗りたちが旅の疲れを癒す酒屋街だったそうだ。このカラフルな街並みを紺碧の空をバックに写真に撮ることも今回の大きな目的のひとつだったが、完璧なタイミングでそれを遂行することができてわたしはすっかり有頂天。次はここでビールを飲むことを目標にしよう。

その後、黒光りするガラス張りの王立図書館、ブラック・ダイヤモンドに潜入。入館者が黙々と読書に耽る様子や文献を読みあさる様子は伺えなかったけれど、閲覧室はもっと奥なのだろうか。薄暗い館内からガラス越しに運河を走る船を見て、こんな場所が近所にあったらなあ、とため息をついた。屋外のテラスでは多くの人が寛いでいる。図書館を出て、運河沿いのボードウォークに座って目の前の景色に見惚れた。それにしてもすっかり天気が良くなって、良くなり過ぎちゃって、暑くて辛い。こんなに晴れるとは聞いてない。そばの水上バス乗り場に水上バスが来たので、これが最後のチャンスとばかりに乗り込んだら反対側に進んでしまった。仕方なく次の乗り場 [1]で降り、逆方向の水上バスに乗り換えて元来た道を戻って、ハンマースホイの住まいがあったと言われるクリスチャンハウン界隈を散策して(住まいがあったという痕跡などは得られず)、ホテルに帰着。

夜は迷った末、コペンハーゲン中央駅目の前に建つチボリ公園で食べることに。チボリ公園は1843年オープン、ウォルト・ディズニーも参考にしたという伝統ある遊園地だ。町の真ん中にこういう場所があるのは意外な気もするけれど、東京の後楽園遊園地も同じようなものか。グロッケンというレストラン(店内の雰囲気がどことなくひと昔前の雰囲気で、ダサ可愛かった)でベイビーリーフとさいの目切りのトマトが下に敷かれたビーフステーキ、ひとくちサイズのじゃがいもの付け合わせ、そしてビールをいただく。じゃがいもはベルギーでいうところのフリッツ(フライドポテト)状態で、てんこ盛りになって出てくる。その美味しさといったら。鬼のような量をあっという間にたいらげる。

食後、園内を散策。子どもの頃はジェットコースターやアクロバティックな遊具が大好きだったため、ぐるんぐるんまわる空中ブランコやジェットコースター、フリーフォールを見ているとちょっと乗りたい気もするけれど、もうそんな欲求はなく、今となっては乗っている人たちの様子を眺めているほうが楽しいのだった。まだまだ完全に日は落ちず、夕暮れのなかで輝くポップなイルミネーションは美しく感傷的で、ああ、いい場所にいるなあ、いまのこの時間ならずっと続いても悪くないな、と思った。

あしたはスウェーデンに移動するので、デンマークで過ごす夜はきょうが最後。チボリ公園で楽しそうにはしゃぐ大人と子どもを見ながら、いままでの旅程をぼんやりとふりかえる。とにかくデンマークというのは穏やかな国だった。コペンハーゲンは素晴らしくいい街だった。たった2、3日の滞在でも、そうした印象は真実の一片になる。人は皆穏やかで、異国の観光都市特有の危険もほとんど感じることがなく、じぶんのホーム・東京にいるときと何ら変わらない、と感じる瞬間がたびたびあった。空気も人も建築もクセがなく、さらっとした感じ。洗練されてるけど、され過ぎてもいない。とりわけデンマークの女の子たちには感心してしまった。総じてファッションはシンプルかつガーリーで、肌は綺麗で上品な人が多く、とても素敵だった。パリの女の子もいいけれど、デンマークの女の子のほうが好みかもしれない。

  1. 70年代の日本のメタボリズム建築ですか? と問いたくなるような、何やらキッカイな建造物(マンション?)がそびえ立つ場所だった。 []